表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守山一路はヒーローになれない  作者: 依近
第3章・ヒーローの定義
8/11

第7話・魔族襲来


 通りの幅を覆う巨大な影。巨大な羽音が空気を巻き上げ風を起こす。

 飛び交う悲鳴。骨が折れて飛んでいくテント。逃げ惑う人の足音に子供の泣き声が混じった。

 守山は子供たちを物陰にまとめて押し込んで、通りを逃げる人々に向かって叫ぶ。


「みんな、建物の影へ! ケガ人は優先して運べ!」

「モリヤマ! わたしたちが離れなきゃ……ここにいたら、みんなが……!」


 アウロラは虹剣(こうけん)イリスを胸に抱き、真っ青な顔で守山の腕に縋った。

 服を掴む指先が、小さく震えている。


「もう、遅いだろ……」


 逃げていく人々の行き先を目で追っていた守山は、風の向きが変わったことでゴクリと唾を呑み下す。

 飛翔する影が停止した。段々と濃くなり、巨大になってく。


「……っ……!」


 土埃を巻き込む風は轟音を立てて、周囲を濃い白に染め上げる。

 守山はアウロラを抱き込み、首に巻いた布を引き上げて地面に伏せた。

 アウロラの背中に覆い被さって虹剣イリスを隠すも――もう遅い。

 翼の一振りで、周囲に立っていたテントが全て飛ばされていく。一瞬にして開けた大地に、巨大なモンスターが君臨していた。

 真紅の鱗で覆われた巨体。

 長い首の先で、金色の目がギョロリと光る。

 飛び散る唾液は地に落ちて、乾いた土と反応してシュウと細い煙を上げた。

 酸い異臭が立ち込める。体液に毒を含んでいるようだ。


「でっけぇ……」


 骨格が覗く三角の翼がひとつ羽ばたく度、轟音と強い風が起こる。容赦なく顔面を襲う噴煙に目を瞑って耐え、守山は口布を頭の後ろできつく縛り、鼻の上で固定した。


「モリヤマ……」


 震える声。そっと身体を起こして覗き込む。

 アウロラは紅玉石の瞳いっぱいに涙を溜めて、喉を引きつらせていた。

 守山はアウロラと目を合わせ、目尻を窄めて微笑む。


「上、向けんな? それでこそ、ヒーローだ」

「だから、なんなのそれ……意味わかんない……!」


 アウロラは自棄を起こしたように叫んだ。守山はアウロラの細い肩に手を置いて、ひとつ息を整える。


「いいか? 俺が思うに、今世界中で一番強い武器は、あんたのその剣だ。そしてその剣を振るえるのはあんただけ。ってことは、あんたが一番強い」

「そう、だけど……でも、わたしは……!」

「大丈夫」


 ヒッ、と。引きつる音を立てて白い喉が震える。守山はアウロラの瞳を真っすぐに見つめた。決して不安の影を見せずに、わずかに微笑みを湛えて。


「人の形をしていないやつが相手なら、俺は思う存分戦える。ケガだってしない。約束する」

「そんな、めちゃくちゃ……!」

「人じゃないのが相手なら俺の戦闘歴は29年だ。信じろ。お前が信じてくれたら、俺は何倍も強くなる」


 アウロラの瞳に揺れる涙の膜は、今にも壊れてしまいそうだった。

 それでも、ギリギリのところで壊れない。


「信じられないなら――まあ、信じてみろ」

「矛盾って言わない? それ」


 アウロラは不満たっぷりに頬を膨らませる。守山は思わず顔をくしゃっとさせて噴き出す。


「文句が出るくらいなら、いけんな。じゃあ、あんたがするべきことひとつだけ教える」

「なに?」

「高いところに昇れ」

「……はあ?」


 滲んでいた涙の影が消える。

 守山は素早く周囲に視線を巡らせて、空の一点で目を留めた。


「そうだな……あそこがいい」


 アウロラも守山の視線の先を振り返る。

 そこには、石造りの崩れた教会があった。守山が示したのはその天辺にある鐘突き塔。

 何かの材料にでもされてしまったのか、そこにはもう鐘は下がっておらず、残された枠だけがぽっかりと在るだけだった。

 アウロラは白く細い喉を微かに震わせる。


「武器でも鎧でもない、最強のアイテムがあるっつったろ? それを今ここで、あんたにやるから」


 強張っていた表情がフッと緩んで、引き締まる。

 瞳の奥に強い光が揺れた。守山は布で覆った内側で、口角を上げる。


「あんたがヒーローになるための舞台を、俺が作ってやる」


 白い歯が唇をそっと噛んだ。アウロラは覚悟の光を瞳に光を揺らして――頷く。

 守山はアウロラの丸い頭をくしゃっと撫でて、別れの合図にした。

 そして、彼女を背にして立ち上がる。

 ギョロリと見下ろしてくる金色の目。守山は口布をずらして、腹の底から声を張り上げる。

 視線を自分に向けさせるために。


「オラァ! デカブツ!

俺が相手だ――かかってこいよ」


 突き出した右手。天に掌を向け、指先を曲げて挑発した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