新たな任務
人類は三度の世界大戦を経験した。
三度目の大戦は他の大戦と違って非常に大規模な戦争であり、五つの空間で戦ったと言われている。
一つは陸、一つは海、一つは空、一つは電脳空間、一つは宇宙である。
それぞれの空間で世界規模の戦闘が起こり電脳空間以外の場所は荒廃した。
陸は荒廃しすべてが灰になり、
海は生態系が崩れ海底プレートには無数の亀裂が入り不自然な地震が各地で起こり、
空は戦火によって粉塵が舞い、
宇宙では太陽光を7割にしてしまうほどの大量のデブリ(宇宙ゴミ)が地球上の衛生軌道を通るようになりその結果、地球平均温度が3度下がった。
唯一修復できたのが電脳空間だけだった。
しかし宇宙には大量のデブリがあり人工衛星を飛ばすことができない状態になっている。
また海底ケーブルは戦時中、潜水艦を探知することができたので各国が集中して攻撃をしたためほとんどが破壊され大規模なネットワークの構築は不可能になった。
発電所などの重要施設も優先されて攻撃されたため、各地電力不足となり大型のコンピュータの使用は難しい状態だった。
だがそれでも一番の損害は世界人口であった。戦闘に巻き込まれ人類は6割になっていた。
更に多くの土地が荒廃し、デブリによって多くの地域で太陽光が少なくなり、寒冷地化が進む。それにより大規模な食料不足が発生することが予想され人類は数年後には戦前の3割になると言われている。
大戦こそは終わったが小規模の民族紛争やテロなどが発生し、泥沼化していた。
戦争が終わっても、平和を手に入れることができなかった。
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日本国防軍の基地内
俺は椅子に座った。早く仕事を終わらせなければならないが、脱力感を感じていた。いわゆる戦争ボケだ。
「終戦から3年か.....」
誰かが扉をノックしてきた。
「入れ」
俺の部下が入ってきた。彼は敬礼をしたあと、困った顔をして報告をする。
「少佐にお会いしたいという人がおります。なんだか重要な話だとか...」
「入らせろ」
部下が部屋を出て行くとスーツを着た人とその護衛が入ってきた。
「私達は国連の者です」
国連を名乗る男はそう言いながら身分証明書を見せてくる。
「平和の番犬が何のようだ?」
「極秘の重要任務を伝えに来ました」
俺は腕を組んだ。国連から任務を依頼されるのは初めてだし聞いたこともない。
しかも、突然......
「俺は日本国防軍に所属している。上官以外からは命令は受けない」
「これは極秘の任務です。おそらく君の上官は知らないでしょう。いや、知ってはなりません。この任務は7大国のトップがすべてを決めたことです」
国連の人は内閣総理大臣と国防大臣のサインが入った命令書を出した。その下にはほかの7大国それぞれからの命令書がある。
「つまり内閣総理大臣と国防大臣が直接命令してきたと?」
「そうなります」
「随分と急なんだな」
俺はまだ彼らの急過ぎる話を聞いて怪しいと思っていた。だが彼らが持ってきた命令書は本物のように見える。
「早速ですが、時間がないので一緒に来てもらいます」
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車の中
車が動き始めてから国連の人が口を開いた。
「単刀直入に言います。君の任務は人類のために生き残ってもらうことです」
「また戦争か?」
「違います。実は、地球はもう戦争すら出来ない状態になっています。人類が滅びる確率が非常に高くなっています」
"人類が滅ぶ"......おそらく誰も驚かなかないだろう。なぜなら今の荒廃した地球を見れば誰だってそう思うと思う。
「いつ?」
「まだ先の話です。おそらく100年後ぐらいには。だが今、手を打たないと直ぐに混乱が起き、それどころではなくなるでしょう」
「どうやって俺は生き残ればいい?」
「具体的には知りません。その説明はこれから合う彼女がする予定です」
「あんたは約100年後に人類が滅びると言ったが、俺にも寿命があることを知ってるんだろ?いったいどうするんだ?」
「私が知ってるのは人類が滅びることだけ。そしてあなたを彼女に合わせることが私の仕事です。それ以外は何も知りません」
「さっきからずっと言ってる彼女とは誰だ?」
「まったく知りません。おそらくNASAやJAXAに関与する人でしょう。今から行く場所がその組織の施設ですから」
その後いろいろ質問したが、知らないの一点張りだった。ここまで情報が足りなすぎると少し不安になってくる。
しばらくして車が止まった。建物にはJAXAとNASAと書いてある。いったい何の為の施設かは外からは分からなかった。
「心配しなくても大丈夫でしょう。貴方なら乗り越えられるはずです。なんせ、伝説の兵士でしたから」
スーツの人は微笑みながらそう言った。
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謎の施設
俺は車を1人で降り、謎の施設に入った。どうやらスーツの人はここでお別れらしい。
中には建物の大きさに合わない小さいロビーがあり、そこにメガネを着けた女性がいた。
「貴方が新海君?」
「あんたは誰だ?」
「私はナオミよ。君が新海君?」
スーツの人が言ってた"彼女"とはこいつの事だろう。
「そうだが」
「よろしく新海君。君、テレビで見た時よりもカッコいいじゃない。あの〜なんだっけ?なんか貰ってたやつで見たんだ」
急に軽いノリで話かけてくる。少し驚いたが特に気にしないで俺は答えた。
「たぶん旭日章だと思うよ。累計撃破数100両達成した時に貰った」
「1人でよく100両以上撃破したよね〜」
「2人でだよ」
「そーだった。キラちゃんね。彼女もこの任務に参加するわよ」
キラ、彼女は元ロシア軍の戦車兵だった。戦時中ロシアは日本の敵国だった。
最初に出会った時は敵同士だったが俺が説得して仲間になり、あの戦争を一緒に乗り切った戦友だ。だが今は終戦と同時に彼女とは別れ離れになっている。
だが何故あのキラが関係するんだ?
