幕間 記憶Ⅱ
暴力の権化の誕生。
訪れる平穏の綻び。
シャワーを浴びながら自分の体についた血を洗い流す。
何もなかった様に、獣を狩った様な素振りで自分の体に付着したモノを洗い流し続ける。
フレイヤの体をスカディは洗うも彼女は既に恐怖が体を蝕んでおり、思い出したく無い記憶がフラッシュバックし、吐瀉物を撒き散らした。
しかし、それをニエルドは優しく洗い流すと兄妹の体を拭いて、新しい服を取り出してそれを皆んなに着させ、彼らに喋りかける。
「お前達は俺の兄妹だ、お前達は俺が守る。だから、お前達は俺の言うことだけを聞け。兄妹以外を信じるな」
「お父様とお母様は?」
スカディの問いにニエルドは答えること無く、彼女に新しい服を渡して着替えさせた。全員が服を着替え終えるとニエルドは彼らの方向を見る事なく、自分について来いと言わんばかりにドアを開ける。
すると、目の前には数十と夥しい量の武器の数々が幼い彼らに向けられており、その真ん中には自分達を裏切った側近の男が立っていた。
ニエルドはそれらを気にすること無く、側近の男を睨みつけると男はニヤニヤと笑みを零しながら声を発した。
「同志諸君の血の海は見るに耐えないモノだった。あの地獄は君が生んだものかな?」
「だとしたらどうする?」
「そうかそうか。なら、残念だ。君達は大人しく死を受け入れるべきだった。君達、長の一族は、生命武器の力を二つ使えると言うだけの一族でただ、凡夫。それを明かすべきだった。故に、私が君達の一族の武器、生命武器を殺す事が許された悪魔の宿りし、この槍を手にしている。この事で、もう首都長に価値は無くなった。だから、死んでくれ。大人しく、抵抗せずに死んでくれたら死体で遊ぶ趣味がない奴ら以外は手をつけない事を約束するからさ」
男は自らが負けないと言う圧倒的な自信により、ニエルド達を、いや、ニエルドと言う小さい幼子に油断をしていた。ただ、一刺しで終わる子供の事など、この後、訪れる自分の時代からしたらほんの少しの些細な壁であり、華やかしい未来に目が眩み、その足を掬われる。
「生命解放、第五強欲」
少年の一言に男は驚くも、その槍は主人の声に応え、彼の手から離れるとニエルドの中にそれは収まった。そして、ニエルドはそれに眠る悪魔に口を開く。
「なぁ、強欲の悪魔。俺は今、奪われる恐怖を知った。兄妹が自分の力不足で、己の実力が伴わなかったせいで失いかけた。だから、お前の力を寄越せ。渡さないなら奪い取る。俺は奪われるくらいなら奪って、奪って、奪い尽くす。全てを力でだ。お前はその奪い尽くす俺の姿を特等席で見せてやる。だから、俺に従え」
強欲の悪魔はそれに応える様に光ると蒼く輝いていた槍は黒く、全てを塗りたくる様な黒へと自らを染め上げた。
側近の男は自分の未来が遠ざかった事に腹を立て、部下にニエルドの処理を命じるも時は既に遅く、三叉の槍は突きではなく横に振られており、ゴロンという音と共に顔が転げ落ちた。
仲間の顔と首が離れた事に気づいた瞬間、兵士達は子供に目掛けて銃口を向けるもそれは向ける言う行為すら許さず、自らの体に穴が空いたと気づく事なく命が途絶える。
今のニエルドは欲していた。
そこに居る者たちの全ての命を。
そこに居る兄妹達の敵になる者達の自由を。
目覚めた暴力の権化は強欲の力を使いながら奪い尽くす。奪える物を全て、全て、全て、全て、全て、悉く奪い尽くす。
首を落としてはその顔を蹴り飛ばし、他の兵に打つけるとそれに目掛けて槍を放つ。槍は的確に心臓を貫き、武器がなくなった彼に向かい武器を構え、攻撃を仕掛ける兵は片腕のみで頭をぐちゃりと言う音と共に潰した。恐怖で何も出来なくなった兵に対しても容赦はなく、そこに居るものの全てを奪い尽くす。
そして、側近の男はヘタリと座り込むとそこに血の海が生まれ、グチャグチャと自らの服を汚し、少年を前にして、自らの降伏の意を示す為に手を上げた。
「す、すまなかった。許してくれないか」
「お前がやって来た事が許されると思うか?」
会話は途切れるとそこには側近の男であった物である何かが八つ裂きにしてばら撒かれ、ニエルドは扉を開く。
スカディとヘズはフレイヤの目を隠し、彼女に目の前にある地獄を見せず、自らはその鮮烈なまでの光景を目に焼き付け、血に塗られた道を歩き始めた。
そして、扉を開くと目の前には愛すべき父に槍が突き刺さっており、元は彼が座っていた椅子にニエルドが座っていた。
父は心臓を一突きで貫かれており、口から大量の血が流れ落ち、それに母が泣きながら彼の体に治癒をしようと無駄な努力をしている。
スカディの脳裏にはかつて過ごした記憶がフラッシュバックし、その処理が追いつかず、膨大な量の記憶がその蒼く美しかった髪を白く染め上げた。
「「お父様!!」」
ヘズとフレイヤは彼の元に向かい、その冷たくなっていく父を見ながら涙を流す。
ニエルドはそれに一切目を向ける事はなく、そんな彼をスカディは逆に睨みつけた。
「なんで、なんでお父様、殺す必要があったの!ニエルド!教えて、いや、教えなさい!」
「黙れよ、スカディ、俺は今疲れてる。それ以上何か言うので有れば、お前でも容赦しないぞ」
これはスカディの冬の記憶。
かつての優しき兄は既におらず、目の前に立つ何かに怒りと悲しみをぶつけた。
そして、二人の兄妹の溝はここで深まり、決別の日へとそれは流れていく。
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