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後悔は伝わらない#0  作者: 赤坂ゆんまよりーの。
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殺戮者の覚醒

「くっ···なんだよ今の光···!」


金切り声のような音が無くなり、

真っ白な閃光が消えて辺りの様子が確認できるようになると、

腕にしがみついた男が怒鳴り散らした。

まだ彼は目を閉じたままで、

まともに光を浴びてしまったようだ。

しばらくは目を開けても何も見えないだろう。


「ヤルダの攻撃よ、さっきは爆発もしたんだけれど、今回は光っただけみたいね···」


男を掴んで上空へ逃げたハミィは、

空からヤルダを見つめる。

辺りの様子が変化しているようには見えない。

やはり身体から閃光を放っただけのようだ。


「一体何なのかしら···とりあえず、山に降りるわよ」

「お、おう」


男は素直に返事をしたが、

ハミィは半分も耳に入らぬ内に森のある山に身体を向けた。

ヤルダに背を向けた。

その瞬間、それは聞こえた。


(どこへ行くんだい?)

「え?」


それは挑発的な男の声だった。


「なんだお前、なんか言ったか?」

「あなたじゃないの?」

「俺じゃねえよ!」

「じゃあ誰よ!」

(私だよ、精霊と人間よ···)


脳に響くような声。

相手を嘲笑うような声。

相手を見下すような声。


「くふふ···ようやく口を動かすことができた、案外難しいものだな···」


え···?


「精霊よ、どこへ行くつもりだ?」


ハミィは自分の目と耳を疑った。

ヤルダが、

こちらに目を向けて喋っている。

信じられない光景だった。


「おいお前、誰と話してんだ?」


どうやらまだ彼は目が開けられないようで、

ハミィに話しかけている男の声が何者なのかわかっていない。

しかし、

ハミィには冷静に彼の質問に答える余裕がなかった。


「うそ···なんで、ヤルダが···」


身体が震える。

恐怖を感じる。

捕食本能しか無かったヤルダが、

知性を持ち、

人間に理解出来る言語で話している。

こんなことまで出来るのかと、

ハミィは戦慄する。


「おい、ヤルダがどうした?おい!」

「無理もないか、私という生命体···いや、殺戮兵器が貴様ら精霊に話しかけるのも、ましてや人の姿を用いて行動するなど、初めてのことだからな」


ヤルダはニタニタと笑い、

ハミィたちを見つめる。


「3年···長かったよ、貴様ら精霊と人間を理解するのは···くくく」

「なに···言ってるの···?」

「何って、決まってるじゃないか、より強い身体になる為に、今まで喰った人間たちの身体を分析し、ようやく完成したのだよ···究極の身体がな···!私たちの、貴様らの言う我らヤルダの、破壊を求める心を満たすための、身体がなぁ!!」


ヤルダは、

両手を左右に広げ、

高らかに叫んだ。

高らかに笑った。

そしてその力を示した。

「あぐっ!?!?」

気づいた時にはヤルダが目の前に居た。

大きな白い翼を広げ、

まるで空間を裂くような速さでハミィのいる上空に移動し、

ハミィの首を締め上げた。


「ふははは···どうだ精霊···このまま死ぬか?」

「んぐ···っかはっ」

「おい!なんだよ、何してんだお前!つか誰なんだよこの声!」

「人間よ、貴様もここで死ぬか?」

「はぁ?何言ってやがる!何もんだてめぇ!!」


ハミィにしがみついた彼はあらぬ方向へ怒鳴り散らす。

それをヤルダは嘲笑う。

絶望的状況。

ハミィは必死に首や足、腕を動かし抵抗する。


「しかし、このまま殺してしまうのは面白くないな···仕方あるまい」


ヤルダはニタニタと笑いながらも、

少しつまらなげにハミィの首から手を離した。

支えを失い、

息を切らしダメージを負ったハミィと腕に捕まった男が空中から地上に向かって落ちる。


「ぐ···はぁ···はぁ···くそ!!」


バサッ!

地面すれすれのところで、

羽を広げ直し激突を避けた。


「少し···はぁ···ここにいなさい···」

「お、おいお前···何と闘って···」

「言わなくてもわかるでしょ、大丈夫よ···!」


ハミィは男を近くの日陰に下ろし、

上空いるヤルダを睨むと、

ゆっくりと上昇した。


「なんの真似よ···どうして今殺さなかったの?」

「くくく···言ったではないか、直ぐに殺してしまってはつまらないと」

「足でまといのない私に、勝てると思ってるの?ヤルダのくせに···!」

「そうだな、ではヤルダではなく、ヤルダ·ヴァルドラとでも名乗ろうか」

「ヴァルドラって···」

「そうだ!帝国の研究者にして、私の創造主だよ···私が食い殺してしまったがね···くくく」


アルシイト·ヴァルドラ。

帝国と呼ばれた国がまだ大陸にあった頃、

アルシイトは有名な研究者として知れ渡っていた。

彼の発明品はいずれ人の生活に素晴らしい恩恵をもたらすだろうとさえ言われていた。

様々な分野に精通するアルシイトは半世紀以上を自分の研究の為に費やし、

やがて彼の夢だった研究を完成させた。

それが、


「彼も本望だろう、己の夢の結晶に食われ死ねたのならな、そうであろう?」


完全究極生命体ヤルダ。

あらゆるものを食らい、

人間の持つ兵器では死なない殺戮者。

それは、

この世のあらゆるものを、

絶望に陥れる。

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