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第三節 悲しみ

第三節 悲しみ




それは、松本が小学校二年生、秋の時の話。


松本達は生活科の授業を受けていた。今回は前々から育てていたお芋を、枯葉で焼いて食べる様だ。




「楽しみー」


「美味しそうだなー」




生徒達は期待に胸を躍らせていた。




一同は畑に辿り着いた。担任が明るく声を上げる。


「皆居ますね? それじゃあお芋を収穫しましょう!」




「ズボォオ」


「ズッボ」




お芋は、次々と畑から引き抜かれていった。




「おっきいの採れたぞー」


「なんか変な形だあー」


「これ、二本の足が生えているみたいー」




生徒達はそれぞれにお芋を収穫していった。


「皆採れたかな? さぁ、畑を下りて、お芋を洗いましょう」


一同は畑を下り、お芋を食べるべく、水道でそれを洗う様だ。


(泥が付いていたら食えないもんな)


松本もお芋を食べようと、丁寧にお芋を洗った。




十数分後――、


「サッサッ」


生徒達はほうきで枯葉を集めていた。これに火を点けてお芋を焼くらしい。


「皆ぁ―、これからアルミホイルを巻いたお芋を焼きますよー」


担任の一声で、焼き芋作りが始まる。




――数十分、芋が焼かれた。


「そろそろ頃合いかな? 皆、お芋を取り出しましょう」


ほくほくの焼き芋が出来上がった。




「はふっはふっ」


「あっちぃー」


「熱いけどおいひーぉ」




生徒達は、はしゃぎながら焼き芋を食べる。


(旨いな……)


松本も静かに焼き芋をたしなんだ。




数分後――、




「あー、美味しかった!」




生徒達は全員、焼き芋を食べ、教室に帰ろうとしていた。


「!」


松本は気付いた。芋を掘る際に使ったスコップ類が、そのまま片付けられずに放置されているコトに――。


(仕方ねぇな)


松本は一人でそれを片付けるべく、スコップ類を5つ、手に持った。




「あっ!」




「!」


松本は振り向いた。『あっ』という声のする方へ――。


そこには片付けられずに残ったスコップに気付いた、渡辺紗希の姿があった。残るスコップ類は3つ。女子でも容易に片づけられる量と、松本は判断した。松本は残りのスコップ類を渡辺紗希に任せ、5つのスコップ類を片付けた後、教室に戻った。




その日の帰りの会――、


担任が興奮した様子で話を始めた。


「紗希ちゃんだけが片付けに気付いて!」






「!!」






松本は驚愕した。『渡辺紗希だけが?』片付けたのは渡辺紗希だけではない。俺も片付けた、なのにどうして? 松本の頭にはそういった言葉が浮かんでいた。むしろ松本は先に片付けていて、渡辺紗希はそれに気付いて、松本に触発されて片付けをした。しかも、松本は5つ、渡辺紗希は3つのスコップ類を片付けており、松本の方が多くのスコップ類を片付けていた。


小学校二年生だった松本は、『良いコトをしたので褒めてもらいたい』という当たり前の感情がわき上げてきた。


「センセー、俺も片付けを……」


「それでねー、渡辺紗希ちゃんは……」




「!!」




担任は松本をガン無視して話を続ける。


「ちぇっ。俺も片付けたのに……むしろ初めに動いたのは……」


松本はぶつくさ呟いていた。


(き……気まずい……)


渡辺紗希はそっと思った。


「くっそ、何で俺は……」


松本は未だに呟いていた。




『良いコトをしたので褒めてもらいたい』




当たり前の感情を持った松本は不服だった。せっかく自分から動いたのに、担任は気付いてくれないのか? 担任を見る。


「それでね、……」


相変わらず松本はガン無視されていた。


「くっそ……」


松本は下を向いた。


すると――、






「黙りなさい!!」






「!?」




「私が話しているに! ぶつくさぶつくさと!!」






「!!」






当時小二の松本は泣きそうになった。


「黙っときなさい!!!!」


「!」


松本はまた、下を向いた。そして松本は学んだ。




『誰が、どう見ても、他人にとって良いコト、善行を行ったとしても、褒めてもらえるとは限らない』




と――。

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