5.そして配信へ
2020年2月。
COVID-19がまだ新型コロナウイルスだった頃。
……あれ、今でも新型コロナで通ってるじゃないか。みんな正式名称を何だと思ってるんだよ。ちゃんとCOVID-19って呼んでやりなよ。豊臣秀吉をいつまでも木下藤吉郎って呼ぶようなものだよ。いつまで金目教がはびこってるんだよ。でもそれはそれでエモい関係性だな。許す、通ってよし!
さて、激動の年度末と年度始めのおかげで遠い遠い昔のように思えてしまう。だが遠い遠い昔になってしまったのは私の筆がなかなか進まないという自己責任である。私もちょっと忘れかけているので、遠い遠い昔、1月にもらったダイレクトメッセージを振り返ろう。
『つきましては、ご投稿頂いた作品を2月配信にて朗読させて頂きたくご連絡致しました』
そう。2月だ。この月に、私の投稿作がサカイメの書架でオンエアされる。
それだけを心の支えに、いやそれはちょっと言いすぎだけど、毎日買って帰るストロングゼロとか毎週日曜日の朝番組とかにも支えてもらっていたけど、結局のところ楽しみが増えるのはいいことだと結論づけよう。そうしよう。そんなわけで、私は毎週金曜日の配信をうずうずして見ていた。
再びおさらいである。
サカイメの書架、2月分のお題は「お菓子」と「ヒーロー」。私は数で勝負する140字小説にものをいわせ、両方に応募した。
自信があったのは、もちろん「ヒーロー」だ。先に述べたとおり、私は毎週日曜日の朝に特別元気になる類の人間なのだ。一家言ある。はず。
できたものは多少くたびれているが、おかしいなもうちょっと希望みを感じるものが書けると思っていたのだが、まあその時そのお題を貰った私に書けるものはそれだったということだ。人との出会いと同じように、書いたものとも一期一会ってことでひとつ。
2月7日。第一金曜日。
読み上げられたのはnightwalker氏の作品であった。
なるほど、最初は「お菓子」からいくのか。そういえば来週は2月14日のバレンタインデー。それに合わせているのだろう。なるほどなあ……なんて白々しく言ってみるが、「お菓子」のお題にバレンタインのチョコづくりなんて狙いまくりのお話を提出した私に言い逃れはできない。
何にせよ、「ヒーロー」が回ってくるのは下旬になるな。
ということで、いくらかリラックスして迎えた次週2月14日、第二金曜日。
リスナーの耳に届いた物語は。
お菓子作りにおいて、「好きに作れ」は通用しない。設計図通りに組み上げるものであり、愛情なんて異物混入はもってのほか。そうして完成したものを眺めるけど、はて、誰のために作っていたのかしら。思い出せなかったので自分で食べた。これならもっと好きに作ってもよかったな。
私の投稿作だった。
そっちかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
完全に油断していた。
私は「ヒーロー」で投稿したものが採用されたとばかり思っていたのだ。まさか、あんなにくたびれた感じの「お菓子」の方だったとは……いや両方くたびれてるじゃん、疲れてたんだなあの時の私……。
しかし。
予想外ではあったが、それだけに、新鮮な気持ちで嬉しかった。
作品が、自分の手を離れて、他の誰かに手によって世に出る。
それがいかにありがたく、幸せなことか。
ヒーローについては一家言ある。今でもそう思っているが、ちょっと意固地になりすぎて、押し付けがましかったのかもしれない。主義主張は一人で振りかざすものだ。それに自信なんていう命綱を括り付けて振り回してたらそれこそ誰も寄って来ない。
せっかくの投稿作なのだ。朗読してもらえることを意識して、角掛さんが声に出して読んでみたくなるような、また私もどんな風に読んでくださるのか楽しみにできるような、そんなお話を書いてみよう。たとえば、役者さんが思わず挑戦したくなるような台詞を入れたりして……。
そんな狙いがどう結実したかは、3月27日分の配信をご覧いただきたい。
たいへん満足しました。ありがとうございます。
「あ゛な゛た゛に゛は゛わ゛か゛ら゛な゛い゛でし゛ょう゛ね゛!」