七夜 悪夢の謝肉祭
前回のあらすじ「フラグ乙」
―その日の夜「車内」動画配信者達の視点―
「すげぇー!!なあ!見ろよ!もう10万いきそうだぜ!?」
「ほ、本当だ」
「こっち見てくれよ!SNSにもコメントの嵐だぜ!」
今まで多くても数千人だった視聴者数がたった一日でここまでいった。やはり、話題性の尽きないメリーさん事件を選んだかいがあったというものだ。
「危険だぞ!?って大丈夫に決まってるしょ!なんせ動いている車の中だしな!」
「ここ。次もやるんですか~!?だってよ!どうするんだよ?」
「やるに決まってるだろう!!どんどんやって人気者の仲間入りだ!」
「で、でもここは様子を……」
「安心しろって!動いている車には何も出来ないって!」
「でも、生放送後にいきなりって……」
「それはないな。俺、警察に知り合いいるんだけどな?どうやらこいつ夜にネットをやっている時だけにしか犯行をしないっていう異常者なんだよ。つまり……動いている車中でネットを切ってしまえば問題無い!!」
「サイコキラーみたいな奴か?」
「多分な。こういう奴は独特なルールを持つ奴が多いしな。だからルール違反はしないはずだぜ?」
「安心できないな……」
「大丈夫だって!それに、お前も人気者になりたいだろう?大好きなあの子とお近づきになりたいんだろう?」
「わ!それ黙っててよ!」
「なんだなんだ?お前好きな奴がいたのかよ?」
「俺達が行くあの店の……」
「何だ!お前あんな奴が好きだったのか?」
「何だよ!いいだろう?小さくてかわいくて……」
「まあまあ。どうだ?」
「そ、それは…………うん」
「なら決まりだ!」
「こいつの恋路の為に頑張るとしますか!」
そして俺達は大いに笑い合う。このまま行けば取り合えずの人気は得られるだろう。けど、こんなネタなんてすぐに飽きられる。次の話題性のあるネタを考えないと……。
「まあ、そんなのは明日考えればいいか……」
その後、今日の夜中のために準備を始めるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夜中「警察署」―
「どうだった?」
「ダメです部長。家族からの関係も洗ったのですが……」
「見つからなかったか」
「接点も何も……です」
「そうか……」
部長はそう言って、指で顎を触りつつ考え始める。全く何も手掛かりが見つからないとは思わなかったのかもしれない。そして恐らく、私達より先にきた他の仲間からの報告も同じなのだろう。
「全く手掛かりなしですか?」
「そうだな。ここまで来て何もないとは思わなかった。相手は本当の愉快犯かもしれないな」
「そうなると捜査しにくいですね」
「近辺の防犯カメラを洗い直すしかなさそうだな」
小見先輩と部長が今後の捜査について話し始める。
「……本当に人間の仕業なんですかね」
ボソッと私が呟くと小見先輩と部長がこちらを見てくる。
「当たり前だろう!言っただろう?怪奇現象とかそんなの非現実的で……」
「いや。あながち佐々木の言ったことも間違いじゃないかもしれない」
部長からの肯定的な意見が返ってくる。思わず私と小見先輩は驚いた表情のまま部長へと顔を向けてしまった。
「部長!いくらなんでも?」
「小見の言いたいことも分かるぞ。でも、長年刑事をやっているとそんな事件に関わることがある」
「部長が……ですか?」
「被害者だったがな。俺がまだ交番勤務の時に関わってな。夏なのに長袖のセーターを着た女がたびたび目撃されって通報が何度かあったんだよ。それで同じ場所ってことで張り込んで、よし来た!と思ってその場に走っていくと……いつの間にかいなくなってしまう。そんなのが2、3ヶ月続いたんだよ」
