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私、メリーさん。  作者: iris
8/13

八夜 増える奇妙な謎

前回のあらすじ「危ない事は自己責任で」

―「高速道路上・事故現場」―


「凄い事になってるな……」


 そう言ってこっちを見る小見先輩に私は黙ったまま首を軽く縦に振って返事をする。さっきのアレを見て声を出したくないという理由もあるのだが、目の前の事故現場であり殺害現場でもある車の状況を見てどんな感想を述べればいいのか分からなかったというのが正直な所だったりする。


 彼らが乗っていた車は横転後に高速道路上に激しく擦りつけたのだろう道路にくっきりと後が残っている。さらに破片が周囲に散乱、本体は激しく横転したまま黒い煙をモクモクと上げている。周囲には油の臭いが充満しており、その中で消防隊の方々が車の確認をしている。


「小見警部」


「どうした?」


「消防隊員から連絡。車内に身元不明の遺体が3人。あまりにも焦げていて男か女かも分からないそうです」


「そうか。まあ、あのバカ共の遺体だろうな」


「小見先輩?酷くないですか?」


 流石に遺体で見つかったのだ。少し位は憐れんでもいいだろう。


「自業自得で死んだ奴らに情けを掛ける程、俺は甘くないんだよ!ほら!いくぞ!」


 小見先輩が横転した車へと向かっていく。私もその後をゆっくりと歩きだす。周囲に目を逸らすとガラス片やサイドミラー、彼らがあの撮影に使っていたカメラであろう物が転がっている。警察官に消防団員が慌ただしく調べている。


「お疲れ様です」


 車を調べていた消防団員がこちらに気付いて挨拶をしてくれた。


「どうですか?」


「酷いもんですね。一人は首と胴体が分かれてますから」


「そうですか……」


「……?どうしましたか?何か表情が……」


「実は……」


 小見先輩が先ほどの動画の説明をする。捜査に関わる情報は本来なら教えるものでは無いのだが、あの動画に関しては多くの人が見ていてすぐに分かってしまうので何の隠し事もせずに全て話している。


「そうですか。今、火災調査官が調べてるんですが火災の原因はガソリンがタンクから漏れて、それが発火したのが濃厚だと言ってますよ」


「そうなんですね」


「中から何か見つかりましたか?」


「詳しく調べないと無理ですね。なんせ真っ黒こげですから。むしろ周りに散らばっている破片からの方が何かしらの情報を得られると思いますよ」


 それを聞いた小見先輩は両手を組んで考え始める。


「そうしたらうちらは周りを調べますよ。中はお任せしてもよろしいですか?」


「ええ。何かあったらお知らせしますね」


「ありがとうございます。佐々木!お前はこの黒焦げの車の車種とナンバープレートを本部に先に知らせてからこっちに回ってくれ」


「はい!」


 そして、私達は分かれてこの現場の捜査を開始するのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それからおよそ30分後―


「何か出たか?」


「こちらは何もです」


「こっちもっすね」


 周り散らばっていた同僚達が一ヶ所に集まる。


「そうか。例の人形の破片とか出ればいいんだが……」


「それらしいのは全くですね」


 私もだが見つかるのは車から出た散乱物ばっかりで、あの動画に出ていた人形の破片が全く見つからなかった。


「もしかして逃げた……いや回収したんですかね?」


「普通に考えたらな。でも、その前にどうやって動く車の中に侵入したんだ……」


 小見先輩の言う通りで何も見つからなかった事も不思議なのだが、その前にどう侵入したのかが全く予想がつかない。


「普通に考えたら、彼らが車を走らせる前に細工をしたというのが自然ですよね」


「それなら走ってる車にバイクなんかで追い付いて投げて仕掛けたとかっすかね」


「かなり無理やりだが……それはオービスを確認すれば分かるだろう」


「それと彼らの車は県外ナンバーでした。もし、仕掛けるとしたら彼らが寝泊まりしているホテルかと」


「いや。撮影を始める前に、もしかしたらどこかのパーキングエリアで停めて打ち合わせをしていたとしたらそこでも出来るはずだ」


「彼らの足取りを調べる必要がありますね」


「だな。そうしたら、うちらは撤収してそこらへんの調査をするぞ」


 皆が返事をして、その場を離れようとすると一人の消防団員がこちらへと走ってきた。


「すいません!ちょっと奇妙な物が!」


 その発見の知らせを受けて、その奇妙な物がある場所へと向かう。


「これです」


 道路脇ですでに鑑識の人達が作業をしている。鑑識の人がそれを証拠品袋に入れて、こっちに見せてくれた。これは……。


「カニだな」


「カニですね」


 小さなカニの死骸。少し腐敗が進んでいるみたいだが……。


「サワガニですかね?というよりなんでここに?でも川なんて……」


「いや。恐らくこれ子供のカニの死骸だな」


「千葉さん。これ何のカニか分かるんですか?」


「う~ん……おそらくツクモガ二かな?」


「ツクモガニ?」


「正式名はトゲクリガニって言うんだが……海水の生き物なんだよな」


「詳しいな」


「釣りが趣味でして前に釣り仲間から教えてもらってな。この目より前にある4つ角が特徴で、これに似たクリガニもいるんだけどそちらは北海道の根室やオホーツクだからな。ほぼ間違いないと思うぞ」


