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[悲報] 魔法使いを目指す俺、ツッコミ役に就任しました  作者: 仁科異邦


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ちょこ。ルナの場合

放課後。

学園の調理室は、珍しく静かだった。


「……」


ルナは、エプロン姿で流し台の前に立っている。

目の前には――


ボウル。

板チョコ。

砂糖。

そして、レシピ用の紙。


(……料理、初めて)


自覚はある。

自分が、こういうことに向いていないことも。


それでも。


(……渡したい)


それだけは、はっきりしていた。


ルナは深呼吸をひとつ。


「……よし」


包丁を持つ手が、わずかに震える。


「……切るだけ」


「切るだけ……」


板チョコに刃を当てる。


――コツ。


思ったより、硬い。


「……っ」


力を入れすぎて、

チョコが飛び跳ねた。


「……!」


慌てて拾い上げる。


(だ、だめ……

落ち着いて……)


周囲を見回す。

誰もいない。


だから余計に、

失敗したらどうしようという不安が大きくなる。



次は、溶かす工程。


鍋に湯を張って、

ボウルを重ねる。


(湯せん……

たしか、これで……)


チョコを入れて、

木べらでゆっくり混ぜる。


「……」


少しずつ、

少しずつ。


固かったチョコが、

とろりと形を変えていく。


(……溶けてる)


その変化に、

ルナの表情がほんの少し和らいだ。


「……できる、かも」


でも。


砂糖を入れるタイミングで、

また手が止まる。


(……入れすぎたら)


(……甘すぎたら)


(……そもそも、

 受け取ってもらえなかったら……)


胸の奥が、きゅっと締まる。


「……」


ルナは、

そっと砂糖を一さじだけ入れた。


「……気持ち、だから」


量よりも。

上手さよりも。



型に流し込む段階で、

また事件は起きた。


「……あ」


少しこぼれた。


作業台に、

チョコが一滴。


「……」


ルナは、

しばらくその滴を見つめてから――


ティッシュで、丁寧に拭いた。


(……失敗、しない)


(今日は……

ちゃんと、やる)


型に流したチョコを、

冷蔵庫へ。


扉を閉めた瞬間、

一気に力が抜けた。


「……はぁ」


壁にもたれかかる。


手はまだ、少し震えている。


(……緊張、しすぎ)


でも。


胸の奥には、

確かな温かさがあった。



翌朝。


小さな箱に、

丁寧に包まれたチョコ。


不格好かもしれない。

プロみたいじゃない。


それでも。


ルナは、それを両手で持って、

教室の前に立っていた。


(……渡すだけ)


(話すのは、

一言でいい)


ドアの向こうから、

聞き慣れた声がする。


「……」


ルナは、

小さく息を吸った。


初めての料理。

初めてのチョコ。

初めての、バレンタイン。


その一歩は、

とても小さい。


でも――

確かに、前に進んでいた。

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