分断
「……ふぅー、13本もにんじんが取れてしまったな。気づいたら、第2階層入り口からこんなに遠くに離れてしまった。マヒスライムとガモスは入口付近で何本かずつにんじんを持って僕の戻りを待っている。大量だなー。おーし、それじゃあ、今日はこのへんで第1階層に戻るかー……」
ピ。
「ん?」
と言った時には、遅かった。
僕が仲間たちの元へと戻ろうと一歩踏み出した瞬間、足が地面にめり込み、目の前の地面が唐突に盛り上がったかと思えば、一瞬にして通路を塞ぐ大きな壁が下から出現し進路が分断されてしまった。
「……なに? なにが起こった?」
僕は冗談だろうと思いつつ、壁を力強く押したり叩いたりしたが壁は頑丈でビクともしない。
初めての第2階層。仲間たちと分断され孤立。何があるかわからないのにも関わらず、慎重に行動しなかったせいで起こった最悪の事態。
事の重大さに気づいた時には、僕の脳は軽くパニックになりかけていた。
「おい!! マヒスライム、ガモス、聞こえるか!! 聞こえたら、急いでこっちに来い! 全員で力を合わせて、この壁を破壊してくれ!!」
僕は大声で壁の向こう側に叫びつつ、念でも仲間たちに呼びかけた。スライムどもも呼び戻そうかと考えたが、今いる4体でビクともしないようなら、数が増えたところで多勢に無勢だろうと考えそれは止めた。
(ぷるぅ!)
(モンスッ! モンースッ!)
壁のすぐ向こう側から仲間たちの声が聞こえてくる。助けに来てくれたのだ。
「おい、聞こえるか! 我は、進路を阻まれ孤立してしまった。このままではマズい。今すぐに壁の向こう側から壊せないか試してみてくれ。何でもいい、スキルもなんでも使って、今すぐこの壁を破壊するのだ!」
ガスンッ!
ガスンッ!
向こう側から壁を叩く鈍い音がする。だが、その壁は分厚く、ヒビ一つつかない。
「くそっ、なんでこんなことに」
失態だ。にんじんをあと一本、あと一本などと欲張らなければ、こんなことにはならなかったのに。
「ハァーッ、ゴツゴツ拳! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
ドカボカスカと僕も『ゴツゴツ拳』スキルを発動しこちら側からも衝撃を与え続け、なんとか破壊を試みた。
10分後。
「む、むりだ……。」
消沈。無念。僕はその場に崩れ落ちた。
向こう側からも全く物音がしなくなってしまった。
「チクショー、にんじんを掘ってる時はあんなに幸せだったのに、こうも一瞬で地獄のどん底に叩き落されるのか……。だが、なってしまったものはしょうがない……。1人での行動は未体験だしリスクは高いが、仲間たちと合流できる道を探すしかない。……おい、お前たち、聞こえるか。我は、別行動で第1階層へと戻る道を探しに行く。お前たちも、なるべく敵と遭遇しないように注意しつつ、他の道から我を探し出して欲しい! この壁がいつなくなるかわからない以上、誠に遺憾だが、これしか方法はない! 壁がなくなるまで待ってもいいが、より生存確率の高い方を選択した結果だ。よろしく頼む!」
(ぷるぅ)
(モンスッ! モンスッ!)
壁の向こう側から返事が聞こえてきた。
「ではお前たち、お互いに健闘を祈る! GO!」
僕の合図とともに、仲間たちは動き出した。僕も自分を鼓舞させて立ち上がり、動き出す。
「よし行くか……って、なに……!?」
僕はほんの数秒、呼吸が止まった。
なぜか。なぜかって?
「……嘘だろ!?」
本当に冗談のような、出来事が、現実になってしまった。
「まったく、最高だぜ。ああ、そうかよ、やってやるよ。それでこそ、ダンジョンだ。挑戦するものと死にゆくもの、求めるものと、掴み取るもの」
ホワイトボーン LV:9
ホワイトボーン LV:11
ホワイトボーン LV:12
ホワイトボーン LV:8
ホワイトボーン LV:13
まさに骸骨の化身。どこから湧いてきたのか、なんと5体もの白骨体が錆びた長剣を手に、立ちふさがっているではないか。まるで、罠にかかった子うさぎを血に飢えた野獣共が寄ってたかって舌なめずりしてこれからいたぶろうとしているかのような立ち位置。
「……そうかよ、そっちがその気なら、こっちだって必死に抵抗させてもらうで。拳でな。ハァーッ、『ゴツゴツ拳』スキル発動!」
僕の手が腫れ上がり、再び岩ツブテのように硬質化する。連続での使用は初めてだが、まだ身体は持ちそうだ。持ってくれよ、僕の拳……!
「降参するなら今のうちだぞ。恐怖に慄き、今すぐ跪くか背を向けて脱兎のごとく霧散するがよい」
白骨体5体が長剣を構える。チッ。僕の威圧は相手には一ミリも効いていないようだ。
「そうかよ。なら仕方ない。ダンジョンはこうでなければ、並み居る冒険者たちを屠ることなど出来ん。難易度は高いに越したことはない。我はいずれ最下層へとたどり着き、真のダンジョンマスターになる者。こんなところで無駄死にするわけにはいかん! こっちにはHP回復にんじんが13本もあるんだ。テメーらが僕に傷をつけようと、お前らを一体残らず駆逐するまで、ゾンビのようにいくらでも蘇ってやるぜ。どうした、かかって来い!!」
僕が煽ると、煽りにつられてか知らないが、白骨体の1体が切り込んできた。
ホワイトボーン LV:9
「おせーっ。ゴツゴツ爆裂拳!!」
ホワイトボーンの単純な袈裟斬りをしゃがんで躱すと、足を踏み込み腹部目掛けてゴツゴツ拳を5発連続で叩き込んでやった。
「死ね!」
「ゴ、シャァァァ……ッ!!!」
「「「コロコロコロコロコロ……」」」
ホワイトボーン LV:9がバラバラに崩れた。LV:9の割にあんがい脆い。
ホワイトボーン間でどよめきが起こる。
「なんだよ、この程度か……驚かせやがって」
僕はこいつら相手なら楽勝だと油断した。
その一瞬が命取りだと、何度思い知らされたことか。
そう、その通りだった。
カランコロンカランコロンッ。
ホワイトボーン LV:9
「ゴ、シャァ……」
「なに……?」
くそ、『蘇り』スキルかよ……。めんどくせぇ……ッ。
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