デスラビット2
状況は最悪。スライム6体を向こうの通路に置き去りにして、デスラビットが僕の首を噛みちぎろうと必死に牙を押し付けてくる。その様はさながら理性の外れたゾンビである。
「ガゥル……ッ!! グァウガゥアッ!! グァウ!!」
「うおおおっ……スライム共ッ!! 早く、こいつを倒せ……ッ!!」
肘はもう限界。ガクガク震えている。
手を離せば杖がふっ飛ばされ、お陀仏である。
「ぷーるりん!」
「アグァ!」
他のスライムより素早さの高いLV2スライムがいち早く戻ってきて、デスラビットの背中に突撃をカマした。
デスラビットの意識が一瞬逸れる。だがまだお構いなしに僕へと突っかかってくる。
「うおおおおおお、限界だ、早くこいつをどうにかしてくれえええ……っ!!」
ダメだって。マジで。限界だって。
僕の腕は今にも引きちぎれそうだ。
「ぷーるりん!」
LV2スライムが再度頭突きをかます。
「ぶるう!」
「ブルァ!」
「ぶるーり!!」
「ぷるるんっ!」
さらに他のスライムたちも戻ってきた。3体が頭突きをかまし、1体は回転すると『粘液』スキルを発動した。ドロドロの液体がデスラビットの目に見事命中する。
「グァア!!!」
デスラビットが僕から離れ、目を痛そうにもがく。
「なんて凶暴さだ……! こんなやつが、1階層にいるなんて……ハァ、ハァ……。危うく初回戦闘で死ぬところだったぞ……」
僕はなんとかスライムたちに助けられた。今頃チビスライムが僕たちに合流する。おせーよ。
「っておい、LV2スライム、お前、さっきより光が増してるじゃねーか! 一体何を食ったんだ!」
「ぷるりん!」
LV2のスライムはさっきよりも発光度合いが増し、色が半透明の青から、黄色く変色していた。
そんなことを言っているうちに、デスラビットが目の液体を払ったのか、再び戦闘態勢を取った。
「来るぞ……! 絶対に死ににいくなよ! 相手の動きを見て、上手く立ち回るんだ!」
僕は杖の尖った先端を武器に、構えを取った。
次、口から飛び込んできたら、この杖で喉を一突きにしてやる。
きっと、こいつを倒せば、大幅LVアップは間違いなしだ!
今更逃げるわけにはいかない。
伸るか反るかの大勝負だ!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
デスラビットが咆哮した。
次の瞬間、デスラビットは後ろ足を蹴り上げ、巨体の3倍ほどの高さまで跳躍する。
そして、向かう矛先は、スライムではなく、またも僕。
LV1の底力、見せてやるぜ……ッ!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおお……って、うわああああああああ、やっぱ無理だ。気合だけではどうにもならない壁がある!!!!!」
『危機察知』スキルが発動したのだ。自分の蛮勇さを戒めるように恐怖が僕の身体を支配した。
空中から飛びかかる巨躯は僕を捉え、一身にこの身へと向かう。
「ぷーるりん!!」
もう駄目だと思った瞬間、発光したLV2のスライムが跳躍し、僕とデスラビットの間に割って入った。
そして。
「ぷるうッ……!!!」
「アガガッガガガガガッガガガガガガガガガガグア……ッ!!!」
発光したLV2のスライムとデスラビットが激突した。スライムはデスラビットの頬を掠り、ものの見事に弾き飛ばされた。
僕は死ぬ!! と死を覚悟したが、なぜかデスラビットはその場に倒れ、ビク、ビクと痙攣を始めた。
「……なんだ? どうしたんだ!?」
「ぷるぅ……!」
飛ばされたスライムを見ると、スライムは弱りきって倒れていた。それだけで、僕はそのスライムが死んでしまうことを直感した。
「おい!!!」
僕は発光したスライムに駆け寄る。近づいて見ると、スライムはかすかにビリ、ビリ、と電気を帯びているように見えた。
スライムは口のような部分から何かを吐き出す。
見ると、それは液体によって溶けかけた黄色い植物だった。
「これは……」
確認すると、名前がスライムからマヒスライムへと変わっていた。
「お前、何食べてるかと思ったら……。クソッ!」
「グアアアアアアアアアアア……!!!!」
デスラビットが動けず、苦しんでいる。
「スライム共、マヒスライムの頑張りを無駄にするな! 一気に仕掛け、片を付ける!」
「ぷるぅ!」
デスラビットが麻痺してくれたおかげで、見事、僕たちはデスラビットを倒すことに成功した。
こいつは夜の食料だ。
「お前も、土に返してやるからな!!」
僕は涙に暮れた目でマヒスライムを振り返った。
「って、え?」
「ぶるぶるー!」
そこには、なぜかピンピンしたマヒスライムが立っていた。
スライムは全部で5体。確実に1体減っている。だが、チビスライムがいなくなっている。ということは、まさか……。
「チビスライム、お前、マヒスライムを捕食したのか! やるじゃねーかチクショウ!」
そんな捕食もありなのかよ! スライム、最高だぜ!
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