Y5・R1・H1:「双子の妹が出来ていたりすることもある」
知っている天井を見ていた。
と言っても、一か月前から見ているだけで特に深い意味もない。
右腕に感触がある。いつもの駄禁書なので無視する。
だって今のこいつの身体は霊体だからな。揺する事も出来ないので起こせるはずもない。
3か月前ほどに、自身が食を取らずとも生きていけるのを良い事に、
「主はもっと人との関わりを持つべきじゃ!」
「ほ~それで?」
「養子になるのじゃ!」
「は?」
「しっかりとした親を持てば、主もしっかりとするじゃろうて」
それはお前への特大ブーメランだがな。
「ぐっ…!聞こえておるぞっ!」
なんて、いつも通りの会話だと思ったら話が勝手に進んでおり、
今は有栖家の長男という事になっている。
片方は真面目に育てられた気がするのだが、片方はどうしてそうなった?という双子の妹が出来た。
まあ、根本的に性格が全然似てないのだ。
親がちょっとおかしいって言うのはあるが、まあそれはこの際置いておこう。
「お!起きてたか!ご飯は出来てるぞ!」
ちょっとおかしい父親がドアをノックもせず顔を覗かせた。
良くいるだって?特殊部隊の父親が良くいるなんて言わないでくれ。
「あぁ、今降りるよ」
「なんだぁ、難しい事考えてたのか!がっははは年頃だなぁ!」
「はいはい、早く降りて食べるから」
「お前、凜のあしらい方に似てきたなぁ」
凜というのは異常な方な妹だ。
まあ、真面目な方の妹と仲が悪いわけではないのだが、
異常な方の妹、凜の方が何かと都合が良くて仲がいい。
下に降りると、真面目な方がこちらを見ていた。
「また、失礼なこと考えていましたね」
「いやぁ、そんなことはないけど」
「顔に出てます。とっつきにくいって」
有栖 緋香里。
瞳は朱の混じっており、髪の毛は腰まではいかないロングで家以外ではポニーテールにしている、
頭は回るし、真面目でカッコいい系なのだと勝手に思ってる。
完全にタイプが真逆なので仲良くは出来ないのかもしれないな。
「悪かったな、別に変なことを考えたわけじゃない」
「…頂きます」
心を読めるわけではないのだが、そういう適性が高いらしい。
その証拠に褒められて嬉しい感情と、
仲良くなれないかもという悲観的な感情で難しい表情になって、頂きますと言っている。
「そういえば、凜はどうした?」
「兄さんの作業場を整理すると言ってましたよ。ガレージの方に入ってから帰ってきてません」
そんなことを言ってると、廊下の方からドタドタと足音がする。
「…おにぃおにぃ!これ何!」
「ん、何もって来てんだ。ああ、この音のしないスタングレネードの資料の事な」
「…これ、貰っていい?」
「ん?まあ、良いんじゃないか。悪用はするなよ」
まあ、失敗作なんだがな。
スタングレネードを魔法で作ってみようとしたら光の増幅には成功したが、音は増幅できなかった。
音のしないスタングレネードというか、本当の意味でフラッシュグレネードなわけで失敗。
「…これ以外は全部ちゃんと片づけておいたから」
「おう、ありがとな。おい待て、ホコリついてるぞ」
はっきり言って頼んでないのだが、世話焼きなのだろうかと最近気づいた。
まあ、こうしてドジな面と藍色の瞳を持ち、肩ほどまでのセミロング。
不真面目なところは俺に酷似している。
「箸持ってきましたので、早く食べてください」
「がっははは、兄妹仲良くて何よりだなぁ!」
妹に催促する妹。二人の間で姉妹の関係はないらしいのでよく分からないが。
それにしても笑い声がでかい有栖、圭吾。
特殊魔法部隊とかいう部隊長らしく偉いのだが、家で家事もする。
逆に母親はまるで家事が出来ないという典型的な逆夫婦。
母親は研究員、父親は特殊部隊。どうしてここの養子になったんだろうな。
ぼーっとしていたわけではないが、食べるのが遅くて緋香里に怒られてしまったなんてことはない。
いや、まじで怖かったけど。