「そろそろすべてを教えてくれないか、全く整理する事が出来ない」
「どこまで知ってる?」
「人類が滅ぶから俺は生き残らないといけないと」
「わかったわ。会議室に資料があるわ、付いてきて」
ナオミはさりげなく腕を掴み、胸を当ててきた。
「ちょっお、お前」
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会議室
部屋に入った瞬間、俺の五感の一つが反応した。
会議室の入り口のゴミ箱を見た。そこには黄色いMの字入った袋が見える。やはりハンバーガーか......おそらく今は昼過ぎだから彼女が食べたものだろう。
まだ俺の戦場の感は冴えてるようだ。
ナオミはプロジェクターの電源を入れた。しばらくすると、とても国家プロジェクトとは思えない手作り感満載の画面が出て来た。これはナオミが作ったのだろうか?
「人類は高い確率で滅びる。でもこの事を知ってるのはごく一部の人間だけ。その一部の人が決めた計画、"地球の種作戦"。この計画は人類が滅ぶ間、宇宙船の中に滞在し環境が良くなったら地球に帰って、一からやり直すという作戦よ」
おそらくナオミはカッコよく言いたかったのだろうが後ろの画面のキュートな宇宙船と地球が台無しにしていた。
とりあえず俺は同じ質問をしてみる。
「人類は100年後に滅びるそうだが俺の寿命は考慮しないのか?」
「宇宙船という名のタイムマシンよ。アインシュタインの相対性理論を知ってるでしょ。速ければ速いほどその物体の時間の流れが遅くなるっていうやつ。確かそういう理論だった気がする。うん、きっとそう。これを使えば未来に行けるはできるわ」
ナオミは喋りながらクリックした。すると画面に、あの有名な小学生が机の引き出しから出てきている画像がスライドされてきた。もちろん青いヤツも一緒にいる。
一体この人は真面目にやりたいのか、ふざけたいのか分からない。画像はスルーして質問した。
「そんな事が出来るのか?」
「実はロシアがソ連の時、核燃料を使った宇宙船の研究を秘密裏にしていたの。それを使えば理論上、光の速度を越える事が出来る。ソ連が崩壊した時、ロシアがいろんな情報を開示してたけど、この研究のことだけは秘密にしたかったのね」
「ロシアが敗戦しために、それが漏れたのか?」
「違うわ。その事は当時から西側に漏れてたのよ。でも知ってたのはその研究の存在だけで、出来るかどうかは確証は無かったの。戦後、人類が滅ぶことが予想されて急遽必要になったから情報開示を要求したっていうワケ。でも情報は情報いつでもロシアはそれを灰にする事が出来る。だからロシア側の条件を飲むことにしたの。それからアメリカの.......」
ナオミは先生のようにベラベラ喋っていくので俺は質問を差し込む。
「条件とは一体?」
「2人のパイロットの内、1人をロシア人にすること。つまり彼らはロシア人の血を守る道を選ぶことにしたの」
「それでキラが選ばれたのか。で、なんで俺が選ばれたんだ?」
「この作戦は、アメリカ、ロシア、日本が中心で動いてるからよ」
「アメリカは黙っていないんじゃないか?」
「あの国は移民が集まった国なのよ。血や民族なんて関係ないわ。純粋に人類のためよ」
「つまり俺の任務を要約すると、未来に行ってサバイバルをするということだな」
「それと子孫繁栄よ」
"子孫繁栄"というワードが頭の中で響く。一瞬、俺はこの人は一体何の話をしているか俺には分からなかった。
「えっ」
「当たり前でしょ!それがこの任務のメインディッシュなんだから」
「でもキラとはただの戦友で、そんな関係じゃない」
「そういう関係にするのも任務の内よ。銃の扱いに慣れても女の扱いは素人なのね。貴方のマネージャーとしてそういうこともちゃんと教えてあげないとね」
ナオミが身体を急に寄せてくる
「ちょっちょおま、待て待て何のマネージャーだ?」
「何って貴方が1年間宇宙船に乗るから、それに必要な訓練のマネージャーに決まってるでしょ。貴方の訓練スケジュールを管理するわ。訓練時間もそんなに多くないから忙しくなるわよ」
「1年間?1年でどれだけ未来に行けるんだ?」
「約100万年よ」
「100万年...」
まったく想像できなかった。100万年......
いったいどのくらいの長いだろうか。それはまったく実感しようとしてもできるようなものではない。
「じゃあ早速、明日から訓練だから」
「待って急に言われても困る。まだ軍の仕事が終わってない」
「今日限りで軍務は終わり、それに普通に考えても、こっちが最優先でしょ!」
その直後、思いっきり顔に胸を押し付けられ息ができず気絶した......