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そもそも異能(俺)と魔法使い(お前)は合っていない。  作者: 千田千代 キグリ
1章:そもそも彼は日本を救ってない。
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Y2・F1:「ガラスの魔法と鋼鉄の糸」

少年と少女は研究所の最上階にで真上を見上げていた。

場所だけ気にしなければ良いシーンだと思うかもしれない。

少年がその姿に似合わない言葉を発しさえしなければ、の話ではあるが。

「それで、ここに核が落ちてくるのか?」

「そうじゃな、ここに転送されてくるはずじゃ」

見晴らしのいい空、雲は少々と言ったところで快晴に近い。

ここにそのような物が落ちてくるなど誰が想像できるだろう。

「儂の予知じゃ。儂がそうなると言ったらそうなるんじゃ安心せい」

「悪いが、お前に対する信頼度は激減中だからお前が安心しろ」

「なぜじゃ!予知って必ず当たるあれじゃぞ!占いとかそういうのでもないぞ!」

「だから嘘くさく感じるんだろうが…」

少年は深くため息をつく。

その顔は10代後半の苦労している顔に近く、精神とはアンバランスだった。

少年にとっては別に予知を使うまでもないだろうと思ったからでもある。

今、この研究所のここに核を撃ち落とそうとしているのはこいつも妹であると。

禁書の妹はバカで同じく禁書であり、付与価値があるとすれば姉が好きであるという事だ。

これは重度のシスコンだ。考えれば分からないと思うが、

もし自らの憧れが不当に処分されそうになる時、力及ばず見つける事もできず、

見つかったとしたらまず何をするだろうか。普通は助けに行くだろう。それが常識だ。

でもそいつは違う、その不当に扱われたという事実自体を消滅させる気だ。

研究所を跡形もなく破壊することでだ。

そんな感じで核が落とされるわけだ。

そんな感じで逃げられないから核を止めるわけだ。

「なんじゃか、よく考えてて分からんが!

ここに障壁を張るのじゃぞ!5キロ四方の面障壁で囲う必要はない!

なるだけ柔軟になるようにハチの巣の6角形をイメージして作り込むのじゃ!」

なんだこの禁書は、お前の身内の問題だという事を分かっていないのか。

後でチョップでもかましてやろうか。その障壁で。

「っていうか、俺、魔法の使い方とか知らないけど」

「大丈夫じゃ!少し集中してみれば儂の記憶から引き出せるはずじゃ!見届けてやる!」

いや死なないけど。何見届けてやるとか。

柔軟性を高めないといけない事は分かるんだが、お前の記憶から引き出されないけど。

「いや、全然分からないけど」

「むむ…そうか…最初の記憶は引き出しにくいか。ならば指から糸を出す感じで六角形を描いて

沢山増やすがよい!さすれば面障壁が構造を予測して作ってくれる!」

指から糸って出るんですかねえ。スパイ〇ーマンも手首だけですけれども…。

まあ糸っていうのは精神エネルギーの事だろう。

魔力というのは精神エネルギーの事を指しているとすれば、魔力を具現化しろという事か。

言われたとおりに指で六角形を描き、そのイメージを増やしてゆく。

「ん…?」

「なんじゃ、どうかしたのか?」

いや、何かがおかしい。全く感動していないのだ。

初めて魔法を使うのだから、驚いたり感動したり興味を持ったりするはずだ。

だが、俺はこの魔法、面障壁魔法を使っても全く感動しない。

「感動しないか。それは儂と記憶の共有をしておるからじゃのう。

儂が感じ、見た既存の知識では全く感動出来ぬだろう。しかしその対価として本より分厚い

知識を頭に宿すことが出来るのじゃ!まあ、デメリットというやつじゃな!」

「えぇ…障壁魔法使ってるときに、そういう精神不安定になること言われるとなぁ…」

「ま、待て!障壁を歪ませるな!新しい知識を知れば感動は勿論、驚きも得られる!

