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私、メリーさん。  作者: iris
13/13

終幕 勿忘草

前回のあらすじ「事件解決」

―それから4週間後「喫茶店・みくも」―


 非番の日。私は三雲さんの所に来てみると、部長と小見先輩もいて事件の後処理について話していたので私もそこに混ざっている。


「それで……事件の方は?」


「ああ……犯人は死亡という事で、適当な犯人をでっち上げた」


「しかし……そんな事をしていいんですか部長?」


「……お前が偉くなったら分かるさ。それまでは知らなくていい」


 部長が渋い表情で淹れたてのコーヒーを飲む。メリーさんを発見したその後、メリーさんは現れなくなった。その間に部長が今回の事件をどこかに報告して、そのどこかから、先ほどの内容で記者会見をすることになったのだった。


「でも……あれには驚きでした。まさかメリーさんを知らないうちにお焚き上げしちゃうなんて」


 冷蔵庫から発見された遺体はあの後、鑑識に回されて弥生ちゃん本人と判断された。弥生ちゃんの遺体はかな子さんの元に戻され、葬式の後に両親の眠るお墓へと一緒に埋葬された。そして一緒に見つかったメリーさんはにお寺に預けられてお焚き上げすることになったのだが、そのお焚き上げが弥生ちゃんの葬式の時に済まされてしまったのだった。


「魂の持つお人形に情をかけると取り憑かれる恐れがありますから。その対策だったんですよ」


 三雲さんがグラスを拭きながら答える。ちなみに弥生ちゃんの葬式には三雲さんも私達と一緒に来て、お線香を上げている。


「それは住職から聞いたので分かってます。ただお別れの挨拶位はと……」


 そんな理由がある以上しょうがないとはいえ、やっぱり完全に割り切ることは出来なかった。


「……これで無事に事件は解決…か」


「……いいえ。部長まだです」


 ホッとしている部長に小見先輩が真剣な表情でそれを否定した。


「何がだ?」


「佐々木の話を覚えてますか?あの人形…メリーさんに人殺しを遊びと教えた奴がいるんですよ?」


「あ、そうえいば……」


「聞いたお前が忘れるなよ!という事で、そいつを捕まえないと第2、第3のメリーさん事件が……」


「その心配はありません」


 三雲さんが拭いていたグラスを片づけながら答え、こちらに顔を向ける。


「何でだよ?だってメリーさんが……」


「……その件について憶測ですが」


「憶測?」


 三雲さんはコーヒーの準備をしながら話を始める。


「今回のメリーさん。どうして電話では無くメールだったのか。それはあの冷蔵庫と外を繋ぐ物が弥生ちゃんが持っていた携帯電話だったからだと思っています」


「携帯電話だったから?」


「はい。携帯電話には電話だけでは無くメール機能というのがあります。今回はたまたま電話では無く、メール機能……つまりネット回線を使ってメリーさんは外に出掛けていたんだと思います。どうして電話では無くメールなのか、どうしてそれが可能になったのか……そこに関しては分かりませんが」


「そういえば、メリーさんもどうして外に行けるとか行けないとか分かっていなかったような……」


「そうだとして何で心配いらないんだよ?」


「あの時、メリーさんと話して思ったのですが、あの感じだと5,6歳程度の子供に感じました。そしてメリーさんが話していた、遊びに行くと遊びを知る。というのはネット回線通じて移動してた際に、ネット内の様々な情報がメリーさんに入ってしまったのではないかと思うんです。そしてそれが殺人の原因では無いかと思うんです」


「殺人の原因?」


「なるほどな」


 部長が一人納得している。


「部長は分かったんですか?」


「ああ。確かにアレは遊びだな」


「部長。人殺しが遊びって……」


「合法だからな……ゲーム内の殺人は」


 部長のその答えに小見先輩が、ハッ!とした表情を見せる。私もそれなら納得してしまった。


「その通りです。ネットの普及で、そんなオンラインゲームも多くありますし、ゲーム内なら遊びで人の命を奪ったり、手足、首を千切ったり……ゲームの実況動画でもあったりします。そして子供であるメリーさんがそれを見て素直に遊びと受け取ってしまったのが原因だと思います。そしてメリーさんがメリーさんの電話を演じていたのも同じ理由かと」


