決戦前組み合わせ抽選
――学年代表戦・組み合わせ抽選会場。
円形の会場中央。
宙に浮かぶ巨大な魔法陣が、ゆっくりと回転していた。
観客席には、各学園の代表と関係者のみ。
無駄なざわめきはない。
「……トーナメント形式、か」
ユウトは魔法陣を見上げて呟く。
「一発勝負が続くやつね」
セリナが腕を組む。
「運も実力のうち、ってやつだ」
ミアは少し緊張した様子で、指先を握っていた。
「……どこが来るんだろう」
⸻
壇上に立つ審判役の教師が、淡々と告げる。
「これより、学年代表戦の組み合わせ抽選を行う」
魔法陣の中心に、五つの光が現れる。
それぞれが、参加学園を示す印。
「抽選は自動。
意図的な操作は不可能です」
教師が杖を振る。
光が弾け、魔法陣が加速する。
⸻
最初の枠が、ゆっくりと固定される。
「第一試合」
一つ目の光が、はっきりと形を成す。
《王立ルミナス学園》
ユウトの背中に、視線が集まる。
「……来たね、むしろそんなな名前だったんだウチの学園」
リアが小声で言う。
次の瞬間、対面の枠が確定した。
《北方霊術学園》
空気が、わずかに重くなる。
「いきなりか」
セリナが息を吐く。
「噂の、“まだ負けたことがない”ところ」
ミアは小さく頷いた。
「……逃げ場、ないね」
⸻
続いて、他の枠も次々と決まっていく。
「第二試合」
《西部戦技学園》 vs 《中央総合学園》
「うわ、あそこ同士か」
誰かが小さく呟く。
「正面衝突だな」
「第三試合」
《東方秘術院》 vs 《南方連合学園》
この組み合わせが表示された瞬間、
会場の温度が一段下がった気がした。
「……嫌な組み合わせ」
「何が起きるか分からんぞ、あれは」
⸻
魔法陣が静止し、全ての枠が確定する。
教師が締める。
「以上が、初戦の組み合わせです」
「勝者は次のラウンドへ進出」
「敗者に、次はありません」
一瞬の沈黙。
そして、各代表がそれぞれ立ち上がる。
ユウトは前を見据えた。
「……最初が北方、か」
セリナが小さく笑う。
「分かりやすくていいじゃない」
リアは肩をすくめる。
「初戦からクライマックスだね」
ミアは、ゆっくり息を吸って言った。
「……うん。でも」
一歩、前へ。
「勝とう」
トーナメント表の一番上。
そこに並ぶ二つの名前が、静かに光っていた。
本学園 vs 北方霊術学園
学年代表戦は、
もう後戻りできないところまで来ていた。
――試合前夜。
学園の灯りは、いつもより早く落とされていた。
通路には人影も少なく、遠くで風の音だけが聞こえる。
ユウトは、自室の机に装備を並べていた。
杖。
簡易防護具。
使い慣れた、あのバット。
「……明日、か」
声に出すと、急に現実味が増す。
派手な強化も、新しい技もない。
いつも通り、点検するだけ。
「結局、やることは同じだな」
⸻
コンコン。
ノックの音。
「開いてるよ」
扉が開き、セリナが顔を出した。
「まだ起きてた?」
「そっちこそ」
セリナは部屋を一瞥して、ふっと笑う。
「ちゃんと準備してるじゃない」
「信用ないな」
「だって最初、
バットとヘルメットだけでダンジョン行こうとしてた人だし」
「……反論できない」
二人の間に、短い沈黙。
セリナは腕を組み、真面目な声になる。
「北方の代表、
正面から来るタイプじゃないと思う」
「うん」
「多分、
“隙を見せた方が負け”」
ユウトは頷いた。
「だからこそ……
いつも通りやる」
セリナは一瞬だけ、安心したように笑った。
「それでいい」
⸻
その後、廊下でリアと合流する。
「おー、まだ起きてた?」
リアは軽い調子だが、目は冴えていた。
「緊張してる?」
「……少し」
「だよねぇ」
リアは窓の外を見て言う。
「でもさ、
怖いって思えるの、悪くないよ」
「?」
「調子乗ってない証拠」
肩を叩いて、先に歩き出す。
「明日、
ちゃんと面白くしてよ?」
「試合を?」
「そう。
勝つのは前提で」
ユウトは苦笑した。
⸻
部屋に戻る途中、訓練場の前でミアを見つける。
一人で、ゆっくりと型をなぞっていた。
「ミア」
声をかけると、びくっとして振り向く。
「……あ、ごめん……うるさかった?」
「全然」
ミアは手を下ろし、少し迷ってから言った。
「……怖い?」
正直な質問。
ユウトは少し考えて、答える。
「怖いよ」
ミアは一瞬、俯く。
「……でも」
続ける。
「一人じゃない」
ミアは、ほっとしたように小さく笑った。
「……うん」
⸻
夜も深くなり、部屋に戻る。
ベッドに腰を下ろし、天井を見上げる。
(北方霊術学園……)
顔も、声も、ほとんど知らない相手。
けれど、確実に強い。
「……それでも」
ユウトは目を閉じる。
「やることは、同じだ」
外では、同じ夜空の下、
北方の代表もまた――
静かに準備をしているはずだった。
学年代表戦、初戦。
決戦は、もうすぐ。
次回予告
いよいよ始まる、
学年代表戦・初戦。
相手は――
北方霊術学園。
「まだ負けたことがない」
その実績は伊達ではない。
完璧な防御。
一切攻めない立ち回り。
減らない魔力、進まない試合。
――時間だけが、過ぎていく。
「……あのさ」
「これ、いつ終わるの?」
観客も、審判も、
そして対戦相手すら――
次第に呆れ始める。
やがて下される、まさかの判断。
相手校、精神的疲労により棄権。
そう。
北方霊術学園は――
尺稼ぎのプロ集団。
だからこそ、
確かに“負けたことはなかった”。
次回、
「勝たないのに最強」
学年代表戦、
思ってたのと違う方向へ進みます。




