四夜 新たな犠牲者
前回のあらすじ「メリーさんの電話の説明」
―次の日「警察署」―
「手掛かりは……なしか」
「そうですね……」
あの後、小暮の近辺を担当していた他の同僚と一緒に手分けして捜査したのだが……。
「恨みつらみはあっても、あんなことが出来る人間はいませんね」
「そうだな……人間の上半身をあそこまでバラバラに出来る方法が思いつかねえな」
「おい!小見!佐々木!」
部長が部屋に入って来て、大声で私達の名前を呼ぶ。
「どうしたんですか部長?」
「新たな犠牲者だ!今度は片手をもぎ取られて死んだそうだ!現場に行って周囲の人間の事情聴取をしてくれ!」
「了解!いくぞ佐々木!」
「はい!」
私達はパトカーに乗り込み、急いで現場に向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「現場近くのマンションの駐車場」―
「今回の犠牲者はこのマンションの4階に住む三坂 俊太郎35歳の独身。鑑識による三坂の死因は腕を千切られたことによる出血死が濃厚だと」
「職業は……地元企業に勤める会社員か……それで直前の被害者の行動は?」
小見先輩が訊くと、先ほどまで説明してた同僚が言い難いのか少しだけ間を置いてから話す。
「……違法サイトですよ。どうやら小児性愛者だったみたいで、それ関係の違法な動画を見ながら……」
「うわ……!最悪!!」
「鑑識が言ってましたよ。こんな恥ずかしい死に方はゴメンだな。っと」
今回の被害者が、小暮に続いてまたそんな奴かと思いながら、ふと思ったことを訊く。
「それで、この前の事件の被害者である。小暮との関係は?」
「今のところは……無いですね」
「そうですか」
ここは小暮のアパートとは違い、オートロック付きのエントランス……中々いいマンションだ。
「ずいぶん稼いでいるみたいですね……」
「おい。こいつ独身なんだよな?誰が第一発見者なんだ?」
「出社時間になっても来ないので、三坂の持つスマホに連絡を入れたのですが繋がらず同僚がここのマンションの管理人と……」
「なるほどな」
「ただ、その前にここの管理人が違う階に住む親子からメリーさんがらみの連絡があったそうです」
「え?それじゃあ、今回2件発生してるんですか?」
「とは言っても、小さい子供の証言なので本当かどうか……」
「そしたら、俺と佐々木でその子供に話を聞いてくる。こいつ子供との意思疎通は得意だからな」
「分かりました。俺達は他を当たってみます。それでこれが親子の住む部屋の番号です」
「分かった。行くぞ佐々木」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「6階・岩本家のリビング」―
「申し訳ありません!子供が変な事を言ったので……」
ソファーの対面にいるのは3人の親子。平日なのに珍しい。
「いいえ。もしかしたら何かしら関係があるかもしれませんから……それで、この子が?」
「お嬢ちゃん。お名前は?」
「イワモト ミキ!7さい!」
「そうなんだ。それで何があったか教えてくれる?」
「うんとね……お人形さんと遊んだの!」
「お人形さんと?」
「うん。昨日、トイレにいきたくなって起きたの。それで部屋に戻ろうとしたらお父さん。またパソコンを付けたまま寝てたの!」
「お父さん。すみませんがご職業は……?」
「フリーのイラストレーターをしています。それで、昨日は遅くまで作業をやっていて……そのまま寝落ちを……ははは」
そう言って、隣に座っている奥さんと子供に叱られている。どうやら常習犯のようだ。
「それで……あなたはどうしたのかな?」
「それでね。お父さんにおふとんをかけてあげたの!そしたらパソコンが勝手に動いてたの!それで難しい言葉とかあったけど……遊ぼう!って書いてあったの!」
「お父さん。そのパソコン画面を見せてもらえますか?」
「はい。どうぞこちらへ」
「佐々木。その子の話は頼んだ」
「はい」
小見先輩がこの子の父親と一緒に書斎へと行くのを見た後、再び女の子の話を聞く。
「それでどうしたの?」
「私がいいよ!って言ったらね!かわいいお人形さんが出て来たの!!それで一緒に部屋で本を読んだり、おしゃべりしたり……髪を結んであげたりしたの!」
「最初はこの子が夢を見たんだと思っていたんですが……主人のパソコンに例のメールが来てたので……」
「なるほど……それで、そのお人形さんは?」
「わからないの……いつの間にか私、ねちゃってママに起こされたの」
「そうか……ねえ、そのお人形さんって動いたり喋ったりしたの?」
「うん!まばたきしないでこっちを見たりするのは少しこわかったけど……楽しかったよ!」
「そうか!よかったね!」
「うん!!」
……どうやら、この子の前に現れたメリーさんは今までのメリーさんとは違うようだ。今までは球体関節の人形が襲い掛かってきたとかそんな話なのに、この子の前ではそんなことをせずに一緒に遊んでいる……そんな事を思っていると小見警部とこの子の父親がリビングに戻ってきた。
「どうでした?」
「同じ物が来ていた……今、鑑識を呼んで調べてもらう」
「あの~……娘があったのは…本物の?」
「分かりません。今までの被害者の多くは気絶していたそうです。しかも今回も死者が出ていますし……」
「そうですか……」
そう言って、奥さんが娘の頭を撫で始める。すると子供はそれがくすぐったい素振りを見せて、そのままお母さんに甘えだす。
「まあ、娘さんが何かお気づきになったらご連絡下さい」
「はい」
「あ、そうだ。ねえサキちゃん」
「なに~?」
「遊んだ時にお人形さん何か変わったところなかったかな?」
「う~~~ん……あ!海の匂いがしたよ!!」
「海?磯の香ってことか」
それを聞いた私は一途の可能性を考え、サキちゃんにあることを訊く。
「ねえ。髪を結んだりして遊んだんだよね?もしかして櫛とかブラシを使った?」
「うん!」
「それ借りてもいい?」
「いいよ!」
サキちゃんが椅子から降りて、自分の部屋へと走っていった。
「すいません。少々お借りしますが……よろしいですか?」
「ええ。後、もし部屋を調べられるならどうぞ」
「ありがとうございます」
「いいえ。私共もあの子が見た物が本当かそれとも夢なのかハッキリさせたくて……」
「もってきたよ!」
サキちゃんが私の所へと走って来て、その手に持っていた小さいおもちゃのブラシを渡してくれた。
「ありがとう。終わったらすぐに返すからね」
「うん!」
そして、このブラシが新たな謎を生むきっかけとなるのだった。