プロローグ
異世界転生でもトリップでもかまわない。
神官に呼ばれて魔物退治とか、なぜか王子の婚約者とか、本やネット小説で読んだことがあるとはいえ、別にそこまでの待遇は望んでない。空想こそしてみても、私にそこまでのポテンシャルがあるわけないことなんて自分でよくわかってる。
だから、もし自分がそうなっても、ほどほどにいい人に拾われて、そこそこに平和で安定した生活ができれば十分だな、なんて思ってたのに。
なのに、こんなに雑だなんて酷くはないか。
ここがどこかもわからなければ、言葉もわからない。当然、何かの特殊能力が身に付いた気配もない。しかも、なぜか私がいるのは檻の中。
なぜこんなとこにいるかって、私にだってわからない。特にすることもないから、檻の中でうろうろしたり、椅子に座ってぼんやり外を眺めたり、たまたまカバンに入っていた文庫本を読んでみたりする。
ただ、どういうわけかそんな私の様子を、毎日毎日、誰かしらが興味深そうに、あるいは怖いものでも見るような顔で眺めては去って行った。要するに、自分は見せ物にされているんだ、と気付いたのは、こんな生活が始まって一週間もたってからだった。我ながら、のんきすぎる。
ここでは、一応ご飯と寝床を貰えてはいるけど、ずっとお風呂に入れてないし、好奇の目に晒されるストレスで気が変になりそうだ。動物園や水族館の生き物達もこんな気分なのかと思うと、申し訳ない気分にすらなる。
それでも、この状況をどうにかできるとは思えない。とはいえ、毎日毎日ぼんやり過ごすにも限界がある。文庫本もさすがに同じのを三回も読んだら飽きてしまった。学校のカバンに制服なので、教科書とかノートはあるけど、こんなところで勉強したってなんの役にも立たないだろう。
仕方ないので、私も見に来る人たちの会話から、言葉を覚えてみようと思った。しかし、ここに来る人たちはみんな同じようなことしか言わない。多分、怖いとか不気味だとか変だとか、間違いなくよくない意味だろう言葉と、毎日ご飯を持って来る人が言う言葉、食事だとか、食えとかそんな感じ。後は簡単な動作や挨拶らしい言葉くらい。確認する方法がないから確かかわからないけど。
それにも飽きたら、後は周りを観察するくらいしかすることがない。毎日同じ時間に来る人もいれば、1日おきくらいに来る人、不定期だけど、毎回違う人と一緒の人もいる。当然、二度と来なかった人が一番多いけど。それでも、一つだけ言えるのは、彼らのなかに私と似たような髪や目の色をした人は誰もいなかったことだ。同じ人間の姿かたちはしているのに。
そんな風に色々ごまかしつつ過ごしてきても、3ヶ月もすると、もういい加減にして!と、私は毎日心のなかで絶叫するようになった。
ついに本当に大声で叫びそうになった、その日の夕方。
私の檻の鍵は突然外された。