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寂しがり屋のゴーレム  作者: 畑中みね
第二章 人を学ぶ
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第五十七話 怪物と化け物は相対する

 

 ダンスを終えた二人に声をかける人物がいた。


「素晴らしいダンスだった。流石は俺の友人だ」


 トーカスの主・カルブラット。街を治める怪物が称賛の拍手を叩いた。後ろにはミリィが連れられている。父親との予定とはこのことだったようだ。白銀のドレスがよく似合っており、幼さは全く感じられなかった。目が合うと、フリフリと手を振ってくれた。


「彼女が上手かっただけさ。僕は手を添えていたに過ぎないよ」

「ジルベール様は上手いことを言うね。天才は話す言葉も素敵みたいだ」

「謙遜するな、君も上手かった。確か以前うちの屋敷に来ていた子だな?」

「その節はありがとうございました。天下のファルメール卿にそう言って頂けると光栄です」


 ティアはスカートの端を摘まみ、軽く頭を下げた。どうだ、淑女だろう。


「そんなに(かしこ)まらなくていい。今夜は無礼講らしいからな」

「アハハッ! 招待してくれた防人がそう言うんだがら、僕たちも従わないとね」


 ジルベールがちらりとクォーツの方を向いて笑った。クォーツは完全に酔い潰れたらしく、会場の隅でピルエットに介抱をしてもらっている。

 ティア達の様子に気が付き、ララが戻ってきた。空気を読んで肩には乗らない。足元でちょこんと座る彼は、黙っていたら愛嬌があるように見える。


「それが例の猿か」

「あ、カルブラットにだけは森の花について話しているよ。彼には話しておかないといけないから」


 勝手に話したのを申し訳なく思ったのか、ジルベールは少し伏し目がちに言った。確かに気持ちの良いものではないが、彼の立場上仕方無いのかもしれない。


「ララって言います。ただの食いしん坊な猿ですよ」

「確かに食いしん坊なようだ。美味い物を食わしてやるから俺の元へ来ないか?」

「ふふ、ご冗談を。ファルメール家の食べ物を食い尽くしてしまいますよ」

「俺は本気だ。知恵のある魔物とは非常に興味深い」


 ララは不満そうな顔をしていた。多分あれは、お前達のペットじゃないゾと言っている顔だ。


「まぁ良い。急ぐこともないしな」

「僕たちは少し向こうで話しているから、君たちも楽にしていてよ」


 そう言うと、ジルベールとカルブラットは何処かへ歩いていった。ダンスはまだ続いており、いくつもの男女が会場で踊っている。残された二人はダンスを見ながら話をした。


「お姉ちゃん、いつもと雰囲気が違うね」

「今日はお嬢様モードだよ。貴族みたいでしょ?」

「凄く似合ってる。私もお姉ちゃんみたいなドレスにしたら良かったなぁ」

「ミリィも凄く似合っているよ。私には私の、ミリィにはミリィの良さがあるんだから気にしないの」


 そう言ってミリィの髪を撫でてあげると、彼女は嬉しそうな顔をした。


「お姉ちゃんの着ているドレス、初めて見た。屋敷にあるドレスとは全く違うね」

「シェルミーっていう私の友人が作ってくれたんだ。ミリィにも今度紹介してあげる」

「ふーん……お姉ちゃんにまた友達……意外と多い……」


 何やら失礼な言葉が聞こえたが、ティアは聞こえないふりをした。


「私もお祭りを楽しみたかったのになぁ」

「ファルメール家のような大貴族は大変だね」

「一日中、お父様の隣に付きっきりだよ? 本当は外の屋台に行きたかったし、ダンスも踊りたかったのに、ずっと離してくれないんだもん」


 ぷくーっと頬を膨らませるミリィ。流石に疲れているようで普段のような明るさは無かった。


「お疲れ様、頑張ったね。また来年は一緒に回ろうよ」

「うん!」


 ティアとミリィは約束した。忘れないように指切りをする。来年のウィーン祭では今年以上に楽しむのだ。これは未来を楽しむためのおまじない。先の事なんて分からないけれど、少女達の顔は溢れんばかりの笑顔であった。


 二人の指が離れるのと、会場に悲鳴が響いたのは同時だった。場所は中庭、悲鳴の主はユノベーラ。血相を変えた彼女が会場に走り込んで来たことにより、会場のダンスは中断となる。


 ○


 離れた所からティアとミリィを見つめる影が三つ。一つはジルベール。一つはカルブラット。そしてもう一つは――。


「あの子が噂の花屋さんか。美しい娘じゃないか」


 防人長ゼクトーア・ゼンヴルト。長い髪を後ろで束ね、柔和な顔をしている。


「ああ見えて(したた)かだよ。僕が探りを入れてもスルスルと躱してしまうんだ」

「お前はいつも回りくどい。なに、俺がやってやろう」

「カルブラットこそ無理だね。力に屈服するタイプじゃないよ」


 トーカスに住む人間ならば知らぬ者は居ないこの三人。昔からの付き合いであった。互いに気の知れた仲、酒が入れば舌も回る。


「ゼクトーア、最近の防人はどうだい?」

「若い層に勢いがある。危なっかしい部分もあるがな。三隊長もまだまだ現役、防人の未来は明るいさ」

「そうだな。俺も昼の試合を見ていたが、若い連中も中々やりおる。特にあの小僧がいる班は伸びるぞ」

「クォーツ君の班か。うちの屋敷の護衛を頼んだときも良い働きをしてくれたよ」


 ジルベールは若手で特に勢いのある班を思い浮かべた。


「そう言えばカルブラットの甥が一緒なんだっけ?」

「少し残念な所もあるがな。出来た甥だ」

「イージアか。あれは確かに出来る男だ。怪物の素質がある」

「それは誉めているのか?」


 葡萄酒を片手に彼らは語り合う。天才と怪物と武人、彼らはそこにいるだけで輝きを放った。それぞれ異なる道を極めた者、その引力は見るものを惹き付ける。それが長、それが王。


 会場の誰もが遠巻きに怪物達を様子見する。彼らの語らいに割り込む者は相応の勇気がいるだろう。怪物の雰囲気にのまれない胆力、並ぶだけの位、もしくは才がもたらす迫。そのどれかが無ければ隣に立つことは出来ない。


 そんな中、ジルベールに声を掛ける女性がいた。サラサラとした金髪が揺れる。一体誰が、と会場の者は目を向け、そして女性の正体に納得をする。


「ジル、ここにいたのね。探したのに見つからないから苦労したわよ」

「フィズ、来ていたのかい」

「そりゃあ来るわよ。私が来ないと魔法省の顔が立たないでしょ」


 フィズ・コーペンハット。ジルベールに並ぶと(うた)われる魔法省の才女だ。ジルベールと同じ西方の出身であり、ジルベールの過去を知る唯一の女性だといわれている。


「コーペンハット嬢。魔法省が誇る才女とお会い出来て光栄だ」

「ご機嫌うるわしゅう、ゼクトーア様。お話中にごめんなさいね」

「構わないさ。そいつの後始末でもさせられているんだろう?」

「その通り。ほら、早く行くわよ。ジルが残した仕事のせいで大変なんだから」

「んー、僕はもう少しパーティーを楽しみたいんだけどなぁ。それに仕事といっても雑事でしょ? 僕はそんなのに興味無いよ」

「興味無くてもやるのよ。あなたがやればすぐ終わるんだから、ほら」


 天才は引きずられながら去っていった。旧友が苦笑しながら見送る。


 ユノベーラの悲鳴が聞こえたのは二人が去ってからだった。




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