その他生徒の感想「またあいつらか」
「転生、それは死んだ者が再び生を得ること。
その際前世とは異なる容姿や性格になったりするが、そうでもないパターンもある。
しかし、まあ。
どこに行っても、『普通』があれば『特別』もあるもので。
例え前世と異なる容姿になったとしても--中身がそのまま残っているケースがある。生まれながらに前世の記憶を持つか、成長の過程で断片的に思い出していくなどの個人差は多少あるが。
もし幼い頃から記憶を持ち合わせていたとすれば、少なからず羞恥を覚えること必須だろう。
大抵は前世とは違う環境や習慣、そして見たことのない物に興味や執着を抱く前に、中身はそこそこな年なのに子供扱いされることをむず痒く思う。前世が赤ん坊からあまり成長しないまま死んだ場合はその様な違和感はなくなるだろうけれど、それだとまず自分が記憶を持って転生したことにすら気付かないだろう。お得感なんかあったもんじゃない。
そんなこんなで(長々とした説明はもういいかなと思った)成長した転生者は、大方前世に関係があった者とニアミスしそうな方向へと運命が傾く。記憶がないならこんにちは。記憶があるならまた会ったなテメェこの野郎。
そうして輪廻の輪は回り続けて、今日も世界はめくるめく。
前方にそびえ立つは私立高校戦国学園。門扉に立つは長い黒髪の青年。
耳にピアス、首にネックレスをじゃらじゃらと装備し、制服を着崩す様は正に不良!
この青年は一体どんな人生を歩むことか。前世の罪を流せるのか、はたまた愚かに罪を重ねてしまうのか?
我々は彼の動向に注目したいと思います。タイトルは『加藤清正24時~忘れられぬ過去~』でいけますかね、リポーターの重介?」
学校の屋上。漫画ドラマ小説その他でよくよく生徒たちが使うその場には、『関係者以外立ち入り禁止』とプリントされたテープがあちらこちらに張り巡らされていた。
その中の一つのテープに片腕を寄りかからせながら校門の方へ目を向けているプリン頭の少年の名前は小西行長。手には気分を出すために音声拡張スピーカーが握られている。
「非常にどうでもいいですね。あとさっき予鈴鳴りましたよ」
同じく校門へ目を向けつつもちらちらと屋上の扉を気にしている頭が黒髪天然パーマな少年の名前は戸川重介。彼の手のひらには家庭用ビデオカメラが収まっているが、はたして屋上から校門までという長距離で対象の映像はちゃんと映るのか。
冷めた目の重介に対し、行長のテンションやらモチベーションはまだまだ下がりそうにもなく。続けてそのままアナウンサー気分なのだった。
「我々の任務は加藤清正氏の張り込み。予鈴など障害はないのです。正直今からでも華麗にスタートダッシュを決めながら我がクラスに向かって走り去って行きたいですが、清正氏が校舎内に入って行かない為、仕方なく屋上からこのように実況するしかないんです!理解してよね重介。」
「口調は最後まで統一した方がいいのでは?あと言われるまでもなく理解はしています。ただ現状把握をもう一度してもらおうと思ったまでで……、というかこのカメラさっきからピントが合わなくて何も写ってないんですけど。こんな物持つより片手にケーキで優雅なひと時を過ごしたいです」
そっと遠くの空をみる重介。彼の脳裏ではチーズケーキ、モンブラン、ショコラ、バームクーヘンなどがふわふわと踊っている。
そんな重介の様子など気にせずに行長は喋るしゃべる。
「我慢してね。というかなんであいつは校舎に入らないの?僕が言えることじゃないけどもう予鈴鳴ってるんでしょ?…サボり?」
確かにさっきから行長と重介が会話している間、清正はその場を動いていなかった。
「ですかね?しかしそれならば周りに悪友の姿が見える筈ですが……、」
「どうしたの重介?」
不審に思った重介が、そばに置いてあったあった行長の鞄の中に持っていたカメラを勝手にしまい、代わりに取り出した双眼鏡を使っていた。
「…いえ……ただ、なんか清正殿がこっち目線を保ってくれているので、珍しくサービス精神旺盛だなと感じただけです」
「……それって僕達はもう清正にばれてるってことになるかな?」
「まあ、大体の原因は想像できますけどね」
「ふむ。」
「貴方が朝から構えているその音声拡張スピーカーフォンさえなければ、予鈴がなるまで登校中の生徒達にガン見されることもなく、清正殿にばれることもなか『聞こえてんだよ行長、重介ーーっ!!!』…とうとう攻撃されそうですがどうしますか?」
「ふっふっふ、ここは平和的に戦略的撤退をしようじゃないか!」
「承知」
スピーカーフォンを投げ出した行長は、意気揚々と小さな箱を取り出し、屋上に設置した。
スピーカーを使わなければ、清正に普通の音量で話す行長の声は聞こえない。地上から屋上までは4階分の距離があるからだ。さっきの様に叫べば、聞こえないこともないが。
