二夜 連続メリーさん事件
前回のあらすじ「一人逝った」
*内容を少し変更して連続小説にしました。ホラーとしては物足りない物になると思いますが
よろしくお願いします。(不定期は変わりません)
「……今回で10件目か」
私は今日の朝、部長も話したここ最近起きているある連続事件について考えていた。
「どうした?」
「あ、小見警部!おはようございます!」
「おう。おはよう。で、佐々木。何を考えてるんだ?」
「何って…決まってるじゃないですか。連続メリーさん事件ですよ。10件も事件が起きてるのに今だに犯人に繋がる証拠が出てないんですよ?何かいい方法は無いかなっと?」
「新人のお前が思いつくなら、他の奴等が思いつくさ。しっかし、今回の事件は良く分からねえなあ~。被害者は自分が殺された夢を見たって言ってるしよ?」
「しかも全員、ボロボロの洋風人形に殺されたですもんね。被害者全員の共通点は倒れる直前ネットを使っていたぐらいですし…」
「そうなんだよな……」
そう言って小見警部は右手に持っていた缶コーヒーを飲みながら自分の席に座る。他にも仲間の警官が座っているが、困った顔を浮かべている。
今回起きた事件。それは連続メリーさん事件。名前も奇抜だが犯行も奇抜だ。被害にあった人たちは全員パソコンやスマホを使ってインターネットをしていた。ただやっていた内容は様々で、悪質な誹謗中傷を書いていた者も入れば、ただオンラインショッピングを楽しんでいた者、仲間とチャットを楽しんでいた者、そして…ネット配信を行っていた者。最初の事件がこれでネット配信中に配信者がパソコンに引きずり込まれて、自信の血で部屋を血まみれにするという事件が起きた。連絡を受けた警察はただちに配信者の部屋に向かったのだが……勢いよく入った部屋は血まみれでは無かった。しかし被害者は床に倒れていてすぐさま病院へ搬送。特に異常はなかったのだが、一週間ほど昏睡状態に陥ってしまった。そして同じような症状で運び込まれた人がこの地域で続出。今ではこの地域でそれらを使うのは少しばかりの度胸試しになっている。
「ただ……死人も出ている。早期に解決をしないとな」
「ですね」
そしてついに、先日、初めての死者がでた。名前は小暮 勇太。死ぬ直前までやっていたことは悪質な誹謗中傷。そしてその死体はパソコン画面の前に放置されていて、上半身はもはやどの部位か分からないほどぐちゃぐちゃにされた状態で床に……下半身は失禁した状態だったらしいがキレイに残っていたそうだ。
「まだ、善意のある市民じゃないのが救いですかね……」
「悪人だろうが殺したら罪だ」
そう言って、小見警部が立ち上がる。
「どこへ?」
「こんな事件が可能なのかを専門家に訊く。部長には伝えてあるから、これからあっちこっち尋ねるつもりだ」
「私もいいですか?」
「……邪魔するなよ?」
「はい」
私はそう言って、椅子に掛けていた上着を羽織るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―数時間後―
「手掛かりなしか……まあ、予想してはいたがな」
電子機器に詳しい大学の教授への訪問からの帰り道。私達は車が多く通っている道を歩いていた。
「一番有力なのは相手を気絶。それからあの動画を流した……でしょうか?」
「それなら他の被害者でもやっていたはずだ。しかしこいつは最初の事件でしかやっていない」
「他の被害者は気絶している所を発見。そしてそのまましばらくの間、昏睡状態だったのと、電子機器での画面のやり取り、そして被害者の証言によって同一事件として扱ってるぐらいですもんね」
「そして……ついに殺人だ」
私は思わず口で手を抑える。
「おいおい。こんな所で吐くなよ?」
「……だって、あんな死体を見たら普通はこうなりますから」
床に人間の目玉が落ちている……思い出すだけでもうスプラッター映画を丸々一本見た気分だ。
「俺達は警察だぞ……しかし、寒いな」
そう言って小見先輩はポケットに手を突っ込む。
「まだ、2月ですよ?寒いのは当然ですよ」
「ああ。しかし、こうも寒いと温かいのが欲しくなるな」
「それならあそこはどうです?喫茶店みたいですよ?」
「うん?……喫茶…みくも?」
「どうです?」
「……まあ、少し休憩をとるか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「喫茶店・みくも」―
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