「自分と同じ名前の人形が、そんな事をして遊んでいると思ったから?」


「ええ」


 三雲さんが少しばかり首を振って同意する。そして淹れ終わったコーヒーを私と小見先輩に出してくれた。私はそれを一口入れて、少しばかり乾いた喉を潤し疑問になったことを話す。


「でも……そうとも思えない気がするんです。あの子……あの時、あ、ようやく……。って言ってたんです。これって罪の意識があったということなのかな……って」


「かもしれないな。そのような情報も入れば、それとは逆の情報もあっただろう。それこそ法律というリアルを生きる俺達が守るべきルールとかな……」


「……個人的な意見ですが、恐らくメリーさんは早く見つけてもらいたかった。そして……止めて欲しかったと思うんです」


 私のその意見にすぐに返事は返されなかった。今となってはこの世にいないメリーさんの心情なんて誰も分からないのだから。


「そうかもしれませんね」


 すると、三雲さんが口を開き始める。


「もしかして自分というのがおかしくなっていくのを感じていたのかもしれません。それこそ本当の悪霊になってしまうと」


「もしかしたら2週間って……」


「おそらくは……」


 私と初めて会った時、あの2週間と頑なに指定してきたのはそれ以上はもたないとメリーさんは分かっていたのかもしれない。


「……覚えてますか?メリーさんの電話の話。最後に、今、あなたの後ろにいるの。で終わってしまうと」


「覚えてます。それで色々な話が作られているって……」


「私はこの話を聞いてこう思うんです……ただ、遊んで欲しかった。近くにいて欲しかった。捨てた恨みとかそんなのは無く、ただ……それだけだったんじゃないかって。だから、後ろを見てもそこにあるのはただのお人形として横たわるメリーさんしかいなかったんじゃないかと……そして、あのメリーさんはそんな人形で終わりたかったんだと思うんです」


「「「……」」」


 ただの人形として最後までいたかった……。それがメリーさんの願いだったかと思うとどこか切ない。


「もしかしたら……おっと!佐々木さん。そろそろ行かないと間に合わないんじゃないですか?ご友人のお墓ってここからだと結構かかりますよ?」


「え!?……あ!!い、行きます!!会計を!!」


 三雲さんに言われて時計を見ると、かなりヤバイ。急がなければ!!


「はい。これお釣りです。それと……」


 三雲さんがキレイにラッピングされたお菓子を渡してくれた。


「どうぞ。ご友人と一緒に」


「……ありがとうございます」


 私は三雲さんにお礼を言い、部長と小見先輩にも挨拶して店を後にするのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「喫茶店・みくも」三雲の視点―


「全く。あいつは慌ただしいな」


「申し訳ありません部長。しっかり指導しときます」


 二人が笑っている。先ほどのしんみりとした話をしていた僕達にとって彼女のアレはちょうど良かった。


「お陰で空気が和んで良かったですよ」


「だな……それで何を言おうとしたんだ?」


「はい?」


「もしかしたら。って言ってただろう?何か言いたいことがあったんじゃないか?」


「……」


 僕は少しだけ言おうか言わないか、少しだけ考える。導いた答えは……。


「いいえ。重要な内容じゃないので気にしないで下さい」


「そうか……うん?」


 突然、電話が鳴り響き、二人からは部長と言われていた園田さんが電話を取る。


「……そうか。分かった。今行く」


「部長?」


「事件だ。公園のトイレで遺体が見つかったそうだ。俺も行く」


「了解!」


 二人は席を立ち、お会計を済ませて店を後にしようとする。


「おっと!七生!」


「何か?」


 園田さんがポケットからカップ酒を取り出し、自分に渡す。


「爺さんに、世話になった。と伝えてくれ。お前もこの後いくんだろう?」


「……はい。確かに伝えときます」


「よろしくな」


 そう言って今度こそ店を後にしていった。それを見送った僕はかなり早い閉店作業を始めるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「喫茶店・みくも前の通り」三雲の視点―


