エンカウント
僕を含むスライムとガモスの群れ計13体はマップの穴埋め第2地点を目指していた。
情報のないマップ未完成地点の通路に到着する。
そこに敵であるそいつは、移動することなく、僕らを待っているかのようにドシリと居を構えそこにいた。長い尻尾、どでかい図体、ギラリと光る眼光、どす黒い面相。
NAME:デスラビット
LV:11
「昨日よりもLVが高い。だがそれはこちらも同じ。LVステータス共に上昇率ではコチラのほうが上だ」
とはいえ、レベル差には歴然とした壁がある。
こちら側のLVは平均して3。対して、向こうは11。
ただし、数では1対13で圧倒している。
仕掛けるなら、相手が気づいていない今しかない。
先手必勝!
「まずは相手の動きを封じる。ゆけ、マヒスライム2体! 『隠密』スキルで敵近くまで忍び込み、後ろから奇襲をしかけろ!」
僕はマヒスライムに命じた。
マヒスライム2体が低く早く飛び跳ねながらデスラビットへと接近していく。
そして。
「ぷるーっ」
「ぶるぶるー!」
「グアアアッ!?」
マヒアタックが炸裂した。小さな電気がデスラビットの身体を駆け巡り、デスラビットは見事マヒする。この類の状態異常は確率だと思っているが、今の所状態異常率100%だ。
「よしっ、次はガモス2体だ! お前らの力を見せてくれ!」
「モンスッ!」
「モーンスゥッ!」
ガモス2体は返事をすると、息のあうテンポでダイヤモンド状に広がり、そしてデスラビット目掛けて猛スピードで接近していった。
『毒突き』スキルが発動する。ガモスの尖った頭頂部が紫色に変色し、踏み込みをつけ力強く蹴り上げた後ろ足からデスラビットの顎と背中を強襲した。
「アグアァァッ……ッ!!!!」
ガモスの炸裂した攻撃にデスラビットの巨体が跳ね上がり、みるみる内にデスラビットの身体を毒が蝕む。デスラビットはその場に倒れ込み苦しげに呻く。
「ガアアアア……ッ、アグアッ……!」
ちょっと可哀想になってくるが、仕方ない。勝つために手段は選んでいられない。
「最後だ、スライム共、渾身の一撃を叩き込み、ヤツを楽にさせてやれ! 情けはかけるな」
「ぷる」
「ぶるーり」
僕は心を鬼にしてスライム共に命令した。
スライム8体は戸惑うことなく倒れもがくデスラビットへと一心に飛び込んでいく。
だが何を思ったか、スライム共はデスラビットの前で急に立ち止まった。
「どうした、早くやれ!」
「ぷるぅ」
「ぶるーり」
なぜだ? スライムが攻撃をしない。
「アグアッ!!」
スライムが攻撃をしないせいで、それに気づいたデスラビットが『デスクロー』スキルを発動した。
「ぷる……っ!」
「ぶるーり」
7体は避けたが、1体が攻撃を食らってしまった。
「言わんこっちゃない。おい、何をやっている! 殺られる前に、早くそいつを殺れ!」
スライム共はデスラビットを囲むようにして、動かない。
どうした? 何が起こっている?
それとも何かデスラビットのスキルでも発動しているのか?
「マヒスライム! ガモスでもいい! そいつを殺せ!」
マヒスライムにもガモスにも命令するが、どいつもこいつも僕の命令を無視する。
確かに今のデスラビットはマヒと毒の重複異常でまともに立ち上がる事もできない。可愛そうなのはわかるが、油断をすれば先程のようにやられてしまうのだ。
殺られる前に、殺る!
「そうかよ。なら僕が殺る。MP5を消費し、魔法スキル発動! 死ね!」
魔法スキル:ファイア
MP消費:5
僕はデスラビットに向けて渾身のファイアをぶち込んだ。
「アガアアアアアアッ……!」
デスラビットにファイアが炸裂し、全身が燃え上がりさらに苦しむ。可愛そうだが、毒で苦しむ姿はもう見たくない。早く楽になってくれ。
そしてデスラビットは息絶えた。
「どうしたスライム共! それにマヒスライムとガモスまで! よくも我の命令を無視してくれたな! 我の命令を無視することが、どういうことかわかっているのか!」
僕は立ちすくむモンスター共に向けて説教した。
「ぷるぅ!」
「ぶるーり」
「ぶるぶるー」
「モンスッ」
「ん? 何が言いたい?」
モンスター共が僕に何かを訴えかけている。何を言っているかぜんぜんわからん。
「いいかお前ら! 今度我の命令を無視したら、どうなることかわからせてやる! だからこそ、どうなることかわからせてやるからな! 覚えておけ!」
このままではラチがあかないので、僕は何を言っているかぜんぜんわからないモンスター共を一蹴し、話を終えた。
何か後味が悪い。
まるで僕が悪者みたいだ。