幽霊
「ふぅ……ようやく逃げ切ったか」
僕は『怒り心頭』スキルを解いたガモスの背中から降り、乱れた呼吸を深呼吸で落ち着ける。
「だが、これで仮拠点には戻りづらくなってしまった。次戻る時は、今度こそ戦闘しないとダメかもな……。行けそうなら、隙をついてガモスに『怒り心頭』スキルを使ってもらって前の通路に行ってしまうのも手だが、急いては事を仕損じるとも言うしな……。一度、仮拠点の安全を確保してから、最後のスライムを確認に行ったほうがいいだろう」
取り敢えず、そう結論付けた。
「えーっと、右のスライムは、こっちの通路を進んでったのか」
通路を進み、部屋に出て、部屋からまた分岐した通路の、スライムが進んだ方向へと僕たちも進んだ。
そしてくねり曲がった通路を進み、また部屋に出る。
「次はこっちか」
僕とガモス3体は部屋から左右に分岐したうちの右の通路を進んだ。
「こえーな……ホワイトボーンの群れもどこから現れるかわからんし、地面に仕込まれた罠のスイッチもいつ来るかわかったもんじゃない。ガモス共もトラップスイッチに注意して全身に神経を張り巡らせておけよ」
「モンスッ!」
「モーンスゥ!」
また部屋に出る。
「多分、この辺りに……。……?」
ヒュ。
「……なんだ?」
今、何かが目の前を高速で横切ったような……。
ヒュッ。
まただ。白くて透明な丸いものが、この部屋を飛び去っていった。
「あ……!」
部屋の隅に、青いゲル状の物体が横たわっているのを発見した。
見紛うことなき、探していたスライムである。
だが、近づいていくと、それは絶命していることがわかった。
「くそ……やはり、ダメだったか……」
スライムは既に生気をなくし、弾力はなく、地面に吸収されるようにへばり付き溶けかかっていた。
ヒュッ!
僕のすぐ鼻の先をまたも白い物体が横切る。
「ああ、うっとうしい……! なんなんだ!」
僕は手で顔の前を払い避けながら、周囲を見渡す。
『……それ、貴方の?』
耳元から脳を通じて、言葉が入ってきた。
「う、うわッ!!」
ブワッと変な怖気が走る。
『それ、貴方のでしょ?』
「な、なんだ!? おい、どこにいる……! 用があるなら、出てこい!!」
ぶん、ぶん、と身体を捻って360度見回すが、どこにもどこからも声の正体が見つからない。
『視えないの? ここにいるのに』
「気味が悪い……! 幽霊か……!? おばけなのか……!? そうだとしたら、見えちゃいけないやつだろお前……! なら視えなくていいし、視たくもない……!」
『うー……そう言われると、なんかムカつく……』
パッと。
一瞬灯りが消え暗闇に包まれたかと思えば、灯りが付き、部屋の中央に、視えちゃいけないヤツが視えてしまう。
「ヒッーー!」
僕は悲鳴ともつかない声を上げた。
「バカ……」
目の前の、白装束とでもいうのだろうか、白い着物を着た、白髪の幼い少女。ダンジョンちゃんよりも、さらに身長が低く、とは言っても、僕と同じくらい。130cm程だろうか。自分の身長すら把握してないので、よくわからないが、とにかく、背は僕と変わらない。
細身スレンダーで、童顔、髪は後ろでまとめ上げているのか、短く見える。
これまた、ダンジョンちゃんと同じく、見た目は人間と変わらない。
「お前は……誰なんだ?」
僕の問いかけに、白装束の幼い少女はため息を吐くと、おもむろに口を開き、
「うー……はぐれ魂」
そう、それだけを答えるのだった。
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