「よし……と」


 店の看板をCLOSEにして鍵を閉める。そして僕は祖父の眠るお墓へ向かうために歩き始める。まだ少しだけ肌寒く、けど春がもう少しでやってくるこの時期。そんな季節の移り変わりを感じつつ通りを進む。少しだけ目線を変えると穏やかに川が流れているのが見えて、僕は思わずその場に立ち止まり川を眺める。


 そして、さっきの園田さんにの質問を思い出す。それは特に事件に関係する事では無かったからあえて言わなかった。


 僕の祖父。そして佐々木さんのご友人。そして弥生ちゃん。あの日、大勢の人がこの世から去っていった。でも、家族の元に帰れた人達はまだ幸せなのかもしれない。何故なら今現在もあの広い海の底で家族の元に帰れず眠っている人達がいるのだから……。


 しかし、それは人だけとは限らない。人が大切にしていた道具、写真、何かの記念品……持ち主が心の底から大切にしていたそんな多くの物も大切な人の元へ帰りたいと……あのメリーさんのように、今も暗い海の底で思っているのかもしれない。


「……」


 体の向きを変えて再び歩き始める。いつか、そんな多くの思いが救われることを祈って……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「海を眺めることが出来る霊園」―


「ありがとうね……毎年来てくれて」


「いいえ……大切な友人の命日ですから」


 玲香の墓石の前に行くと玲香のおばさんとおじさんがいたので一緒に墓参りをした。特に待ち合わせをしていたわけでは無いのだが、毎年決まった時間。サイレンの鳴る前に来ていたので、おばさん達もそれに合わせて来ているのだろう。


「あら……この花って」


 おばさんが私の持ってきた花束を見て、幾つものある花々からある一つに触れる。


勿忘草(わすれなぐさ)。ちょっとこの前の事件であの日を思い出すことがありまして」


「そう……」


 勿忘草(わすれなぐさ)。メリーさんの事件後にふと思い出した花。花言葉は「私を忘れないで」。小さくそれでいてキレイな青い花を咲かせる一年草。


「あれから大分、時が過ぎましたから……」


「そうね……」


 私達はそこから海の方を見る。あの日から……短いようで、それでいて遠すぎるほどに時間が過ぎてしまった。この霊園から望む景色も、ずいぶん人の生活を感じられるようになった。


「それじゃあ……私は帰りますね。家族団欒を邪魔しちゃ悪いですから」


「いいのよ?あの子もあっちで喜んでいるから」


「私も親孝行しないと……」


「ふふ。そう……」


 私はおばさん達と別れて霊園の中を歩く。海から吹きつける風はまだまだ冷たく、桜が咲くにはもう少し時間がかかりそうだ。それでも……時は止まらない。いつの日にかは桜は咲き、そして散っていく。


 記憶もそうだ。この日が来たらあの時を強く思い出すが、月日が経つに連れてそれが弱くなっていくのを感じている。私は後何回、玲香に会いに来るのだろうか……。あの勿忘草は玲香へのメッセージでもあり自身への警告でもあった。……もしかして、あのメリーさんとの出会いは、あの世にいる玲香が、忘れるなよ?と意味を込めて仕組んだり……。


「なんてね」


 どんどんマイナス思考一直線で変な事を考え始めたので、独り言を呟いて考えるのを止める。そんな先の事は考えてもしょうがない。ただ、また来年も会いに来よう。それだけは確かだ。


♪~♪~~


 スマホが鳴ったのでポケットから取り出して確認する。そこに映るのはあて名の無いメールが一通。私はそれを開きメールの内容を読む。短い文であるそれを読んだ私は再びスマホをポケットに入れて笑顔で霊園を後にするのだった。




















(私、メリーさん。今ね……――――)

 この話は最初にメリーさんの設定が出来ていました。そこからしばらく経ったある日、テレビを見ていたらあの震災で今だに帰れずに行方不明になっている方々が大勢いる事、海の底に大量の思い出の品々が眠っている事、そしてちょうど10年目という節目と知り、このような話を書かせていただきました。


 10年という月日は短いようで、あの日から大分遠くへ来てしまった。そんな震災に遭われた方々の思いを少しでもこの話で伝えられたらと思います。


最後に、今だに帰れずにいる方々そして思い出の品々がいつか帰れることをお祈り申し上げ、これを結びとさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。

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