再会
前作でさらっと触れた、アーセネイユ君の恋バナです。
成人したばかりのアーセネイユ君は、外宇宙研修で知り合った歌手の卵に心を傾け、成人体不適合を起こして強制送還になった過去があります。これはその後日談。
お祭りの仮設ステージに詰めかけた群衆をかき分けるのは思ったより時間がかかったが、あきらめきれなかった。みんなステージの上に注目しているから、顔を見て探していくのは造作ないと思ったのに。まさか私の歌が終わったから帰っちゃった? 泣きそうになるのをこらえながら少しずつ人ごみが途切れていく外へ向かう。いた!
「アドル!」
本当の名前じゃないかもしれないけど、とりあえず呼んでみる。こっち向いて、お願い。
「アドルー!」
その人は一拍おいて、ゆっくりふりむいた。そして、照れたような驚いたような顔でこっちを向いて立ち止まった。待ってて、待ってて、お願いだから。人波を縫うようにして追いつくと、その人はあのときと変わらない笑顔を見せた。
「久しぶり、フレミー。」
「アドル、どうしてたの、なんでいなくなっちゃったのよ。」
声が知らず知らず泣きそうになっている。わたしに気づいた何人かがこそこそ話しているのが聞こえる。
「ねえ、あれってジュイ・エメロードじゃない? さっきまでステージで歌ってた…」
写真や映像を写そうとモバイルを構える人たち。わたしは気にならなくなったけど、彼は嫌だったらしい。
「落ち着いて話せるところまで行こうか。こんなところで長話はしたくない。」
歩き出した彼の上着の裾を握ってついていく。やっと会えた。うれしくてうれしくて、どこをどう歩いたのかわからないまま、ついて行った。今のわたしがあるのは彼のおかげだもの。ちゃんと話を聞きたい。
祭りが行われている巨大な倉庫らしい広場をすぎ、ぽつぽつと店のあるあたりへ戻った所で角を曲がりながらテレポートする。観光客用ではないショッピング街の、少し流行遅れなカフェに入る。彼女の眼は働いていない。テレポートしたのにも気づいていないみたいだ。心が僕のことでいっぱいだから。
「あなたがリゼア人だというのは本当なの?」
オーダーした飲み物が来る前から全力パンチを食らった。ちらりと覗いた限りでは当てずっぽではないらしい。
「…どうして知ってるの?」
「ずっと捜してたの。売れるようになっても、ステージに集まるお客さんにチラシ撒いて捜した。お金ができたら捜し人を生業にしてる人も雇った。でも、だめで、半年くらい経ったとき、ディクラの市長さんのお使いだって人が来て、教えてくれた。」
顔を上げた彼女が泣いてる。
「あなたはリゼア人だって。よその星で調査の仕事をする人で、あの時は休暇で交易都市にいたんだって。次の仕事が急に決まって、リゼアに一時帰国させられた。だから、もう捜すのはあきらめてほしい、って。」
…なんかだいぶ脚色されてないか。でも、大体の線で嘘はない。まあ今の彼女の有名さを考えれば、あきらめてもらうには真実に近い言い訳が必要だったんだろう。たぶん市長さんって言うのは市庁舎にいる着ぐるみのような体格のおじさんじゃなく、交易都市ディクラにおけるリゼア人の責任者の方だ。これ以上新進の歌手ジュイ・エメロードに本気で捜されちゃ困るからだろう。
「ごめん、悪かった。もっと早く謝りに来られたらよかったんだけど。」
なるべく誠実に見えるように言葉も態度も選ぶ。少しだけ共感応に好意をのせて。王の影として外宇宙へ再び出られるようになった時、最初に捜したのが彼女に関する情報だった。彼女の故郷ルサンウだけでなくいくつもの交易都市でフレミーが歌手ジュイ・エメロードとして知られていることがわかったときは本当にうれしかった。こっそり彼女の歌声を聞くためにわざわざ音響デバイスを買いに行った時の、サグのあきれ顔は忘れられない。でも、僕にとって音楽イコール彼女なんだ。
「君の歌は、外宇宙にいる間はよく聞いてる。」
「ありがと…。ねえ、また前のように会える?」
「いいけど、そんなにしょっちゅうは無理だな。君は構わないのかい。」
いきなり、彼女の手が伸びて、僕の手を握る。もう彼女は泣いてない。
「あんまり間が空くと、私がおばあさんになっちゃうわよ。リゼア人より私の寿命は短いんだからね。」
彼女の眼をのぞき込むふり。相手に「自分があなたを大切だと思ってる」と感じさせたいときはこうするとよし、と教えられたスキル。心を覗く必要さえないほどわかってる、僕はあのときやりすぎたのだ。影響は僕だけじゃなく彼女にも及んでる。彼女の気が済むまで、もしくは別の誰かが彼女の心を占めるまで、僕は彼女の要求をのまなきゃならない。そうするのが彼女に対する責任というものだろう。現に少女だったフレミーはもう大人の女性になっている。
飲み物が運ばれてきた。以前と同じように支払いは僕がする。ディクラで生活する費用くらい、リゼア人なら生きていれば当たり前に出せるのだ。ふいに彼女が聞いた。
「ねえ、アドルは宗能力者なの。」
「いや、まさか。まあ、うちのボスはそうだけどね。」
「そうなの? やっぱり、すごい力をもっていらっしゃる方なの。」
「僕から見ても桁違いに。」
「普段はどんな仕事をなさってるの。」
「うちのボス? 普段は、えー、そうだな、ディクラを衝突事故から守る、とか?」
「ああいうのが普段の仕事なの? 記録書いたり報告読んだりするとかじゃなく?」
「うーん、そういうのはどっちかっていうと僕たちの仕事かな。僕にはどうがんばっても宇宙船の衝突、防げないからね。やれる力のある者が重い仕事をするのがリゼア流。」
「そうなんだぁ。よかった。」
何が? 僕が宗能力者じゃないこと?
「アドルが、どこか私の知らないところで、すごく危ない仕事をしていたらいやだなあって思ってたの。」
「そういうことか。大丈夫、しょっちゅう会いには来れないかもだけど、君より先に死んだりしないよ。」
飲み物のグラスに添えられた彼女の手を、そっと上から握る。これ以上は危険だ、と僕の記憶が警戒し始めている。
宗能力者 : リゼア系における能力階級の最上位。王族ともアオとも呼ばれる。テレパシー・テレキネシス・テレポートの能力が全て高いだけでなく、予知能力があることが条件とされる。他星系のすべての種から「神」と認知される。




