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幸か不幸か  作者: 紺野碧
11/22

初めまして

考え事をしながらのんびり着替えた私は、部屋を出た瞬間に遅い! とオースティンさんに怒られた。待っててくれなくてもよかったのに、と言ったら場所も知らないのにどうするつもりかと言われてしまった。まあ、ごもっともです。


「ええと、他の方は……」

「先に行ってるよ。食堂は今後はよく使うことになるだろうから、覚えておくようにね」

「はい」


なんだかオースティンさんは不機嫌継続中なようで、初めに応接室に来たときよりずいぶん早足で進む。必死で後をついていくと、観音開きの大きな扉に行き着いた。


「ここが食堂。研究所の人間はみんなここで食事をとる。泊まり込む人間も多いから、だいたいいつでも開いてるよ」

「そうなんですか」

「さあ、入ろうか」


扉を開けた先は学校の食堂よりもちょっと広いくらいの空間が広がっていて、長テーブルと椅子が整然と、まではいかないけど、まあまあきれいに並んでいた。ちょうどお昼時だからかそれなりに人がいる。やっぱり私は目立つのだろう、ちらちらとこちらを見ている人が多くて、微妙に居心地が悪い。

早くどこかに落ち着きたくて見回すと、奥の方でさっき応接室で会った人たちが手をあげて合図していた。


「やあ、遅かったね。迷った?」

「まさか。これの着替えが遅かっただけだ」

「……すみません」


ライトブラウンの髪の人の問いに不機嫌そうに答えるオースティンさんに、思わず謝ってしまった。

テーブルには、すでに四人の人が座って料理が並べられている。お皿の数からして、私とオースティンさんの分もあるみたい。


「もう食べなから話そうぜ」

「その前に自己紹介からでしょう」

「あ、オースティン。肉と魚とあるから二人で好きな方選んでくれ」


口々に話し始めるので、誰を見ていいのやら。とりあえず空いてる席に座ったけど、どうしていいかわからなくて両手を膝の上に置いて黙って見ていることにした。

そういえば、私がフランドル家以外の人にまともに会うのはこれが初めてだ。こうして並んでいるのを見ると、フランドル家の血筋はどうやら美形らしい。西欧系の彫りの深い顔ってだけで充分美人なんだけど、それでもパーツの形や並び、全体のバランスとかで結構違うんだな。そういう意味ではオースティンさんが格段に整っている。ムカつくくらい肌もきれいだし。


「エリー」

「っはい!」


ぼんやりと皆さんの顔を検証していたのがばれたかと思って焦った。でも、怒られないところをみるとセーフみたい。よかったあ。


「ちゃんと自己紹介しなさい」

「あ、はい。えーと、エリカ・ヨシムラです。性別は女、年は多分17、学生です」

「えーと、オースティンはエリーって呼んでるみたいだけど」

「妹が呼んでたんだよ。エリカと呼んだ方がいいか?」

「いえ、愛称ってなかったから嬉しいです。好きに呼んでください」


なんだかオースティンさんがすっかり保護者になってるなあ。唯一の顔見知りだから仕方ないのかもしれないけど、ちょっと申し訳ない。もしやそれでご機嫌斜め? ごまかすように笑いかけると、オースティンさんの眉間にシワがよった。ちょっとなんでよ!


「彼らは各部門の主任や副主任をしている。部門長より地位は下だが、実際の研究で関わるのは彼らになる」

「わかりました。よろしくお願いします」

「よろしくね。じゃあ俺たちも一人ずつ自己紹介しよう」


お願いします、と頷くとライトブラウンの髪の人がじゃあ俺から、と手をあげた。


「化学部門で研究主任をしている、ガストン・ローマンだ。オースティンとは学術院の同期でね。いろいろ聞きたいことがあるから、よろしく頼むよ」


色素が薄いのだろう、瞳は金色で、頬にはそばかすが散っている。けれど、ひ弱な感じは全然しない。体つきもがっちりしているし、やや釣りぎみの目は力強くて、どっちかと言うと明るい体育会系なイメージの人だ。研究室にこもるような感じじゃなさそう。


どうやら、時計回りに自己紹介することになったようで、すぐ隣の人が手をあげて名乗りをあげた。


「オレはジャック・バーミリオン。工学部門の主任だ。機械関係の研究をしている。君の持ってた筆記用具をいじってたのがいたろ? あれがうちの部門長だ」


スプーンを持ったまま、いたずらっぽい笑みを浮かべている。多分、若くても30代くらいなんだろうけど、その表情や言動はもっと若々しく見える。小柄でちょっと粗暴な雰囲気だけど、赤銅色の髪と若草色の瞳がその雰囲気によく似合う。


「理学部門の研究主任をしてます。クラウド・ペイズリーです。よろしくお願いします。見たことのない材質が多かったので、その件で話を伺うと思います」


ジャックさんに続いたのは、いかにも理数系! って感じの人だ。切れ長のチャコールグレーの瞳を隠すように眼鏡をかけ、銀色の髪はきちんと後ろで束ねられている。主任やってるくらいだし、この落ち着き具合は20代ではなさそう。でも、正直年齢不詳です。


「生物学のマルコー・ダリです。副主任ですが、主任は大抵外出してるので、何かあれば私に。エリカは恐らく机の数から考えて、うちの研究室預かりになります」


次は物腰の柔らかい、穏やかそうな人だ。やっぱりこの人も30代くらいかな。うぐいす色の髪にダントンさんと似た深緑色の瞳をしている。あ、あと声の感じはいちばん好き! 高すぎず低すぎず、程よく通りのいい声は耳にやさしい。この人の研究室なら落ち着いていられそうかも。


「そして、僕が医学部門の副主任だ。生物学の隣の研究室だから、困ったことがあったらいつでもくるといい」


最後に、私の隣に座ったオースティンさんが自己紹介をする。副主任て結構偉いんじゃないの? たしかまだ23才くらいだったと思うけど、優秀なのね。


みんなを見回して、よろしくお願いします、と笑顔で言うと、それぞれに反応を返してくれる。

その反応に私に対する嫌悪感が感じられないことに安心し、スプーンを取った。



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