神様に近い僕の願いは
僕が望めば突如人間を飢えに苦しませる事も
僕が望めば突如世界を海に沈める事も
僕が望めば突如人間をこの世界から抹消する事も
僕の意思によって可能
そんな事を言っても誰も信じないし気味が悪いと言われるだけ
其れは本当の事で僕は嘘等言っていない
望みは僕の願いを叶えてくれる
望めば僕は人間を望むだけで懲らしめる事が出来る
。..神様に近い僕の願いは..。
欲望に満ちた生命体、【人間】として狭い範囲のこの世界に生まれた僕、鈴山 サヤト。
母と父が僕を置いて空に行ってしまった時から、僕は街の古びた洋館で叔母と暮らしている
平凡な暮らしを続けて、平凡に生きる僕には生まれた時から授けられた力があった
それは神様に程近い人間が持ってはいけない【欲望】に満ちた、望みを叶える力
僕は神様に選ばれその力を自在に扱う事が出来る、幼い頃から僕はこの力を認識していた
其れと同時に恐ろしく残酷な力と言う事も判っていた
「…」
僕は無言で洋館の庭のベンチに叔母と一緒に腰を降ろし日向ぼっこをしている
仄々とした表情を浮かべ太陽を望む叔母の姿を見る度、優しくそして愛しく思えた
僕が叔母を見つめている時、叔母は辛そうに年老いた皺々な手でトントンと腰を叩いているのが眼に映る
とても困っている感じがする彼女の腰に僕はそっと未だ成長前の小さな掌でポンッと叩く
其れと同時に白く淡い光が放たれ洋館の庭の花壇のまだ蕾のままだった花の花弁が突如軟らかく開く
叔母の表情も柔らかくなり僕は笑みを浮かべた
「お天道様が痛みを取ってくださったのかね」
と仄々と何も知らず眩しい程の太陽を年老いた眼で映し出し掌を合わせ優しく拝んだ
痛みを和らげて上げたのは僕なのに、と僕は少々不機嫌になる
けれど叔母は「サヤ坊の温かい掌のお陰かもしれないね」と感謝する様に口を開く
僕が不機嫌になっていた事に気づいたのだろう、僕は照れて頬を赤に染める
優しい笑顔、些細な事で現れる真実の表情
今の人間にはその表情が薄れてきてると、僕は思う
次の日、僕は黒く嫌に重いランドセルを小さな背中に背負い憂鬱に思いながら賑やかな都内を進む
僕の小さな身体には行き交う人々が動く高層ビルに見える、僕はそのビルの様な人々を潜り抜ける
首が痛くなる程、顔を上に上げ人々の表情を愉しむのが僕の日課
苛立ちを隠せず、歩き煙草で苛立ちを薄め様としている真新しいスーツを身に纏う男性も居れば
何故だか緊張しつつ、心に秘めし希望を表情に出し進む真新しいスーツを身に纏う女性も居る
何故だか正反対に感じられるそのまったく違う人を見守るのが何故だか愉しい
今思えば、こんな事を愉しむ小学生なんて、僕しか居ないだろうと僕は笑う
「あ」
人々の表情を愉しんでいた僕がふっと視線を正面に向ければ、思わず声が出て脚が止まる
丸い眼に映し出される、人の波に飲まれながら泣き叫び遠い場所に居る小さな少女
手に持つ風船を握る手は涙に濡れ、絶望に埋もれた悲しい声が響く
ママ、パパと震えた声で呼び続ける少女、僕の心に何故だか罪悪感が芽生える
その声に僕と同じ様に立ち止まる人々、顔を歪める人や悲しい目で見る人等、多種多様
そんな中、一人の女の人が少女に近づき話し掛ける、少女の涙は止まった
何を言っているかは此処から聞こえない、けれど彼女が少女を慰めているのは良く分かる
少女は彼女の手を握り、笑みを浮かべた
「…」
僕は彼女達から視線を外し、違った道を歩み心の中で何かを望んだ
其れと同時に少女の慶びの声と複数の声が其の場に響いた
僕は笑みを浮かべ、ただ「良かった」と心の中で思うだけ
僕が望めば突如人間を飢えに苦しませる事も
僕が望めば突如世界を海に沈める事も
僕が望めば突如人間をこの世界から抹消する事も
僕の意思によって可能
誰も信じないけれど其れは真実で僕の望みが世界を変える
けれど僕は世界を変える程の事は望まない
人の人生が変わるほどの事は望まない
たとえ嫌いな奴がいたって、その人が不幸になる願いなんて望まない
神様に近い僕の願いは、世界中の人々への小さな小さな一つの幸せ
小さな小さな一つの幸せは柔らかな真実の笑顔を生み
密かに人間の心を暖める