第四十九話 ウィーン祭
年に一度のウィーン祭が始まった。至るところに店が並び、表街道ではパレードが開かれる。耳が痛いほどの花火が弾け、人々は歓声を上げた。
陽気な音楽が流れ、川の上では船上パフォーマンスが披露される。今日のために遠方から足を運ぶ人々、それらを狙って同じく遠方から来る商人達。街には世にも珍しい品々で溢れ返っていた。新興都市の怪しげな道具、宗教都市の胡散臭い教本、お伽の街の星見魔具……どこぞのゴーレムが見れば目を輝かせるだろう。
当の二人はというと。
「見てみてララ! あれ凄い!」
「おいティア! ここの店は美味いゾ!」
滅茶苦茶はしゃいでいた。散財に次ぐ散財。この日のために貯めていたと言っても過言ではない。ララは美味しそうな食べ物を、ティアは目についた面白そうなものを買い漁った。
楽しい。祭りは楽しい。人々の笑顔は伝染し、何故か分からないけど楽しくなる。
「折角だし皆と来られたら良かったのにね」
「そうだナ」
マリエッタは実家の手伝いが忙しく、ミリィはファルメール家の用事で来られないそうだ。何故かシェルミーは店が閉まっていて会えず、結局ララしか相手は居なかった。残念だが、この猿で我慢しよう。
「あ、おっちゃんだ。繁盛してるー?」
「そりゃあもう、ガッポガポだ」
「あっはは。そうは見えないけどね」
「ああん? 何か言ったか?」
ティアの言葉を覚えていたらしい。お茶目なオヤジだ。普段は武骨な店も、今日は装飾が施されていた。いつも通りよく分からない玩具を売っており、そしていつも通り売れ残っている。
軽く話しつつ、センスの無い装飾を茶化すティア。禿げ頭は今日も元気に輝いていた。彼とは街に来たときからの付き合いであり、互いに気心の知れた仲である。最近は会うことも減ってしまったが、久しぶりに会えば何かと話が盛り上がった。
「ウィーン祭と言えば、商売人にとってまたとないチャンスだ。お前は遊んでていいのか?」
「甘いねおっちゃん。商売人に必要なのは知識と勘。私はその知識を集めているのさ」
「まーた適当なことを言いやがって。潰れちまっても知らねーぞ」
「もしそうなったら、おっちゃんに店を引き継いでもらおうかな。おっちゃんなら面白い店にしてくれそう」
「ハッ、俺にかかればトーカス一番にしてやるよ。お前の悔しがる姿が見てみたいもんだ」
「すぐそうやって見得を張るんだから。またねー」
「おう、楽しんでこいよ」
いつまでも長居するわけにもいかず立ち去るティア。おっちゃんにバイバイをして街を歩くと、今度は修道女のリーベと出会った。彼女の傍らには小さな子供達がわらわら。恐らく孤児院の子供だろう。
「あら、ティアさん」
「こんにちは。楽しそうですね」
「ふふ、子供は祭りが大好きですから」
子供たちは祭りが大好き。つまり、さっき滅茶苦茶楽しんでいた自分は……。
ティアはブンブンと頭を振る。余計なことを考えるのは止めた。彼女の肩では相棒がニヤニヤと笑っている。
「変なお面ー!」
「おかしな格好だー!」
「え~、格好いいじゃん!」
幼い子供達はあれやこれやと好き勝手に言ってくれる。格好いいと言ってくれたのはとある少女だ。見込みのある子もいるようである。
「よし、君にはこれをあげよう」
「え!? いいの!?」
格好いいと言ってくれた少女には、ティア特製のお面をプレゼントした。勿論予備に作ったものだ。出来映えは申し分無く、自信作である。
喜ぶ少女を他の子供達は羨ましそうに見ている。なんだかんだで皆欲しいのだ。正直になれば良いのに。残念ながら、予備のお面は一つしかないのである。
「すみません、頂いてしまって」
「いえいえ、予備の分ですからお気になさらず。良ければリーベさんの分も作りますよ」
「あら、嬉しいお言葉ですが大丈夫ですよ。きっと、私には似合いませんから」
ゆったりと話す二人をよそに、子供たちはララと遊んでいた。珍しい猿を目の前にキャーキャーと騒ぐ子供たち。元気なものだ。
「楽しそうですね。あ、ララが引っ張られてる」
「やんちゃな子が多いので。私には姿こそ見えませんが、あの元気な声を聞いているだけで私も楽しい気持ちになります」
ララも嫌そうな顔をしているが、抵抗しないということは楽しんでいるのだろう。子供達に囲まれて一躍人気者のララ。誇らしげな様子がなんともむかつく。
「毎年、子供達と回っているんですか?」
「そうですよ。いつもはプーロ司祭様もいらっしゃるのですが、今年はお忙しいみたいで。私一人では手が足りません」
「大変そうですね。私も、やんちゃなのが一匹いるので分かります」
うんうん、と頷きながらララを見つめる。そして、こういうときに限って勘が良いララ。お前もダロ、と睨まれた。
軽くと会話を交わす二人。子供たちのお守りをしつつ人波を分けて進む。彼女は何も買わないようで、代わりに子供が欲しがるものを買っていた。普段は贅沢をしない分、屋台の食べ物を頬張る子供達は幸せそうな顔をしている。
「そう言えば、あの子達はティアさんの花が大好きなんですよ」
「え? あのお花ってお姉ちゃんのなのー?」
「そうですよ。ティアさんにありがとうを言いましょう」
「お姉ちゃんありがとー!」
「ふふ、どういたしまして」
感謝されると良い気分になる。今仮面を外せば、きっと緩んだ顔が現れるだろう。危ない危ない、仮面を被っていて良かった。そうティアは安心する。
「取り敢えず楽しみましょう。折角のウィーン祭なのですから」
「そうですね。楽しまなきゃ損です」
二人は顔を見合わせて笑った。トーカス最大の祭は夜まで続く。こんなものでは、まだまだ遊び足りないだろう。
さぁさぁ楽しいウィーン祭。祭囃子は加速する。