「それでどうなったんですか……」
「不審に思った俺は周辺を調べたら……地面からセーターの一部が見つかって先輩やら他の人を呼んでその場を掘ってみたら、死んで骨だけなったボロボロだったが長袖のセーターを着た被害者が見つかったよ」
「そんなことが……」
「それで通報してくれた市民から話を聞いて似顔絵の作成。それを元に捜査したら元交際相手に行きついてな。それで御用となった。その時、始めて被害者の顔を写真で見ることが出来たんだが……似顔絵、そして俺が見たのと同じ顔だったよ」
部長はそう言って、椅子から立ち上がり窓の景色を眺め始める。
「被害者の無念さとは時にそんなありえない事を起こす時があるって学んだよ。それ以来、俺はそんな事もあると考えるようになったよ」
私と小見先輩は黙ったまま部長の話を聴く。私の知る部長は冷静沈着、それでいて被害者の無念を絶対に晴らすというような情熱を持った刑事である。そして捜査の際に空想や絵空事を言うような人ではない。そんな部長が言ってるのだ。この話は本当ってことなのだろう。
「部長……もし、もしですよ今回の事件がそうだったとしたら?」
「恐らく俺達がメリーと言ってる犯人は何かしらの無念を持った相手という事になるのだろうな。ただ、それが何故殺人に繋がるのか不明だがな」
「部長……」
「佐々木。最近、お前さんの知り合いにその手に詳しい相手がいるようだが何か情報は手に入ったか?」
「いいえ。あくまでメリーさんの電話の進化版としか……」
「意外にもその線で調査することが、この事件の解決に繋がるのかもしれないな」
「部長!!これ見て下さいっす!!」
部長と私達が話していると、体育系の同僚が大声を出して部長の名を呼んでくるので3人してその場に集まる。するとその場にいた他の同僚も集まってきた。
「どうした?」
「昨日、メリーさんを挑発するような動画を生放送した配信者が再びやってるんですよ」
同僚のパソコンには昨日と同じ配信者の姿が映っている。
「(えーただいま、昨日と同じ方法でメリーさんが来ないかやってます。画面の右端に僕が今見てるパソコン画面が見えてますでしょうか~!)」
「全く!ここまでくると不謹慎だな!」
「そうだな」
小見先輩の一言に他の仲間が同意してくる。
「何も起きなければいいんですが……」
「そうだな……」
私と部長、他数名はその行為によって何も起きなければいいと願ったりする。しかし……その願いは叶わなかった。
「(うん?)」
配信者に何かがあったようだ。もしかしてと思って画面の右端にあるパソコン画面の画像を見るとそこには例の文章が
―私、メリーさん。今、○○パーキングエリアにいるの―
それに他の同僚も気付き始める。
「おいおい!まさか!?」
「俺はすぐに高速隊に連絡して配信者たちの車を見つけるように話する!お前達はすぐに出られるように準備しておけ!!」
「は、はい!」
すぐさま全員が行動に移す。私は自分のスマホでその動画を映しながら出動の準備をする。
「(来た来た!マジで来たよ!!)」
「(これヤバくね!?)
「(大丈夫だって!こっちは常に動いてるんだぜ?そんな事は万が一にも起きねえって!)」
配信者達が声を高ぶらせながら話をしている。コメント欄には視聴中の人々からコメントが寄せられている。
(ヤバいって!!すぐに逃げて下さい!!)
(どうするんだ!?って電話!警察に電話!!同じ県に住む方連絡を!!)
