真実と嘘と希望と絶望
いつものように授業を終え、いつものように俺は病室へ向かう。そんな日々もいつしか俺は楽しいと思うようになっていた。
そして今日もまたいつものように病室へ足を運んだ。
病院の屋上に彼女がいた日、あれから十日が過ぎている。数字は10になっているだろう。
何か手がかりさえつかめれば。彼女が死にゆく原因さえ分かれば。
そう思いながらドアを開いた。
彼女はまたいなかった。代わりに彼女のお手伝い係であろう看護師が1人、部屋の片隅にある小さな花に水やりをしていた。窓から今にも雨が降り出しそうなほど淀んだ空がみえた。
「今日も屋上ですか?」看護師は俺の声に反応して振り向いた。「はい。涼んでいらっしゃいます。」
「そういえば、彼女の怪我は大丈夫なんですか?」
「ミツキさん怪我なされてるんですか?それは心配です。」
俺の頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
「いや、その怪我を治すために入院してるんですよね?」
「いえ、違いますけど。」
…は?何言ってるんだ?確かに俺は彼女から怪我が原因で入院していると聞いたぞ。
「…じゃあ何が原因で入院しているんですか?」
「…末期ガンです。」
…は?ガン?末期?
嘘だよな…?
「冗談…ですよね…?」
「本当です。」
「本気で聞いてるんです、嘘つかないでください。」
「…ミツキさんは末期ガンで入院しておられます。」
「…」
「...ミツキさんはまだ高校生ですが若年性がんを患っています。」
そんな…。あいつは嘘をついていたのか…。
「…でも私達は全力でガンを取り除きます。ミツキさんもそのために頑張っておられます。」
看護師の話を聞かずに俺は部屋を飛び出した。
何もわかっていない…!あいつはそのまま逝ってしまうんだ…!
たった10日後に!
屋上へのドアを蹴破ると、いつも通りの彼女がいた。
「おい!」「どうしたの、急に?」「どうしたも何も…!」「1回落ち着こ!!」彼女は少し怯えながらもそう言った。
時間を経てなんとか息を整えることが出来た。
「お前、何か隠し事してるんじゃないか…?」
少し彼女の顔が強ばる。
「隠し事…、一つもないよ。」「頼むから嘘をつかないでくれ。」
「お前は何故入院しているんだ。」
「…もしかして、看護師さんから聞いちゃっ
た?」「そうだ。」
「ついにバレちゃったか…。」悲しそうな顔でそうつぶやいた。
「なんで隠してたんだ?」「…ショウ君に知られたくなかった。」「どうして…?」
「ずっとこうやってショウ君と話していたかった。私がガンだってことがばれると、もう一緒にいられない気がして…。」
「そんなわけないだろ…!」
「ごめんね…。隠しきれなかったよ…。」無理矢理に彼女は笑おうとしていた。
「もう一つ、俺に隠し事をしているだろ。」「隠し事は病気の事だけで、それ以外は何も無いよ。」「いや、俺には分かる。」
「お前、ずっと無理してるだろ。」「何のこと…?」
「無理に笑ってるだろ。」「えっ…。」
「出会った当初明るい奴だと思っていた。でも本当は明るく振舞おうとしているだけだ。」
「…。」
「この前屋上でお前と会ったとき、俺は気づいた。あの時お前が涙を流していたのはあくびが原因じゃない。」
「……全部バレてたんだね…。」
「…無理に笑う必要なんかない。無理に気を遣うこともない。自分が感じたことだけをすればいい。」
「…。」「笑いたければ笑えばいいし、悲しければ涙流せばいい。」
「ショウ君…。」
「お前が嬉しい時も、怒ってる時も、悲しい時も、そして楽しい時も、いつでも俺が一緒にいてやる。だから安心しろ。
「ありがとう…。」そういって彼女は涙を流した。いつも笑顔を絶やさない彼女がはじめて、涙を流した。
「お前が好きだ。ミツキ。」
「やっと名前で呼んでくれたね。」ミツキは微笑んだ。
「私も好きだよ。」
「ずっと好きだったのに。言うのが遅いよ。」
「はは、そうかい。これでも結構言うの恥ずかしかったんだぞ。」「いくじなしだなーまったく。」
そう言って俺達は笑いあった。いつの間にかミツキの涙も渇いていた。
淀んだ空もいつの間にか雲ひとつない空に変わっていた。
しかし数字は10のまま変わる様子はなかった。