 喜々して話す千葉さん。この人にそんな趣味があったとは……。


「海は……ここからだと遠いな」


「そうだな~……このカニは市場には滅多に回らず、ここいらだと地元で消費するから運搬の可能性は低いしな……」


「でも、メリーさんに繋がる証拠の可能性がありますね」


「佐々木。何をいってるんだ」


「忘れたんですか?久美さんが言ってたじゃないですかメリーさんの髪から海水の成分が出たって!」


「そういえばそうだったな……メリーさんに海……何の関係が?」


「犯人からのメッセージですかね?」


「もし、それならどうしてそんなメッセージを?」


 メリーさんの物語に海に繋がる物は何もない。一体そこにはどんな理由が……。


「ありがとうございます」


 鑑識の人が一礼して、それを下げて自分の仕事に戻っていった。あれが本当にトゲクリガニかの調査は彼らに任せよう。


「よし!いくぞ!」


 この後、死んだ彼らの足取りを調べるために私達は関係ある場所へと車を走らせるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それからおよそ2週間後の夕方「警察署」―


「出ない……」


 私は机に突っ伏して、ボソッと愚痴をこぼす。


「ただいま戻りました」


 声のする方を見ると小見先輩が外から帰ってきた。


「お疲れ様です」


「あれ?部長は?」


「本部長に呼ばれました。激励を受けてるかと」


「激励じゃなくて叱咤だろう」


 溜息を吐いて、小見先輩は自分のデスクの椅子に座る。彼らのやったことは自業自得なのだが市民からは警察への非難が夜から殺到。あの日の早朝にすぐさま警察…本部長が謝罪会見をする羽目になってしまった。それからは本部長がたびたび口を尖らせている。


「何の証拠も出ませんしね……」


「そっちもか?」


 小見先輩が訊いてきたので、皮肉をたっぷり込めて答える。


「彼らのあの日の足取りを調べたところ、事件直前に近くのパーキングエリアに車を停めていました。しかも嬉しい事に駐車場を映している監視カメラからよく見える場所でした。残念な事は怪しい人影に人形影は現れませんでしたが。あ、それとオービスも調べて彼らの車は発見出来たそうですが、これといって変わった所は無いそうです」


「こっちはアイツらが泊まっていたビジネスホテルを見つけた。ホテルの従業員に聞き込みしたが、直前の彼らに変わった様子は無かったそうだ。肝心の車だが…付近の防犯カメラに写っていた彼らの車の屋根には何も映ってなかったよ」


 小見先輩が喋り終える。それから少しして二人して盛大な溜息を吐く。


「ああ。それとあの現場で見つかったカニですが、千葉さんの言う通りトゲクリガニでしたよ」


「そうか。でも、それが分かってもな……」


 そう。そんなことが分かっても犯人に繋がらない。このトゲクリガニは地域限定という訳でなくかなり広い範囲に生息しているのだから。


「やっぱり……」


「うん?やっぱりなんだ?」


「いいえ。終業時間なので私、今日はこれで帰りますね」


「ああ?とりあえず今日くらいはしっかり休めよ」


「はい。お疲れさまでした」


 私は警察署を後にして、すぐさま女子寮へと戻るのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「女子寮・自室」―


「仮眠オッケー!カメラオッケー!パソコンもオッケー!よし!」


 帰った私はあの後すぐに仮眠を取って、一晩中起きていられる状態にした。


「後はメリーさんが来るかどうか!」


 そう。何も証拠が出ない以上、前に話していた囮作戦を周囲には黙って実行することにしたのだった。


「無駄足かもしれないけど……これしか無いよね」


 私はパソコン画面に向き合い、メリーさんが来るまで待つ…………。


「何をしよう?」


 待つ間、私はパソコンを使って何をしようか悩む。


「メリーさんの黒電話について調べる……いや、そういえばもう少しであの日だな……玲香へ持っていく物でも調べようかな」


 およそ後一月……あの震災で死んだ友人の命日。


「どんなお花がいいかな」


 園芸部に所属していて、お花が好きだった彼女。昔の事を思い出しながら彼女への手向けの花を大手のショッピングサイトを見ながら考える。


「ポピーにガーベラ……アヤメ…」


 どの花がいいだろう?彼女が好きな花を思い出しながら見ていく。私はメリーさんの事をすっかり忘れて熱心に探す。探す事およそ一時間。あーだこうだ探しているといきなりメールの着信のお知らせが来た。


「こんな夜にメール?」


 件名もあて名も無い変なメール。しかし、あて名の無いメールはここ最近、私はよく見ている。まさかと思いつつ恐る恐る私はそれを開く。そこには一文。


―私メリーさん。今○○駅にいるの。―

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