時間がなかったの。
3 時間がなかったの。
いつも通りの課業が過ぎてゆく。授業が進んで昼休みなる頃には詩織の体調もすっかり回復し、残りの授業にも集中できた。
詩織の席は廊下側で後ろの出入り口に割合近い所だった。ふと横を向いて猛の方を見た時、ふいに視線が交わった。詩織を目が合った猛は笑いながら小さく手を振った。
詩織がアイコンタクトを送る。
――― 何しとんねん。ちゃんと前向かんかい。
心の声が聞こえたのか、少し睨んだところところで猛が慌てて前を向き、板書を始めた。
ああ…… 溜息出るわ。ホンマに。
保護者替わりを自負している事もあり、目が離せないのだった。
無邪気な笑顔は嫌いではない。が、今日の掃除もさぼるようならば、きっちり絞めてやろう。そう思っているうちに授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
6時間目が始まる前の休み時間で詩織は集めたノートを職員室に持っていった。
皆のノートを集めるのが遅くなっていたので、職員室に届けるころににはもう休み時間は半分も残っていなかった。慌てて教室に帰ろうとする詩織は少し焦った。
(アカン。トイレ行きたい)
ふと廊下の時計を見たらあと2分少々。かといって我慢できないようになった時に手を上げて「先生。トイレに行きたい」と大声で訴えるほどデリカシーのない女と皆に思われたくもない。当然、男子からもからかわれるに決まっている。
そう思った詩織は覚悟を決めてトイレに駆け込んだ。幸い休み時間の残りが少ないので、個室が使用中になっているところは少ない。
その中で空いている部屋に飛び込んで、急いで用を足した。
安心して、後始末をしようとして、詩織は戦慄した。
(紙あらへんやん。どうせいっちゅうねん。)
周りに聞こえないように心の中で叫んでみた。しょうがないのでポケットを探ってみるとちょうどポケットティッシュが見つかった。
喜び勇んで出してみたら、1枚だけ残っているだけだったが背に腹は代えられない。
意を決してその一枚で後始末をしようとしたとき、ティッシュがずれて、指先がが大事なところに触れてしまった。
(何やってねん。もう)
慌てて拭きなおそうとしたところ、予冷が鳴った。
焦った詩織は下着をたくし上げると、急いで流すと、個室のドアを開けて飛び出した。
(先生に日誌綿さんとアカンのやった)
そのまま手を洗うのも忘れるほど、全力疾走で教室に向かって走っていった。
幸いトイレの洗面台には今の時では間誰一人残っていなかったので、とりあえず後で手を洗えば良いかと思い、廊下をダッシュしてギリギリセーフで教室に滑り込んだ。
気が乱れた詩織を見て葵が訪ねた。
「どうしたん? 息乱れてるで」
「別に何でもないって。ちょっと職員室から走ってきただけやから」
慌てて走ってきたことと手を洗っていないことは絶対に話せない事だ。
詩織は黙って席に着いた。残り派の授業は1時限のみだ。今日の掃除は絶対に猛を捕まえて こき使ってやる。そう思いながら授業を受けていた。