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依頼主

『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。』



2015年7月20日 夏

東京都T市


夏の猛暑が始まりを告げ、夏の暑さの中、

蝉の声がそこら中から聞こえ、誰もが夏だと


感じられる時。

そんな中、一人の若い男性はその暑さの中では 似つかわしくない黒いスーツを纏ったまま、道を歩いている。


自転車を走らせる小学生、ベンチに座って

氷菓子を口に頬張る女性、紙製の団扇を

扇ぐカンカン帽を被った老人、そんな当たり前で日常的な光景を目の当たりにしながら、

この暑さで焼けたように熱い地面を歩きながら、男性は目的地へと向かう。


東京都T市N町


その町にある小さな喫茶店ので足を止める

「確か…ここだよな…」

そう呟くと、木製のドアを開け、ドアに付いた小さな鐘を鳴らしながら喫茶店に入る。


ドアをくぐると外とは違い、程よい気温が迎え、幾つかの机と椅子、カウンター席が目に映る。


店内を見回すとこちらに手を振り、

こっちだ、と男性を呼ぶ白いシャツを着た

若い男性とその隣にはモノクロのワンピースを着た若い女性が椅子に付いている。

その二人を確認し、二人の元へと向かう。

「相変わらず、夏なのにスーツ姿って…一目でお前だって分かったよ」

シャツを着た男性は軽く笑いながら

スーツ姿の男性へと話しかける。

「確かに、この暑さでスーツは失敗した」

ハンカチで顔の汗を拭いながらそう言う、

「それで、この人が件の人かい?」

ワンピースを着た若い女性を見ながら

スーツ姿の男は問う、

「そうそう、お前に依頼をしたいって人。

ほれ自己紹介、自己紹介」

軽く急かすように迫るシャツの男、

「初めまして、自分は探偵をやっています

『芒谷 真司』と申します」

丁寧な口調で名刺を出しながら自己紹介を

済ませる真司、それを受け取り自らも自己紹介を始める女性。

「初めまして、私は『宮野 舞』って言います」

笑いながら自己紹介をする舞、だが

真司にはその笑顔が無理をして笑っている様に見えた。

「それで、自分に依頼をしたいと言う件に

ついてですが」

「はい、貴方をこちらの修也さんからの紹介で知り、依頼します」

シャツの男の名は『上野 修也』

真司の古くからの友人で、よく依頼人を真司に紹介する男性で、真司が信頼出来る数少ない人である。

「実は……妹を探して欲しいんです」

「妹さんを…ですか」

真剣な表情で聞き返す真司。

「はい…私の妹は高校生で、私とは違って

両親の元で暮らしていたんです」

「私とは違って…ですか?」

そう問いかけるとすぐさまに答える。

「はい、私は一人暮らしをしているんです、

妹は私が寂しくない様にと、よく来てくれるんです、その妹が5日前に…」

段々と暗い表情になり、声の音量が落ちて行く。

「その妹さんが失踪して、警察に捜索願いを

出してるんだけど、警察は家出だって決めつけて相手にしてくれないそうだ、んでお前に依頼したいって訳だ」

話の続きを話す修也。

「妹が居なくなったのが、私の家から

帰る時で……私が送ってあげれば…」

物思いに沈んだ声と表情で顔を伏せる舞。

「お願いです!妹を探してください!」

真司は少し考えるような表情をしてから、口を開く。

「分かりました、宮野さんの依頼をお受けします」

舞の顔は少しずつ明るくなっていく。

「本当ですか!ありがとうございます!」

と礼を言いながら頭を下げる。

「やっぱお前なら受けてくれるって思ってたぜ」

修也はいつの間にか頼んでいたアイスコーヒーを飲みながら言う。

「ただ、お前にも手伝って貰うぞ」

「……マジ?」

そんな会話を交わし、妹の特徴などを舞から聞き、机から離れ喫茶店を出る。



この依頼が三人を深淵へと引きずり込むのは

まだ遠い、先の話である









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