再会
人間は必死になって物事を進めると、
案外良い動きができるもので、
山の頂上付近から駆け下りた青年はあっという間に数日前に逃げ出した村まで来ることが出来た。
人が出ていってから放置され、
何も変わらない家。
人が出ていった後に破壊され、
無残に飛び散った家。
地面は紫色に変色した所と何の変哲もない地面とで別れている。
そして、
変色した地面の方···ヤルダによって破壊された町に居るのが、
山の上から見つけた人間···のような生物だった。
人間の姿を持った、なにかだった。
美しいまでの白い肌には赤い血管が、
背には大きな翼が、
大きすぎる人間の身体が、
人間ではないなにかであると物語っている。
「なんだ···こいつ······え?」
叫び声が聞こえた気がする。
それは空に。
そして空から地上に。
それから···目の前に。
「うわぁぁっ」
目を閉じ衝撃に備えた、が、
何も起こらなかった。
「ちょっと!なんでこんな所にいんのよ!」
「えっ···」
ゆっくり目を開けると、
小さな少女がいた。
羽が生えていた。
(は···?なんだこれ···)
「とりかえず逃げるわよ!」
「ちょっ待って!」
少女は彼の手を掴み、地上を走った。
「おい!お前なんなんだ!」
「あんたこそ!なんでこんなとこにいんのよ!」
「上から見えたんだよ!ここ!化け物に占領されたんじゃないのか!?」
「後で答えてあげるから早く逃げる!」
家の影から影、
先程の巨大な人間から見えないように、
家から家へ、
影から影に走り遠ざかっていく。
町の外側、
森と山に繋がるところで、
少女が止まって息を整え始める。
必然的に彼も止まる。
「はぁ···はぁ···なぁ、なんで逃げんだよ、仲間じゃないのか?」
「んなわけないでしょ、あれはヤルダよ」
「え···?」
「わっかんないわよね···そうよ、ここに来たヤルダの生き残り、他の奴らは、ちょっと前に私たちが殺したわ」
ヤルダを殺した?
この子が?
目が点になるとはこういう時のことを言うのかもしれない。
よく見ていると、
さらに幼く見える。
15歳に満たないほどに幼い顔つき、
小さな身体。
サラサラと流れる黒い髪。
黒い瞳は大きく、
声も幼い女の子そのものだ。
異質なのはその翼。
白く大きな翼が、
少女の背に生えている。
地味だが女の子らしい服を着ていて、
腰にポーチが付き、
右手には少女の体躯を大きく上回る剣が握られている。
あまりにも異質。
普通の人間じゃあない。
「ねぇ、どうしたの?」
「お前···人間なのか?」
「人間じゃないわ、精霊よ、あんた名前は?」
「え···俺は、」
名前を口にしようとした時、
それは起こった。
キィィィィィィィィィィィイン。
甲高いその音が辺りに響く。
「何だこの音···!」
「ちょっやばっ捕まって!!」
「え!?なんだよ!?」
少女は彼の腕を掴み空へ羽ばたいた。
「くっ···」
とても力強く飛び上がる少女は、
彼の腕をしっかりとつかみ、
彼はその腕と形に必死にしがみつく。
また少女の視界が、
そして彼の視界が初めて、
真っ白に染まった。