検証
ダンジョンの入り口は石のブロックで出来ており、その周りをどこから生えてるのか蔦が絡まり、独特で古風な、年季のある古臭さを感じた。
何もない大地からこのような代物が出てくると誰が予想しただろうか。いや、誰も予想できまい……。
「よ、よーし、実感湧いてきたーっ。おーし、取り敢えず、中に入ってみるか」
僕は恐る恐るといった風に5体のスライムを引き連れてダンジョンの入り口の中に足を踏み入れた。
ダンジョンの中はひんやりと涼しく、ほんのりと暖かい。時折奥から流れてくる風がひんやりと僕らザコモンスターの身体を撫で、土で作られた空洞がほんのりと暖かく僕らザコモンスターを包み込む。
マイハウスにしては大きすぎるかもしれないが、雨風も凌げるし、ある意味モンスターにとっては快適な空間かもしれなかった。
「これで衣食住の住の部分はクリアか。それにしても、こんなに都合よくダンジョンが現れるとは、ラッキーだったな」
とはいえ、この『召喚杖』を手にした時から、薄々そんな気はしていたが。女悪魔もそんなようなことを言っていた気がするし……。
「となると、あと欲しいのは、衣と食なんだよな……」
衣は後回しでいいとして、僕はもう半日も何も食べていない。周りが荒野で、草の一本も生えていなかったからだ。
動物なんか一ミリも気配を感じなかったし、あと食べられそうなものといえばスライムだが。
「スライムなんか食べたくもない」
断固として拒否する。てゆーか、あんな粘液、食べたところでヌメヌメだし、絶対不味い。
「食もなんとかしないといけないが、それよりも何よりも、まずはダンジョンの探索が先決だな。階層はどのくらいあるのかも知らないし、もしも野生のモンスターがうろついていたら危険だ。会話が出来るモンスターがいれば別だが、会話が出来なければ見境なく襲ってくるかもしれない。自分がこれから暮らしていくダンジョンなのだから、まずは住を安定させないと。それに、ここが別の魔物が支配するダンジョンだとしたら、僕を敵と見做して一斉攻撃されるかもわからない」
やはり生存本能がビンビンに反応している。僕がここまでキレるやつだとは、人間だった頃の怠惰な僕では考えられなかっただろう。
「しかし、広いなー。なんだか、道も大分枝分かれしているし……。よし、スライム共、ここは手分けして探索と行こうじゃないか。……召喚せし主が命じる、スライム共、道を別れて探索してこい!」
「ぷるる」
「ぷるりん」
僕の命令にスライム共はうなずくと、それぞれ3手に分かれて正面、左右の道へと進んでいった。
これなら、時間は大分短縮できる。
はたして、スライムは無事に帰ってこれるのかと、スライムが体験したことを理解できるのかという不安はあるが、大丈夫だろう、多分。笑
この『召喚杖』は、召喚したモンスターを従えることが出来る。そして、その機能は万能だ。
召喚したモンスターは従えることができるのみでなく、位置の特定や、行動範囲、感情や意思、またそのモンスターに起こったことまで杖を通して頭の中に直接流れてくる。
そのモンスター視点で理解できるというわけではなく、あくまでマップのように俯瞰できるという意味である。
まだ試したことはないが、おそらく、スライムを遠隔操作することだって可能だろう。
「よーし、これなら、そう時間はかからずにこの階層のマップは完成だな。よし、その間に、僕は、この召喚杖のもう少し細かい使い方について、検証してみようかな」
スライムたちがダンジョン内を探索している間、僕は入り口で1人、杖の使い方を検証するのだった。
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