異世界転生が確定したが現実が俺の邪魔をする件
いつもと変わらないありふれた一日。職なし、金なし、彼女なし。おまけに両親は昨日死んだ。何もせず何も始めずに生きてきた35年。
「そろそろ潮時かな………」
いっそ俺も死んでしまおうか。そんなことを考えるようになった。
「…………異世界ねぇ」
手にしたスマホで小説投稿サイト『小説家にnow!』に目を通す。ランキング上位は異世界転生モノであふれかえっていた。
「転生できたら、楽しいことでも待ってんのかな。……んなわけないか」
そろそろ昼飯時、台所にあるカップラーメンを作りに立ち上がる。すると目の前に黒いもやが立ち込めた。
「なんだ………これ………」
もやはやがて自分と同じサイズまで大きくなり、幾何学的な模様を現した。
「……しゃさま…………ゆう……ま」
「!? なんだなんだ!?」
もやの中から次第に、女性の声が聞こえてきた。何かを呼んでいるようだ。
「勇者様………お迎えに上がりました」
もやの中から長い金髪に蒼眼の美少女が現れた。
「なんだよ……ナニモンだあんた!」
「勇者様。あなたのお力が必要なのです。今すぐこちらの世界に」
俺の力が必要だと、彼女は言った。先ほど見ていた異世界転生の話を思い出す。
「これが………異世界転生かよ」
「さぁ……こちらへ」
彼女は白く美しい手をこちらへ伸ばした。千載一遇のチャンス。夢にまで見た異世界転生が、俺の前に確かにある
「あぁ! 行こう!」
彼女の手を掴みかけたその時、壁がドンっと音を立てた。
「うるせぇぞ!!!」
「ひぃ! お許しくださいぃぃ!」
隣人からの怒号に、彼女は泣きだし、もやの中に走り去っていった。
「えっ……あっ……ちょっと……」
彼女の手を掴もうとした体制のままの俺を残し、もやは消えていった。
「ちっっっっいぃいいくしょおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
涙と鼻水といろんな何かを俺はぶちまけた。隣人からの壁ドンは、モールス信号さながらのスピードで鳴りやむことはなかったが、俺の耳には入らなかった。
異世界転生が確定したのに、現実が俺の邪魔をする。
次回未定。気分が向いたら書きます