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幸か不幸か  作者: 紺野碧
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次の問題

所長室の応接用のソファーに座って、私はダントンさんとオースティンさんの話を黙って聞いていた。

なんか難しい言葉がいくつか出てきたので全部はわからなかったけれど、どうやら私にお呼びだしがかかっていることと、それが本来は不要なものであるはずなことはわかった。


「あのう。どこか行かなきゃいけないとこがあるんですか?」

「本来は不要なんだがね」


会話のすき間に問いかけた疑問に、ダントンさんは苦笑しながら答えてくれた。


「王城に呼び出しがかかったんだよ」

「王城、て、王様の住んでるお城、ですよね?」

「ああ。報告書が信用ならないんだとさ」


ふてくされたように言うオースティンさんに驚いた。今まで見た中で一番態度が悪い。きっと、なんか物凄く不満なんだろうなあ、と思っていたら、ダントンさんが補足してくれた。

いわく、通常、フォルダーの扱いは研究所に一任されていて、政務を行う側には報告書を出して終了なのだそうだ。もちろん、必要に応じて面会などがあるけれど、こちらに来たばかりのフォルダーに面会することなどないのだと言う。


「もしかして、噂の件で?」

「……ああ。アシュリーと兄さんまで呼び出されている」

「そんな!」


間違いなく、フランドル家のご令嬢が悪魔を飼っている、という噂のせいだ。しかも、王家に呪いをとかいう物騒なものまであったと聞いた。まず私が悪魔という前提が崩れることで、この噂は嘘だということになるはずなんだけど、それじゃ納得いかないというのだろう。


「フランドル家のお嬢さんも含め、研究所の我々も、悪魔に魅られたのでは、と神官たちが騒いでいるらしくての」

「はあ、それはずいぶん失礼な話ですね」


国の機関が出した報告書を嘘扱いなうえ、そこの研究員がみんな正気でない、というわけか。神官ってこの国ではそんなに偉いんだろうか。


「それは、断るわけにはいかないんですよね?」

「本来なら教会にはフォルダーに命令する権限はないんだ。嫌なら行かなくていい」

「え、でも王城に呼ばれてるんでしょう?」


王様とかが呼んでいるなら行った方がいいのでは。てか、拒否権なんてなくないですか。


「王族の前で審問でもするつもりだろう」

「教会は研究所が力を持つことをよく思っていないからの」

「そうなんですか」


なんだかいまいち理解できずに、困っていたら、カルロさんが王族と教会と研究所の関係について教えてくれた。

王族は国教であるジーナ教の神様の血縁で、信仰の対象にそこはかとなく近いこと、この国には魔法というものが一応存在していて、でも現代では王族と一部の神官しか使えないこと、それ故、悪魔や天使などの存在が信じられていること、魔法を使えない人々の生活を豊かにするために科学研究所が作られたこと、その科学が魔法の存在を霞ませつつあること、その結果として教会が信仰までも薄れるのではと危惧していること。いっぺんに理解するのはなかなか難しい内容だったけど、とにかく、教会の人が研究所をよく思っていないことはわかった。


「ようするに、私は教会が研究所を攻撃するためにはいい弱点になりうるってことですか?」

「まあ、概ねそんな感じ。エリカは賢いね」

「いやいや、カルロさんの説明がお上手だからです」


誉められたのが嬉しくて、にこにこしていたら、オースティンさんにぺしんと額をたたかれた。


「痛! 痛いです、オースティンさん」

「へらへらしている場合? 自分の命に関わるかもしれない話なんだよ」

「えっ、そうなんですか?」


驚いてダントンさんを見ると、困ったような顔をして笑って、次にやさしく頭をなでてくれた。


「大丈夫だよ、エリカ。君は我々にとっても大切だからね。全力で保護させてもらおう」

「ありがとうございます。でも、私をかばったら皆さんが危なかったりしませんか?」

「仮に教会がエリーを悪魔だと証明したら、お前とお前をかばったものは処刑だろうね」

「え、……うそ、ですよね?」


ちょっと待って、そんな物騒な話なの? てか、なんにも悪いことしてないのに、処刑ってなに? そんなのが許されるの?


「ど、どうして」

「悪魔をかばうのは宗教的に異端だから。それに、王族に歯向かった反逆罪もつくしね」

「……こわあ」


すごいよ異世界。宗教の自由なんて存在しないのね。王様が神様の血縁だって設定なら、国教を信じないイコール王様に逆らう、ってのもわからないではないけど。だからって処刑なんてひどいよね。あ、でも日本でも昔は踏み絵とかしてたしなあ。支配側にとっては信仰するものが違うっていうのは、もしかしたら結構な脅威なのかも。


「そういうことなら、行かないとまずいのでは?」

「それはそうだが、行ってすんなり帰してくれるとは思えないだろう」

「確かにそうですけど」


だけど、ここで反対に私が悪魔でないと証明できたら、もう追及されることもないんじゃないのかな。


「エリカは行ってもいいと?」

「はあ。だって、無視していても疑いは晴れないんでしょう?」


驚いたような、面白いものを見たような顔で問い掛けるダントンさんに、私は素直に思ったことを答えた。私はこの世界に来てから、前向きに考えることの大事さを学んだのだ。ここは、ピンチと考えるより、チャンスだと思った方がいい。


「しかし、仮にやつらにお前を悪魔だと仕立てられれば、それで終わりなんだぞ」

「反対に、ここで神官様たちを黙らせてしまえば、こちらの勝ちですよね」

「なるほど、頼もしいね。エリカ」


含み笑いをするダントンさんに、私は、ふふふ、と笑みを溢した。



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