カウンターからする声……そこには若い店員。そしてサイフォンが置かれていた。私はそこから店内を見渡すと、細かい装飾が施された椅子にテーブル、調度品も内装に合わせて落ち着いた雰囲気になっていてお洒落なアンティーク喫茶になっていた。テーブル席もあったので私達はそちらに座る。……店内には私達しかいないようだ。
「メニューになります」
私達はメニューを受け取ると、さっと目を通す。食事にもましてや三時のおやつを食べに来たわけでは無いので飲み物、しかも温かいのを選ぶ。
「ああ~……ホットコーヒーで。お前は?」
「私はホットココアで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員はメニューを回収してそのままカウンターへと戻っていった。
「それで……この後はどうしますか?」
「うーん……署に戻っても意味が無いだろうしな……」
「それなら……初めて殺人の起きた小暮の住んでいたアパートはどうですか?」
「どうしてだ?」
「どうして彼だけが殺されたのか?犯人は何か考えがあってこの一連の犯行に及んだ可能性もあります」
「……そうだな。そうじゃなくてもアイツだけ何か特別な事があって殺された可能性もあるな」
「そうえいば小暮ってどんな人物だったんですか?私、他の被害者を担当していて詳しい事はまだ知らないんですよね」
私の質問に小見先輩は溜息を一つ吐いて説明してくれた、。
「……ハッキリ言ってしまえば迷惑な隣人だったそうだ。仕事も性格と不真面目の為に幾つもクビになって、最近では日雇いの仕事をしていたそうだ。それとお前が署で話してたように誹謗中傷を現実でもネット上でも行っていたそうだ。それゆえに疑わしい人物も多い……」
「恨まれているってことですか……まさか、アガサ・クリスティーのABC事件みたいに何か順番があったとか?」
「それなら本当の目的は今回の小暮の殺害になるが……俺としてはそうは思えない」
「というと?」
「考えて見ろ。もし猟奇殺人を演じるなら、小暮の前……9人の被害者も出す必要は無いはずだ。それだけの犯行を積めば何かしらの証拠を残してしまうからな。それに被害者の名前、職業に関連性は無い。あるのは県内……しかも、この地域内ということぐらいだ」
「何か共通した趣味とか……一緒のツアーをしたとか?」
「いや……それもなさそうだ。そもそも小暮自体が誹謗中傷や嫌がらせばっかりしていて、他の趣味という趣味が無いみたいだしな」
「言っちゃ悪いですけど……被害者が小暮で良かったと思います」
「……それでも殺人はダメだ」
小見先輩はそうは言うが、素直に私の言葉を否定できない感じだった。
「犯人は一体……」
「お二人は……警察の方ですか?」
振り向くと、カウンターから若い店員さんがこちらに声を掛けてきた。
「すいません。他の人もいないのでつい……」
「いいえ……こちらこそすいませんでした。どうかこのことは内密に」
「分かってます。マスターってそんなものですから」
「マスター?じゃあ、ここの店長なのか?」
「はい。私はここのマスターをしています三雲 七生といいます。店の名前は僕の苗字なんです」
「あ、なるほど。みくもなんて珍しいなと思ったんですよね」
「ここは亡くなった祖父が開いた店でその後を僕が継いだんです。それで大体のお客様が悩みを祖父に相談したりしていたので……マスターとはそんなものなのかな、と」
「お爺さんもお喜びでしょうね」
「そうですね……おませしました」
喋りながらもテキパキとした仕事で、コーヒーとココアを用意して私達の席に置いていく。
「それで……例のメリーさん事件ですよね?」
「ええ。まあ……」
「昔の映画とかで見たメリーさんとは大分、様子が違うようですけどね……メリーさんの電話も進化してますね」
「メリーさんの電話?」
私は聞いたことの無い言葉に思わず口にしてしまう。
「え?」
「お前……メリーさんの電話、知らないでこの事件を調査してたのか?というかかなり有名な都市伝説だろうこれ?」
「都市伝説とかそんな怖い話は苦手なんですよ!だからそう言う話は見ないようにしてましたし……」
怖い話の定番である報われない話とか理不尽にバケモノに殺されたりとか……中には夜、振り向くと……もう想像しただけでダメである。
「なら……ご説明しましょうか?私、そう言う話が大好きでして」
「……お願いします」
「それでは、説明させてもらいますね」
私はこの歳にになって初めて、メリーさんの電話がどんな話なのかを聴くのだった。