渾身の一撃
NAME:ゴブリン
LV:7
HP:31/31
MP:19/19
攻撃力:28
守備力:27
素早さ:27
運:7
スキル:『危機察知』『奪取』『ゴツゴツ拳』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「状態異常が効かないとなれば、最初の作戦は使えない。状態異常が使えないとなれば、ガモスやマヒスライムをこのまま戦わせるわけにはいかない。スライムもなんとか踏ん張っているが、いつまで保つか。となれば、最終手段、ゴブリンである僕が直接戦闘の場に出るほかない」
僕は『ゴツゴツ拳』スキルで両手を岩ツブテのような形に硬質化させ強化すると、さらに奥の手として土魔法『ドスケル』を覚え、杖を放り投げると、第一階層大ボス:キングデスラビットへと向かって走り出した。
「最終ラウンドだ。こいつで渾身の一撃を叩き込んでやる! 行くぜキングデスラビット! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!」
一方、キングデスラビットはというと、未だスライムの囮とガモスの高速ジャンプによって僕が接近していることにはまだ気づいていない。
今が好機。
一撃必中。
仲間が作り出してくれたこの機会を、絶対に逃してなるものか。
僕は助走をつけると、足を踏み込み、一気に飛び上がった。
足が空を駆ける。
キングデスラビットに気づかれることなく、その差間を高速で詰める。
キングデスラビット、その左頬へとこの渾身にして全力のゴツゴツ拳が。
先手必勝。
盛者必衰。
絶対殴打、よろしくゥーッ!!!!!!
「ハァーッ!!!! くらいやがれ、ファイアーゴツゴツ拳!!!!!」
「ア? アグ、ガアアアアッッッッッ……ッ!!!!!!!!」
僕の攻撃にコンマ一秒早く気づいたキングデスラビットは、反射的に防御を取らんと腕を上げんとするが、その前に目くらましのファイアーをキングデスラビットの顔面目掛けて吹きかけたことにより、燃えた腕がそれを許さず、無防備の顔面を直接ヒットした。
メリメリメリ、と僕のゴツゴツ右拳がキングデスラビットの左頬にめり込み、巨体が押し出される。
だが相手もやすやすと転んではくれない。
地面に足をめり込ませ押し倒されるのを回避すると、『デスクロー』が僕の喉元を捉える。
ガコンッ!!!!
間一髪、それをゴツゴツ拳で叩き落とす。
だが、相手は甘くなかった。さらにもう一方の腕を捻り2つ目の『デスクロー』が間髪入れずに僕を襲う。
この間断のなさでは、片方の手を叩き落とした反動で身動きが取れない。
終わりだ。僕の負け。
それを、一瞬で悟った。
誰か気の利くやつがこのデスクローを止めない限り、僕は死ぬ。
そう、誰かが止めれば、僕は死なない。
だから、僕はまだ死なん!!!!
「ぷー、るぅッ!!!!」
「ブルァァアッ!!!!」
「モンスーッ!!」
「モーンスゥ!!!」
ガキンッ!!
ビシャリ。
足元から一瞬にして飛び込んだガモス2体が、もう一方のデスクローを見事に叩き払ってくれた。その足元では、この好機を逃すものかと、8体のスライムが『粘液』スキルで一斉に粘液を射出し、キングデスラビットの目と足を狙う。
「アウグァァァアアア……ッッッ!!!!!」
両手による『ダブルデスクロー』は見事に撃ち払われ、足元の粘液と視界のシャットダウンにより態勢を崩されたキングデスラビットがとうとう巨体を地面に打ち付ける。
「おっしゃーキター!!!!! やってくれると思ってたぜ!!!」
足と視界を奪われたキングデスラビットはその場で呻きもがく。
「この好機を逃すな!! 総員、総攻撃でキングデスラビットの息の音を止める。これでフィニッシュだ!!!!」
僕は両手のゴツゴツ拳を合わせガンガンと打ち鳴らすと、一気にカタをつけるべく、総攻撃を命令した。
「ぷるぅーーーッッッッッッ!!!!」
走り出した僕に向かって、今まで聞いたこともないような悲鳴めいたスライムの声が後ろから上がる。
「あ……? おい、なんだ、今の声……?」
僕は流石に足を止め、その声へと振り返る。
「なに……ッ!?」
そこには、なぜだか紫色に染まったスライムが1体と、見知らぬチビっちゃいデスラビットが立っていた。
毒スライム LV:4
チビデスラビット LV:1
「お前、もしかして、さっき置いてきたスライムか? 毒スライムになったのか!?」
「ぷるぅ」
怪我をして置いてきたスライムが、毒スライムになって帰ってきた。
しかも、チビデスラビットを連れている。
なぜ……?
「わけがわからん……いや待てよ。……いや、そんなまさかな」
まさか、さっき僕がスライムやガモス共の訴えを無下にして止めを刺したデスラビットのお腹に、子供がいたなんてこと、ある、わけ、ない、……。
「……クソ、なんてことだ」
無害そうなチビデスラビットを見て、僕の胸がキュウと傷んだ。
急にデスラビットたちに対して情が湧いてしまいそうになる自分が情けない。
情けなど不要。
だが、なんてことだ。
「アウー!」
チビデスラビットがこちらに向かってくる。
まさか、親を殺した僕を、殺す気か……?
「……ッ!?」
僕はゴツゴツ拳を構え『チビデスクロー』に備えたが、チビデスラビットはそのまま僕の横を通り過ぎていった。
「アウーアウー」
チビデスラビットはキングデスラビットの側に駆け寄る。
「グゥゥゥ……グアゥゥゥ……」
「ウーアウー」
「……」
それは、思いもよらない光景だった。
視界を奪われたキングデスラビットの目から、一筋の涙が頬を伝ってこぼれたのだ。
キングデスラビットは、チビデスラビットの親、だったのだろうか……?
「……おい、お前ら。こいつらは、殺すな。命令だ!」
僕は言ったが、スライムやガモス共には、端からその意思はないようだった。それはただ、僕がこの2体を殺さないために、言っただけのこと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー