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寂しがり屋のゴーレム  作者: 畑中みね
第二章 人を学ぶ
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第三十九話 静かな夜

 

「あー、疲れた」

「賑やかな場所だったナ」


 話し合いが終わって本部を後にする二人。隊長と呼ばれる男は筋肉隆々の大男だった。名をマルカスというらしく体格もさながら声も大きい。ララが思わず驚いたほどだ。

 結果、隊長は花をたくさん注文してくれた。おかげでティアの懐はほくほくである。即断即決、恐らく彼は仕事が出来る男なのだろう。ついでにパーティーにも招待してくれた。勿論ティアは行くつもりだ。だって楽しそうだから。


「ララもパーティーに行くよね?」

「当然ダ。お前だけ抜け駆けは許さないゾ」

「ちゃんと連れていくから大丈夫だよ」


 今後の楽しみがまた増えた。初めての祭り、初めてのパーティー。これだから街暮らしをやめられない。どん、どん、と震えているのはティアの核か、それともトーカスの地か。街全体がお祭りムードに包まれる。


「それじゃあ行こっか」

「そうだナ。丁度良い時間ダ」


 二人は、とある場所へ向かった。


 ◯


 見えてきたのは中層部に建てられた巨大テント。ビザーレ劇団である。実はパルテッタに招待されたのだ。既にショーは始まっているようで、熱狂した歓声が外まで聞こえてくる。


「ちょっと遅れちゃったみたい。入ろっか」

「あぁ、久しぶりダナ」


 中に入った途端、熱風が髪を撫でた。観客の熱気は十分に高まっており、人々の視線がギラギラと輝いている。彼らはまるで麻薬に溺れたように胡乱な瞳で歓声を上げた。


「わーお、すごい熱気だ」

「相変わらずの大盛況だ。ほら、パルテッタが出てくるゾ」


 パルテッタが出演すると聞いて駆けつけたが、どうやら間に合ったようだ。金髪をオールバックにした道化が舞台上を歩く。背筋を伸ばして威風堂々と、自分こそが劇団長だと言わんばかりな様子だ。黒い衣装を着たパルテッタは軽く一礼をした。


「パルテッタの演技って珍しいの?」

「いつも進行役として舞台の片袖に立っている男だからな、俺は一度も見たことがない。たまに人形劇をしていたくらいダ」

「人形劇? 道化なのに?」

「中々面白かったゾ。人形の出来も良かった」

「へぇー、意外だね」


 彼は一体どんな演技をするのだろうか。想像もつかないし、それが楽しい。分からないからこそ胸が高まるのである。彼が招待するということは、よほど見せたいものがあるに違いない。

 やがて緩やかに音楽が流れ始め、曲に合わせて彼は踊り始めた。滑らかな曲線を描きながら道化は優雅に舞う。世にも奇妙な道化のダンスをとくとご覧あれ。


「彼、踊れたんだ」

「俺も知らなかった」


 観客は静かに見惚れた。彼の優雅な舞いが観客を魅力していく。彼の長い手足は踊りに良く映えた。時には鞭のようにしならせ、時には指先まで真っ直ぐ伸ばし、体全体が躍動する。


「上手いね」

「上手いのカ? 俺には分からんゾ」

「ごめん、やっぱ分かんないや」

「キキッ! 適当ダナ」


 上手いのは確かだ。しかし、何故かティアには手を抜いているようにも見えた。まるで誰かに頼まれて仕方なく踊っているような雰囲気。街で鍛えたティアの観察眼は騙されない。あの耽美な笑みすらも道化の演技に見える。


 そうして曲の合間の小休止。舞台袖から一人の女性が現れた。非対称(アシンメトリー)な髪を綺麗に結い上げ、いつも見慣れたパンツスタイルとは異なる衣装を着ている。


「シェルミー!?」


 ティアは思わず声を上げた。幸いここは一番奥。周りに人はいない。

 彼女が着ているのは白のドレスだ。ひらひらとしたレースは女性らしい印象を与え、絹のような素材が光球に照らされて輝く。普段はあまりしない化粧も軽く施しており、まるで別人のようである。


今宵、仕立て屋は乙女となる。


 シェルミーは舞う。誰も彼女のことを奇抜な服屋だと揶揄(やゆ)される人間とは思わないだろう。自ら造り上げたドレスは、黒を纏うパルテッタと対になっていた。彼女は満面の笑みで幸せを刻む。


「すごいすごい! シェルミー格好いいじゃん!」

「キキッ! あいつ、あんなに踊れたのカ!」


 友人の晴れ舞台、興奮は治まらない。曲はいつの間にか激しくなり、それに合わせて彼女は情熱的に踊る。息のあった演技は流石の二人と言えよう。いつもは冷静なシェルミーが花のように笑い、穏やかなパルテッタも優しげに微笑む。

 クライマックスは高速ステップだ。道化と乙女は、一夜限りの夢を踊った。


 ◯


 舞台後、ティアとシェルミーはたくさん話した。夜深く、月が星空に馴染む下で、二人は互いの思いを語り合う。劇が終わった後のビザーレは静まり返っており、まるで生きている者が誰もいないかのようだ。


 良かったよ、と言うと珍しく照れるシェルミー。彼女いわく、パルテッタが一度だけ踊る約束をしてくれたとか。嬉しそうに話す彼女は見たことがない顔をしていた。


 テントの中には色とりどりの小さな花が飾られている。彼女の店の名前でもある、ガーベンという花らしい。花言葉は究極の愛。残念ながらティアの花では無かったが、無数の花弁からは乙女の香りがした。

 花の隣には人形も飾られている。恐らくパルテッタが作ったのだろう。ララが上手いと言っていたが、確かに店で売られているものと遜色ない出来栄えだ。


「パルテッタとは長い付き合いだけど、踊ってくれたのは初めてなんだ」


 彼女はビザーレの過去を話してくれる。ビザーレがまだ小さかった頃の、山あり谷ありだった話。パルテッタは小さかった劇団をずっと支えてきたらしい。今の栄光を得るまできっと何年もかかったのだろう。


 何故ララが抜けるのに反対したのかと聞くと、パルテッタが独りになるからという。彼は親しい友人が居らず、そもそも人との関わりが少ないらしい。人が嫌いなんだとか。珍しい人間もいるものだ。


「そう言えば、ここっていつも静かだね」

「ショーが終わると皆寝てしまう。起きているのは私達だけだよ」


 友人と過ごす二人だけの夜。初めて、友人と夜を語り明かした。疲れているだろうに、互いに帰るという言葉は出てこない。


 トーカスの夜は全てを包み隠してしまう。彼女の姿も、聞こえるはずの鼓動も、息づかいさえも……何もかもだ。人は誰しも秘密を抱き、知ってほしいと知られたくないの狭間を迷いながら夜を明かす。化け物も、化け物ではない者も。


 この日の夜はとても静かだった。




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