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幸か不幸か  作者: 紺野碧
16/22

審問会 1

私は今、王城の薄暗い廊下を歩いている。


隣を歩くエドワードさんに置いていかれそうになりながら、必死で足を進める。きっとまた、不機嫌そうな顔でもしているんだろう。まあ、この状態では見えないけど。

私は今、顔の半分以上が隠れるフード付きのポンチョみたいな羽織もの、膝下丈のノースリーブのワンピースを身に付け、両手は体の前で拘束された状態だ。ぶっちゃけ足元しか見えない上に、手が不自由なのでバランスを取りにくくて、非常に歩きにくい。おまけに磨いてあるとはいえ石造りの床なのだ。どうしたって多少のでこぼこがあるので、転ばないように必死だ。今転んだら、絶対に顔からいくもんね。想像しただけで痛い。


私がなんでこんな状態なのかというと、例の神官様のいちゃもん回避のためである。アシュリー嬢によれば、悪魔が人を惑わすのは、呪文を唱えたり、目を合わせたり、触れたりすることで相手に術にかけるから、ということだった。そこで、顔を隠して自由に動けないように手を拘束する、という結論に至ったのだ。呪文の方は、喋らなければ問題ない、ということで口を塞がれるのは回避しました。まあそれでも、出掛けにこの状態を見たアシュリー嬢はかなり怒っていたけれど、どうにかなだめて先に王城へ向かってもらった。


「この廊下の突き当たりが王城の教会だ」

「……はい」

「お前はなにも言わず、指示された通りにするんだ」

「わかりました」


エドワードさんは、案の定不機嫌そうに、そしてちょっと緊張した声で言った。

それはそうだろう。この先には、神官様だけではなく、王族の方もいるのだ。しかも、こちらを罰する気満々なのだから。

私だって多少は緊張している。まあ、回りが見えないからそれほどでもないけど。どちらかと言うと、物語の中に入り込んで、間近でいろいろな出来事を眺めているような感じかな。


「お名前を」


立ち止まったと思ったら、正面から声がする。よく見えないけど、たぶん扉の前なのだと思う。


「エドワード・フランドル。審問会に参上した」

「そちらは」

「エリーと呼ばれている。今日、審問を受ける娘だ」


私のことを言われたので、ペコリと頭を下げてみた。きっと、この人たちも今日の審問会の内容を知っているんだろう。エドワードさんが私のことを伝えたとたん、息を飲むような雰囲気かあった。


「わかりました。どうぞ、中へ」


ギイ、という音をたてて扉が開く。足元が明るくなったのは、扉の向こうが廊下よりも明るいからだろうか。教会というくらいだから、ステンドグラスとかあるのかな。見えないけど。


エドワードさんに遅れないように、壁沿いを早足で歩くと、さわさわとざわめきのような音がする。数人かと思っていたけど、予想外に多いようだ。きっと、アシュリー嬢や研究所のみんなもいるんだろう。


「エドワード・フランドルだな」

「はい。例の娘を連れて参りました」


エドワードさんに合わせて立ち止まると、前の方、少し上から男の人の声が降ってきた。偉い人だろうから、おじさんかおじいさんかと思っていたけど、声を聞く限りもっとずっと若い。二十代後半か三十代くらいじゃないだろうか。


「なるほど。して、その娘はなぜその様に顔を隠し、手を縛られておる?」

「はい。この娘は悪魔である可能性があります。今は、こちらの言うことを聞いておりますが、万一にも陛下に危害を加えることなどないようにです」

「……ほう? お主の弟と妹はこれがただのフォルダーだと主張しているようだが?」


陛下って言ってたから、この人が王様か。しかし、そんなことまで知ってるってことは、ちゃんと報告書とか読んでるんだ。王様って忙しいだろうに、大変だなあ。


「私には信じられません。これの容貌は、経典にある悪魔の記述そのものです」

「なるほど、確かに髪は黒のようだな。よかろう。では神官」

「はい、陛下。……娘、こちらへ」


こちらへ、と言われても足下しかみえないのでどっちなんだかよくわからない。


「まっすぐ前だ。陣の中央へ入れ」


エドワードさんに言われるまま、うつむいたままでゆっくりと前に進む。きれいに磨かれた石造りの床を少し行くと、なんだか文字のようなものが書かれている部分を踏んでしまった。え、これ、踏んでも大丈夫? と思って立ち止まったら、今度は別の人から声がかかった。


「娘、そのまま前へ進みなさい」


声の言うとおりに数歩前に進むと、ふと床の文字がなくなった。


「止まれ。半歩右へ」


今度はまた別の人の声だ。言われた通り、半歩右へ動いて足を止める。ここが陣の真ん中、ってことでいいのかな。


「では、陛下。初めてもよろしいでしょうか」

「ああ。で? もし、この娘が悪魔であったらどうなるのだ?」

「……聖なる炎で焼き尽くされることになるかと」

「ほう。よい、やってみよ」


ええー、なんかすごく物騒な台詞が聞こえたんですけど。それはなに、万一の事態になったら、私は焼死するってことですか。ていうか、ホントにちゃんとした儀式なんでしょうね。悪魔だろうとなんだろうと、単純に燃やす術とかだったら大変じゃない。なんかちょっと不安になってきたんですけど。


だけど、しゃべっちゃダメな私は抗議することもできず、ただ黙ってされるがままになるしかない。周りで人の動く気配がする。きっと、準備をしているんだろう。


あーあ、本当に大丈夫かな。



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