行長達が動いたことを確認した清正は、外に設置してある室外機などをよじ登って到達した、校内への入り口に最も近い、見上げれば屋上にいる人と目が会うような体育倉庫(第二グラウンド用)の上で、自分用に効率良く改造した中でも射程範囲が広く反動による負担の少ない銃(本人命名『撃ち落とし』)を取り出した。
すぐさまそれに気付いた行長は、上司がスピーカーフォンを持ってきた事で後々の清正の銃撃を予想した重介が用意した目くらまし用の薄力粉(タッパー入り)を掴み、清正が標準を合わせるよりも早く屋上の端へと駆け出した。
清正はそんな行長の様子を見ると、無理に走っている行長に標準を合わせようとせず、恐らく行長が折り返すであろう行き止まりに先に標準を合わせた。走っている途中では標準がずれて当たらない可能性が比較的高いが、行き止まりで一旦身体を反転させ方向を変えるときの数秒なら移動が出来ないため、高い確率で当てられると判断したからだ。がむしゃらに乱射をしても良かったが、弾薬には多少ともなりお金がかかるため、無駄な浪費は抑えたいのでやめたのだ。彼は学生。お小遣いも限られている。
徐々に射撃ポイントに近付く行長に、清正は引き金に力を込めた。
パンッ
「!?」
思わず音の方向に目を向ける。その隙にターンした行長は再び重介の方へと走り出してしまったが、清正は屋上のある一点に釘付けになってしまっていた。
自分の銃ではなく、別の音--。
まさか後回しにしていた重介な何かしたのかと判断した矢先に清正の目に映ったのは、重介が掲げた箱からでる紙吹雪の嵐と、その中に浮き飛ぶ垂れ幕付きの小さな白い風船だった。
中の空気はガスなのか、ふわふわと上空に昇っていく…かと思いきや小さいせいで垂れ幕の重さに負けて少しずつ高度を下げていく風船。
その間ずっと風船の紐と絡まっていた垂れ幕が、不意に吹いた春風にに煽られ、パソコンでプリントしたのであろう文字を清正、そして何事かと教室の窓から顔を出して見ていた人達に見せ付けた。
《にっくき単細胞加藤清正、誕生日おめでとう!》
「やあやあ驚いてる様だね清正!やっぱり僕の案は正しかった!」
「ではさっさと逃げましょうか」
いつの間にか屋上のドアを開け、あっかんべーをしながら走り去っていく小西主従を視界の端に捕らえながら、既に2階位の高さまで降りてきている風船をガン見する。
と、走り去った行長が思いきり投げたのか、特に使われることはなかったタッパーが宙を舞いながら、倉庫の上においてあった清正の私物(雑誌とか他の鞄とか)の上に落ちた。
ぶわっと広がった薄力粉を受け止めた自分の私物を見ると、再び風船に視線を戻す。
「……」
文字を見る。
「………………俺の誕生日は今日じゃねぇよ」
……行長達に対しての苛立ちの矛先を風船へと変更させた清正は、静かに銃口を向け、狙いを定めた。
バンッ
先程の様な軽快な音ではなく、聞いた者の肩を思わず竦み上がらせる音を残して風船は破裂し、その残骸が地面に落ちた。
軽く砂を被る白いゴムと落ちた垂れ幕を眺めながら、まだ収まらぬ行長達への怒りと、少しだけ心をよぎった嬉しさをごまかそうと。清正は銃を鞄に仕舞うと、ゆっくりと倉庫から降りて、既に1時限目が始まった校舎の中へと入って行った。
《補足》
重火器とか刃物とか持ち込み放題の学校。清正は銃火器メインだけど他の武器も扱える万能型。行長は剣術がメイン故にリスクも高いため、なるべく戦いを避ける傾向にある。たとえリスクが低くても、争う必要がない限り戦いを避ける。
重介についてはまた今度。
《キャラ》
名前:小西行長
性別:男
学年:高校二年生(17)
概要:前世と同じく商人の出。実家は大阪なので重介と一緒に相部屋で寮住まい。学園内で商売とかしてるせいか、地味に顔が広い。部活は歴史研究部という名の帰宅部。水泳部と仲がいい(前世の水軍繋がりで)。三成は親友。豊臣家を裏切った清正達は大嫌い。特に清正はいちいち突っかかってくるから一番大嫌い。
名前:戸川重介
性別:男
学年:高校二年生(17)
概要:前世は行長の重臣であり、現在は親友。大雑把な上司の行動に鑢がけするポジション。頭がよく、上司さえも巻き込んで自分に有利な状況を作る。また、行長と同じく部活は歴史研究会(帰宅部)。甘いものが大好き。特にケーキ。大抵の人には敬語を使うため、内心を探ろうとしても遠ざけられる。しかし本人は近付いたつもりでいる。ああ、すれ違い。
名前:加藤清正
性別:男
学年:高校一年生(15)
概要:行長が気に入らなくて突っかかる。でも嫌いではない。地味に重介と仲がよく、事あるごとになにかを相談しに行く。恋話とかテスト勉強とか。前世の武道派組とつるんでぶいぶいいわせている。要は不良。様々な武器の扱いに秀でているが、頭のよさは微妙。暇なときは行長達の部活に顔を出している。