三夜 メリーさんの電話
前回のあらすじ「喫茶・みくもでの休憩」
―「喫茶店・みくも」―
「メリーさんの電話は都市伝説の一つで、生まれた年代は詳しくは不明ですが1990年に本として出版された内容にメリーさんが載っているそうです」
「1990年って私が生まれる前からあるんですね」
「俺にとっては意外だな。もっと古くからあるものかと思ってたんだが……」
「本として形として残っているのが1990年ってだけですから、もしかしたらもっと古い年代かもしれないですね。それで続けますね。……話の始まりは少女が引っ越しの際にメリーと言う西洋人形をゴミ捨て場に捨てたことから始まります」
「それで……?」
「そして引っ越しからしばらくして、両親がたまたま仕事でいなかった夜に電話……昔なので家の固定電話が鳴り始めました。そして少女はその電話を何の気にもしないで取ります。すると……こう言うんです」
(私、メリーさん。今、ゴミ捨て場にいるの)
「ひっ!」
「少女は怖くなってすぐに電話を切りました……すると、また電話が鳴り始め……少女は再び電話を取ります」
(私、メリーさん。今、××駅にいるの)
「すると、今度は少女が切る前に先に電話が切れてしまいました……××駅は今、住んでいる家の最寄り駅です。少女は恐る恐る受話器を元に戻します……すると!また電話が掛かってくるのです。少女はまた電話を取ってしまいます」
「な、なんで取っちゃうんですか……!?」
(私、メリーさん。今、××交番にいるの)
「そして……電話は切れました……間違いない……こっちに近づいて来ている……そして、また掛かってきます。少女は怖さで取りたくありません。しかし、一向に電話は切れることがありません。仕方なく彼女は電話を取ります」
(私、メリーさん。今、××ちゃん家の前にいるの)
「少女は驚き、家の玄関を開けて確認します……しかし、そこには誰もいませんでした。何だ悪戯か……。っと思っていたら、再び電話が……少女は誰かの悪戯と分かったため何の心配もしないで
……むしろ、相手に怒ってやろうと電話を取ります」
「そ、それで……」
「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの!!」
「きゃーーーー!!!!」
突如、背後から声に店の迷惑を考えずに大声を出しながら、椅子から転げ落ちる。
「って!おい!大丈夫か!?」
「せ、せせ先輩……」
「大成功ですね」
「大成功じゃないですよ!!」
私は立ち上がり、椅子を元に戻して再び座り直す。
「酷いじゃないですか!!」
「はははは!すまんすまん。まさか、このネタでここまで驚かれるとは思ってなくてな」
「私もちょうどいいと思って黙ってました。すいませんでした」
そう言って、店員さんが頭を下げた。
「はあ~。分かりました。それで今のがメリーさんの電話なんですね」
「はい。少し私が脚色した部分がありますが、基本は電話が掛かって来て、主人公が電話を取る。を繰り返して最後には背後に立たれる。というのが基本ですね」
「脚色?」
「さっき、そちらの刑事さんが背後から声を掛けていましたが、中にはそのまま受話器から先ほどの言葉を掛けられるというのもあります」
「な、なるほど……それで、これの続きは……?」
「ありません」
「無い……?」
「この話の最大の特徴が恐怖が余韻するところですね。どうなったのか分からない不気味さというのでしょうか……」
「なるほど……」
「でも、あの映画だと学校の職員が殺されたりしてたな……」
そう言いつつ、先輩がコーヒーを飲んでいる。
「あ~ありますね。その時はジャック・オ・ランタンみたいなやつでしたっけ?」
「そうそう!ただカボチャじゃなくてスイカの……」
「あ、あの!それで今回のメリーさん事件と何の関係が!?」
話が盛り上がっている中で悪いが、しっかり説明をして欲しい。
「つまりだ。今回の犯人はこれを模倣して事件を起こしているってことだ……電話じゃなくてSNSだがな」
「そうなりますね」
「な、なるほど」
私は少しぬるくなったココアを飲み、恐怖で乾いた喉を潤した。
「まあ……最近のメリーさんの話の派生版は恐怖というよりジョーク系が多いですね」
「ジョーク系?」
「はい。家の鍵を全て閉めていたら玄関から、入れて~!って泣かれたり、相手が超高層ビルにいて途中で力尽きたり、後は電話を掛けた相手が間違っていたとか……中にはメリーさんとコトを済ませたりするのもあるそうですよ」
私はそれを聞き、一気に力がに抜ける。そんな話を聞いてしまうと、何だ……大したことの無い……と思った。
「まあ……刑事さんが追っているメリーさんはガチのホラーですけど。ニュースで聞いたんですが、殺人が起きてるんですよね?」
「そうだな。下手すると自分がミイラ取りのミイラになるしな」
小見先輩はマスターと楽しそうに談笑する。……って!
「そ、そんな相手をどうすればいいんですか!?高速移動できるお化けなんて!!」
「バーーーカ。本当のお化けな訳ないだろう?それにだ……そんな事件があったって話も無い。もしあったら今回の事件の調査のために過去の事件の模倣かもしれないと思って捜査書類を取り寄せているはずだしな」
「あ……。それも……そうですね」
確かにそうだ。そんな事件があったらニュースにもなるし当然、警察が調査することになる。
「相手は人だ。何かしらタネも仕掛けもあるってことさ……っと、すっかり長居したな」
時計を見ると、大分長い休憩になってしまった。
「それじゃあ、お会計で」
「はい。ありがとうございます」
私達はお会計を済ませて、店を後にする……。
「三雲さん?」
「はい?」
「もし……幽霊だったらどうすればいいですか?」
「もしですか?」
「はい……」
メリーさんの電話を聞いて、正直に怖くなってしまった私はこの手に詳しい三雲さんに訊いてしまう。
「うーーーん……条件にもよりますけど、相手が何かを求めているならそれに応える事ですかね。例えば、こいつが恨めしい!とかでしたら、その人を法の下に裁くとか……何か物を望んでいるなら、それをお供えするとかですかね?」
「な、なるほど……ありがとうございました」
「いいえ……お役に立てたなら光栄です?」
「おーーーい!!いくぞ!!」
小見先輩が少し離れた場所からこっちに向かって怒鳴っている。
「それでは失礼します!」
「またのご来店をお待ちしております」
三雲さんが深々とお辞儀して見送ってくれる中、私は小見先輩と合流して小暮のアパートに行くのだった。