学年代表戦・決勝 敵は愛に生きる戦士
人の少ない通路で、ユウトはふと足を止めた。
「……?」
そこにいたのは、
見覚えのない少女だった。
小柄で、華奢。
淡い色の外套を羽織り、長い髪を一つにまとめている。
目が合った瞬間、なぜか胸がざわついた。
(……可愛い)
直球で、そう思った。
「えっと……迷子?」
声をかけると、少女は首を横に振る。
言葉は、ほとんど発さない。
ただ、少し考えるように間を置いてから――
「……ファンです」
それだけ言った。
「え?」
聞き返す間もなく、
少女は小さく会釈し、そのまま通路の奥へ歩いていく。
「ちょ、ちょっと――」
追いかけようとしたが、
角を曲がった先には、もう誰もいなかった。
(今の……何だ?)
胸に残る、妙な引っかかり。
「ユウト?」
リアの声で我に返る。
「どうしたの、ぼーっとして」
「……いや、何でもない」
そう答えながらも、
あの少女の姿が、頭から離れなかった。
⸻
――学年代表戦・決勝。
闘技場は、これまでとは比べ物にならない熱気に包まれていた。
「決勝……か」
ユウトが呟く。
対面に立つのは、
東方秘術院代表。
相変わらず、輪郭が曖昧で、
そこに“いる”はずなのに、存在感が薄い。
「開始!」
合図と同時に――
視界が、歪んだ。
「っ!?」
踏み込んだはずの足が、
思った位置にない。
「何……!?」
攻撃が、届かない。
いや、届く前に“終わっている”。
背後。
「――っ!」
反射的に防御するが、
衝撃はない。
それなのに、
体勢だけが崩れる。
(攻撃……された?)
観客席がざわつく。
「今の、何?」
「当たってないよな?」
「いや……当たった、のか?」
⸻
ユウトは距離を取る。
呼吸を整える。
(北方とも、西部とも違う……)
時間も、力も、
これまでの感覚が通じない。
東方代表は、静かに立っているだけだ。
「……苦戦してるね」
どこからともなく、
そんな気配がした。
ユウトは歯を食いしばる。
(あの時の少女……)
一瞬、
決勝前に出会った“可愛い娘”の顔が脳裏をよぎる。
(関係、あるのか……?)
分からない。
だが――
このままじゃ、押し切られる。
決勝は始まったばかり。
だが、主導権は完全に――
相手の手の中だった。
ユウトは、息を荒くしながら距離を取っていた。
(……当たらない)
(いや、当たってるのに、
“攻撃された実感”がない)
視界の端で、東方秘術院代表が――
わずかに、肩を落とした。
「……ここまで、ですね」
その声は、はっきりと届いた。
「これ以上は――
攻撃できない」
「……は?」
観客席がざわつく。
「今なんて?」
「降参……?」
審判が一歩前に出る。
「確認します。
東方代表、戦闘続行の意思は?」
沈黙。
そして、東方代表は、
自ら被っていた外套の留め具に手をかけた。
カチャ、と小さな音。
「――正体を、明かします」
外套が、床に落ちる。
その瞬間。
「……え?」
ユウトの思考が、止まった。
現れたのは――
さっき、通路で出会った少女だった。
小柄な体格。
淡い色の髪。
控えめで、どこか人見知りな雰囲気。
「……ファンです」
そう言って、
消えるように立ち去った、あの子。
「……あ」
声が、漏れた。
「やっぱり……気づきましたか」
少女は、小さく微笑んだ。
闘技場に、ざわめきが残る中。
外套を脱ぎ捨てた少女――いや、東方秘術院の代表は、俯いたまま動かなかった。
「……これ以上は、無理です」
小さな声だった。
「好きすぎて……
もう、危害を加えられない」
「……は?」
ユウトの思考が、完全に停止する。
東方代表は、拳を握りしめて震えていた。
「最初に見た時から……
準備中の通路で、目が合った瞬間から」
「あなたを、
“壊す未来”が見えなくなった」
観客席が、ざわ……と揺れる。
「え、今なんて?」
「好きすぎて?」
「決勝で?」
⸻
その時。
「……おい」
東方側の控え席から、
呆れたような声が飛んだ。
「こいつは男だぞ」
一瞬の静寂。
「……」
「……」
「……は?」
ユウトの口から、間の抜けた声が出た。
東方代表は、
一拍遅れて顔を上げる。
「……はい、セシリアと呼んでください、ユウト様!」
素直に頷く。
「いや、男でしょぉぉ!?」
ユウトが思わず叫ぶ。
「いや、
“男だから”とか関係なくない?」
「あるだろ!?いや、そういうのも気にしない世の中か‥」
観客席が、完全に混乱する。
リアは頭を抱えた。
「……情報量が多い」
セリナは、深くため息。
「東方……
やっぱり厄介すぎる……」
ミアは小さく呟く。
「……でも、
本気だったんだね……」
⸻
東方代表――元・外套の少女は、
真剣な目でユウトを見つめた。
「私は、
結果も因果も壊せます」
「でも」
一歩、後ろへ下がる。
「あなたへの“好き”だけは、
壊せなかった」
審判が、震える声で宣告する。
「東方秘術院代表、
戦闘不能……いや、
戦闘意思喪失!」
「勝者――
ルミナス学園代表!」
歓声が上がる。
だがユウトは、
その場に立ち尽くしたままだった。
「……え?」
「え、俺……
何もしてないよね?」
東方代表は、
最後に小さく頭を下げた。
「……絶対にオトします。」
今度は、はっきりと。
そして――
逃げるように、闘技場を後にした。
⸻
残されたユウト。
「……」
「……」
リアが肩を叩く。
「おめでとう、優勝」
「……ありがとう」
セリナが一言。
「ユウト」
「はい」
「これ、
絶対あとで面倒になるわよ」
ユウトは、
遠ざかる背中を見つめながら、呟いた。
「……だよね」
学年代表戦は終わった?
しかし新たな火種が、確実に生まれていた。
次回予告
「……なんか」
「よく分かんないけど、
優勝しちゃったねー」
「うん」
「特賞、
お餅一年分だってさ」
「え?」
「……え?」
「それ、
食べきれないよね!?」
予想外、想定外、
ついでに説明不足。
波乱だらけだった
学年代表戦は――
なぜか無事、終了。
勝ち方も、理由も、
いろいろあったけど。
「まぁ、
終わったならいっか」
「終わった、のかな……?」
次回、
新しい風、到来。
レンアイに男とか、女とか、
そんなの関係ないよね。
……たぶん。
お楽しみにー