(もうしてます (`・ω・´)ゞ 間に合うといいんですが……)
同僚の一人が電話に出ている。きっと、その電話なのだろう。すると。
―私、メリーさん。今、○○パーキングエリアにいるの―
さっきのパーキングエリアとは違うパーキングエリア名。
「となるとこいつら上りの車線にいるってことか。となるとメリーさんの黒電話も考えると大体この辺りだな」
小見先輩が地図を持って、私に見せてくれた。それは今のパーキングエリアよりかなり先の場所だった。どうやら県庁所在地であるこっちの方へと近づいて来てるようだ。
「どうしてここですか?」
「メリーさんの黒電話を考えればな。駅から家まで順々に近づいていくとな」
「なるほど」
―私、メリーさん。今、○○ICにいるの―
「(やべえ!近づいて来てるぞ!)」
「(大丈夫だってここは動く密室だぞ?)」
慌てふためく配信者達。どんどん忙しく更新されていくコメント欄。そんな訳が無い。あくまでメリーさんは都市伝説なのだと。しかし画面から、ゴンッ!と音が響き、無情にもメリーさんの次のメッセージが届く。
―私、メリーさん。今、あなたの車の上にいるの―
そのメッセージを見た配信者達は上を見る。当然だが車の屋根に何がいるか見える訳が無い。しかし、さっきの音が上に何がいるかを物語ってしまう。
「(た、たまたまですよ~!皆さん、たまたま何かが屋根にぶつかっただけですからね~!それと、この動画を見てメリーさんを名乗っている方!悪戯はダメですよ~!!)」
明るく振舞っているが、その声には弱々しさを感じる。
「佐々木!いくぞ!!」
小見先輩の声に画面を見ながら返事をする。この動画に集中して見てしまう。この後、何が起こるかと考えると目を離せなくなってしまう。だから……気付いてしまった。配信者が少しだけ体を動かした瞬間にいる金髪碧眼の姿をした人形の姿。そして再び配信者の体で隠れてしまった。
「ひっ!」
思わず私は声を漏らしてしまう。
「どうした?」
小見先輩が私の声を聞いて、傍へと近づいてきたので、スマホの画面を見せながら説明する。コメント欄に今の私と同じようにメリーさんを見つけた人々からの書き込みが書かれていく。それとほぼ同時に再びメリーさんからのメッセージが届く。
―私、メリーさん。今あなたの後ろにいるの―
「(え!?)」
配信者達が体を捩じって後ろを見る。しかし、そこには何もいない。さっきまでそこにメリーさんはいたのに……配信者達が後ろの座席とかも確認しているが、どうやらいないようだ。
「(な、なんだよ)」
すると、右画面にあったパソコン画面が黒くなって何も映さなくなった。すると、配信者の一人がパソコンを見て、その最後のメッセージを読み上げる。
「(私、メリーさん……今、あなたのパソコンの中にいるの……)」
配信者がそのメッセージを読み上げた瞬間、配信者へと向かって汚れた球体人形の両手が頭を掴み180度回転させた。その際に、ボキッメキッと骨が折れる音がした。
「(ひっ!!!!)」
隣にいる配信者が驚いて画面からフェイドアウトする。しかし、そんなのお構いなしに人形は腕を動かしてそのまま頭を捻じり切る。切られた首から大量の出血そして画面を赤一色に染め上げる。
「(うわああああああああーーーー!!!!)」
フェイドアウトした配信者の絶叫。
「(く、来るな!来るな来るな!!!!……うわああああああ!!痛い!やめっ!!)」
その絶叫の後に、ブチッ……グチュ……。の音。この配信者が死んだ音。
「(な、なに!?どうしたの!?)」
先ほどの二人より小さい声がする。恐らく運転手だろう。そして……。
「(うわー!!何なんだ!?こ、痛い!やっ!ああああああああ!)」
そして、今度は画面から金属が擦れる音と何かが砕ける音……。そこで画面は途切れる。
「くそっ!おい佐々木!!って大丈夫か!?」
動画が終わった瞬間、私は手に持ったスマホを落とし、そのまま膝をつき、手で頭を押さえる。終わったことによって思い出してしまう首が捻じ切られる瞬間と出血……そして配信者達の断末魔……。
「顔色が悪い……おい!佐々木!大丈夫か!」
小見先輩の声が聞こえる。ただ、今の私はその言葉に返事するような気力は無く、ただ喉元に来る吐き気を押さえるのに精一杯になるのだった。