聞きたい事があるねん。
――― 一体どうしたんやろ。
部屋にこもりながら猛は考えていた。昼間起こった出来事のことだった。
(何でなんもないのにイッてもうたんやろ。触るどころが完全に勃ってすらないのに)
そうなのだ。通常はいくらリビドー満開の中学生でも手も触れずに絶頂に達することはあり得ないのだ。しかも、覚醒している間のことだ。
猛は今日の昼間に起こった出来事を思い起こしていた。
突然、玄関が開く音とともに詩織の声が聞こえてきた。猛はその声を聴いて昼間の出来事を思いだすと、顔が真っ赤になるほど恥ずかしかったので、今は会いたくないと思っていた。
「今晩は。おっちゃん、猛居てる?」
玄関の奥から声が聞こえた。
「ああ、詩織ちゃんか。猛やったら、二階の自分の部屋におるで」
「ありがとう。ほな上がらしてもらうわ」
無遠慮の足音が階段を踏みしめて上がってくる。猛は慌てたが身を隠す場所は無かった。
猛の部屋の戸が開いた。
「猛。ちょっと聞きたい事あるねんけど…… あれ? おれへん」
いつもなら、勉強机用の椅子にすわって、テレビかゲームをしているのでが、猛の姿が見当たらない。部屋の明かりは点いているので、最初からいないのではなさそうだ。
詩織は昼間のことを思い出したので、窓を見たが、開いている様子はなかった。
詩織は久々に入る猛の部屋を見回した。もっと子供のころは猛と宿題をしたり、勉強を教えていたりしたので、よく入っていた部屋だが、中学に入るころからそういったこともあまりしなくなっていた。猛も恥ずかしがって、男子の友達と一緒に宿題を片づけたりしていたからだった。
ふと部屋を見回ると、アニメやゲームのポスターが一杯貼り付けてあった。机には何やら美少女キャラのフィギュアまで置いている。水分変わってしまったと詩織は思った。
「なんちゅうオタク的な部屋になってんねん。ホンマ久々に来たらびっくりしたわ」
ふと、足元をみると机の下に足が見えた。ちょっとびっくりした詩織が思わず声を上げた。
「あんた何してるのん。びっくりするやんか」
バツが悪そうに猛が机の下から出てきて小声で返事をした。
「そんな事言うても、あんなことあった後でどうせっちゅうねん」
「あんなことって何?」
「何って、分かってへんのか」
「分かる訳ないやろ。急に倒れこむし、心配させなや」
猛は彼の身に起こったことを詩織が全然わかっていない事に安堵しながらも、少し腹が立ってきた。何しろ人前でイカされたのである。しかも瞬殺のおまけ付きだ。落ち込むなという方が酷というものだろう。
ただ、どう考えても、詩織に言える内容でないことは明らかだ。どうやって誤魔化すか、猛の頭は忙しく策を構築していた。