じゃから、これからという時に自身を守る盾を崩すでない!」

「分かってるよ。それで他にいう事は?」

「いう事…とな?」

「その意味わからない喋り方と、この障壁魔法に関してだけやけに知識が多いお前の脳みそだよ!」

「しゃ、喋り方は…キャラが映えるからじゃな…」

「後者は?お前がここにいる理由も含めて」

「ごほん…儂は常世と幽世の壁の管理者である。つまり隔てて居るものじゃな。

常世は理想郷や楽園、幽世は死後の世界じゃ。この世の管理は儂でないが、

二つの世とこの人の世はなるべく近くであらねばならぬ。

輪廻転生というのが存在するからの。壁を作ってでも近くに置きたいわけじゃ。

しかし近頃、儂の作った壁に大きな穴、というか槍が刺さったんじゃ。

どうやら人の世から幽世に向けた槍じゃったんじゃろう。

呪いが強い分、常世生まれの儂には解けぬ。

人とのいざこざがあったホムンクルスが人の世を離れようとした結果であろう。

なぜホムンクルスが幽世面の強い魔法を使えるのかは、分かっておらん。

今は内側から更に厚い障壁を張っておるから安全じゃが…。

取り敢えず迷惑しているのでホムンクルス自身に取り除いてもらうか、

ホムンクルスを根絶やしにして術者を殺すか、どちらかの選択肢になるわけじゃ。

儂は世界と世界を分ける障壁を張るからの!じゃから3つの世界で最も障壁がうまいのじゃ!」

「それで、捕まった理由は……おいおいマジか」

軽い話をしてる時それは起こる。

少し舐めていたのは認めよう。太陽に被さる様に何かが広がってゆき、光を呑み込む。

急にあの見晴らしのいい空のど真ん中にドス黒い穴が開き始めた。

「異空間転送か…主よ耐えるのじゃ!すごくブレるぞ!」

「ブレるって…何そっれぇ!!」

「異空間転送は魔力をかなり消費する!縦空間に異常な魔力変化圧がかかり、

その空間の魔法が影響を受ける!かと言って自らの盾を壊されては相手の思うつぼじゃ!」

「うぐぐぐ…言…うの…おっせぇ…」

全体をコントロールしている右手の制御から離れようと魔法が揺れる。

ただそれだけだが、それだけではない。ブレる障壁とブレない障壁で差が生まれるのだ。

右手でコントロールしていた障壁を両手に分けてコントロールする。

左手にブレない所を、ブレる所を利き手の右手に変えガタガタ震える障壁を操る。

「やるのぅ…主よ!では、あの核を一旦消すぞ!あと5秒耐えるのじゃ!

…我は禁書庫。是は書に記されぬもの。彼の身を守るため封印す」

すると、その縦空間のブレを打ち消すように黒い穴の先に更に黒い穴が出現。

中から顔を見せる核を呑み込んでいるのだ。

「…っていうか全然重いんだが…!!」

「決まっとるじゃろう、同じ場所に異空間転送を重ねるなんぞ!やったことないでの!

空気中の魔力が減っているのじゃ!今は空に魔法を固定する分、魔力の重力を感じやすくなってしまう」

そうして俺が呻いている内に、禁書は急に大量の汗をかいて座り込んだ。

すると俺の手に掛かっていた、いくつもの重りの感覚が消えてゆく。

「終わったぞ、主よ!もうその障壁は良いぞ。あと、後始末だけじゃな」

「なんだよ、まだやることあるのか?俺は何もしたくないんだが」

「主は座っとるだけで良い!すぐ終わる!…そこの、こっちに来い」

そういうと禁書はロボットに手招きをして、何か黒いものを渡している。

ロボットをよく見ると、助けた人型のロボットのような気がする。

研究所で最も隔離されていた機械だ。俺と同じような物か。

「おい、何渡してんだ」

「核じゃよ?」

「は?」

何を言っているんだこいつは、という顔を隠しきれない。

どう見ても、その黒い球体が核には見えないんだけど。

「仕方なかろう。この者たちは動力源がもう残り少ないのじゃ。いくら主が助けたとはいえ

このままでは動力無しで死んでしまう。いつ起動出来ても体を壊される瞬間を

長時間保つのは死に同義であろう。いつまでも動力源の面倒を見続けるわけもなく助けたのじゃろ。

選別と言っては何だが、核からエネルギーを取り出す魔方陣を描いた異空間に飛ばしたのじゃ。

この球体から動力が送られてくるはず、簡単じゃろう。儂が一人で障壁と転送返しをすると、

異空間に魔方陣を描くことは出来んかったでの!主には障壁を任せたというわけじゃ!」

そもそもこの機会の動力源が残り少ないのは、研究で俺の身体についての結果が出せず、

資金が尽きてきた研究所が経費削減のため動力源に使う経費を割いたのだ。

まあ、間接的には俺のせいではある。間接的にはな。

褒めても良いぞ?って感じで調子に乗っているが、俺が後ろめたく思わないように気を遣っているのだ。

だが、そこに惑わされてはいけない。こいつはかなりちゃっかりしている。

「で、その機械に求める対価は?」

「儂らの日本での住処の場所を見つけてもらうのと、

儂らがその住処を手に入れる時の可能な限りの協力じゃな!」

「…機械をいじめるなよ」

「分かっておる。ホムンクルスのように仲違いはしたくないからのぅ」

ホムンクルスはAIより後に出来た。

すぐに広まったホムンクルスに対する既存知識が少なく、

ホムンクルスは世界の多くの人から迫害されたのだ。

権利もあまり保証されていなかった。ホムンクルスは生みの親のその態度に反抗した。

それで経験した多く人はAIに優しくしてしまったのだ。ホムンクルスより先に。

ホムンクルスは更に差別されたと感じてしまい、世界でホムンクルスと人は争っている。

しかし日本はそうではない。そもそもホムンクルスが居ないのだ。

だから日本はなるだけ早くこの問題を解決しなければならない。

ホムンクルスに攻撃されない日本がホムンクルスと手を組んでいると、

疑えばキリのない話をされてしまうからである。

「そうじゃな、儂らが日本を拠点にするならば解決すべき問題ではあるな。

儂の問題もついでに解決しそうだしの!…それにしても余りに利己的な女だと思われておって

儂でもさすがに傷心するぞ?」

「じゃあ、俺に信用させてみろ。ちなみに俺にとっては少し知ってるだけのそこの機械と

お前に対する信用は同じくらいだ」

「な、なんじゃと!そこまで低いのか!」

大仕事をやり終えて笑いあう少年少女を見て、人型機械は少しだけ笑っている。

しかし、それを遠くから憎たらしく見る少女の影もあった。

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