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イッてしまった。

***

何となく気怠げな午後。

授業は耳に入るけれど、手持ち無沙汰でシャーペンを回してみる。指先でバトンのように回るシャーペンを見ているがなかなか時間が過ぎていかない。

 そしてようやく授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、先生は教室を出て行った。

 もうじき終礼だ。今日こそは止めてやる。そう思って詩織は猛を横目で見ていた。

猛の後ろの席に座っている男子が、詩織の視線に気付いて、猛をつついている。

 ふと猛と視線が重なった。詩織の視線には少し険があったが、猛は気にしていない。昔から一緒にいるので、詩織が本当に機嫌が悪いのかどうか位は猛にはわかっているからだ。

 時期に担任が教室に入ってくると、終礼が始まった。明日の予定と注意事項を黒板に書きだすと、徐に「明日は健康診断やけど、今から配る問診票に必要事項を記入して持ってくるように」と告げるとそのまま「そしたら、何もなかったら今日は終わりや。帰ってええで」といって、席を立つと教室を出て行った。

 担任が教室を出たすぐ後で詩織は猛の席を見た。

^―――居ない。 一体何処へ? 

詩織は教室の後ろの扉近くの席だ。誰かが通ればいやでも気づくはずだが、誰も通った気配がない。まさか消えてしまったのか?

今起きたことが理解できないでいると、ふと気づいた。

(何でカーテンが揺れてるねん。もしかして窓が開いてるんか?)

不思議に思った詩織は猛がいた席の横にある窓に近づいて行った。次の瞬間彼女は眼を見開いて息をのんだ。

 猛は窓から抜け出して、雨どいを伝って下に降りているところだった。

 その瞬間、詩織は背筋が寒くなった。そして頭に血が上った。

「あのアホ。一体何しとんねん」

一言いうが早いか、詩織は教室を飛び出していった。

「詩織、どこ行くん?」

後ろで葵の声が聞こえていたが、すぐに聞こえなくなっていた。

廊下を駆け抜け、階段を猛ダッシュで降りると、校門に向かって一気に駆けていった。

(まだ、あのアホは門から出てへんはずや。ここで捕まえたる)

 興奮している事もあって、手を洗うのも忘れていた。

程なく、猛が友達と連れ立って、校門に近づいてくるのが見えた。

 詩織は猛達めがけて歩を早めて近づいていくと彼らの前に立ちふさがった。

 楽しげに話しながら友達と歩いていた猛は、目の前に詩織が現れたことに驚いた。

 大股で近づいてくる詩織の目は怒っていた。猛は視線を外してみないように顔を背けた。

「詩織。何でここにいてるのん?」

「アホか! あんたが逃げるのを見たから走って先回りして待ってたんやろが!」

「見てたんか…… ごめん」

済まなそうに猛は下を向いた。

「御免やないやろが。あんた毎回あの雨どいを伝って逃げてたんか?」

「そうは言っても、早よ帰ってゲームの続きせんとあかんし」

聞いた詩織は頭に血が上った。猛の前に一歩出て行き、胸の前に拳を突き出した。

それを見ていた猛の友達は、二人をはやし立てた

「俺ら邪魔みたいやし、痴話喧嘩には参加したないなぁ。ホンマ仲ええねんな」

「何で痴話喧嘩やねん!しばくで」

詩織が怒気を含めて荒ぶると、友達は口をつぐんだ。

「あーあ、ゲームはよしたかったのになぁ」

「あんた、まだわかってへんのか? 掃除さぼるのもあかんけど、あんな頼りない雨どい伝って降りることが危ないって分かれへんのか?ええ加減にしぃや」

 詩織は怒りながら、猛の鼻先を指さした。

 鼻先に突き付けられた詩織の指からは甘く据えたような匂いがしていた。

 何となくではあるが、猛は詩織のにおいだと、認識した。

 と、その瞬間。猛の男性自身は充血する間もなく夥しい体液を放出していった。たまらず、彼は体をくの字に折り曲げて、両膝と手をついてその場に崩れた。

 それを見た友人が、驚いて猛に尋ねる。

「どないしたんや? いきなり具合が悪なったんか? それとも、嫁に土下座か」

「嫁ちゃうちゅうねん」

 詩織がさらに怒り出したが、猛はその場を取り繕うようにしていった。

「すまん、先に帰ってくれるか。俺することがあるみたいやわ」

 そう言うと、ゆっくり起きだした。彼自身の充血も収まっており、今は精神的に余裕のある時だ。いわゆる『賢者タイム』と言う状態だ。

「それから、ちゃんと掃除せなあかんで。今からでも手伝っといで」

そういわれた猛は何故か、その言葉に逆らえなかった。まるで催眠術か暗示にかかったような感覚で、詩織の言うことは必ず聞かなければならない気がしたのだった。

 ゆっくりと校舎に向かおうとするが、自分たちの教室と少し方向が違うことに気が付いた。

「猛。あんたどっちに行ってんの? 教室はあっちやで!」

詩織を背にしながら、猛は考えていた、兎に角教室に戻る前に下着についた体液を何とかしないと……

「ごめん。後からちゃんと行くから、トイレに行かして」

そういって、ゆっくりとその場を離れて行った。

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