学年代表戦までのお話
――大講堂。
学年全員が集められ、珍しく張りつめた空気が漂っていた。
壇上には学園長と、数名の教師。
ユウトは隣の席で腕を組むセリナを横目で見る。
「……なんか、嫌な予感しない?」
「する。こういう時はだいたい面倒な話」
ミアは周囲を見回し、小さく息を呑む。
「人……多いね……」
ざわめきが収まったところで、学園長が一歩前に出た。
⸻
「静粛に」
その一言で、空気がぴたりと止まる。
「本日は、学年代表戦についての通達だ」
その言葉に、どよめきが走る。
「今年も例年通り、各クラス・各学年から代表を選出をした。」
ここまでは、いつも通り。
だが――
「……ただし」
学園長は一拍置いた。
「今年から、形式が変わる」
一瞬、嫌な沈黙。
「これまでは学園内のみで完結していたが、
今年度より――」
学園長は淡々と言い切る。
「他学園の学年代表と、試合を行う」
⸻
「……は?」
誰かが素で声を漏らした。
「他学園って……あの?」
「え、合同演習じゃなくて?」
ざわつきが一気に大きくなる。
セリナが身を乗り出す。
「ちょっと待って、
それってつまり……本気の対外戦?」
学園長は頷いた。
「そうだ。
実力の“比較”ではない」
少しだけ、声が低くなる。
「競う」
空気が変わった。
ユウトは、喉が鳴るのを感じた。
「……他所の学園の、トップ同士ってことですよね」
「当然だ」
教師の一人が補足する。
「向こうも、学年代表だ。
手加減は期待しない方がいい」
リアが小声で呟く。
「うわ……これ、
いつもの学内イベントのテンションじゃないやつ……」
ミアは指先をぎゅっと握る。
「……勝たなきゃ、って事……だよね」
⸻
学園長は全体を見渡し、続ける。
「学年代表戦は、名誉でもある。
だが同時に――責任も伴う」
視線が、自然と前列に集まる。
「選ばれた者は、
この学園の“顔”として戦う」
ユウトの背中に、じわりと圧を感じる。
「……顔、ね……」
セリナが苦笑する。
「プレッシャー重すぎでしょ」
リアは肩をすくめる。
「でもさ、
ちょっと燃えない?」
ユウトは、前を見つめたまま答えた。
「……燃えるとか燃えないとか、
もう逃げられない感じがする」
ミアが小さく頷く。
「……うん」
⸻
学園長の声が締めに入る。
「詳細は後日通達する。
各クラス、各学年――」
一瞬、間。
「覚悟しておけ」
鐘の音が鳴り、集会は解散となった。
ざわめきの中、ユウトは深く息を吸う。
「……他学園か」
セリナが笑う。
「面倒だけど、
逃げ場はなさそうね」
リアは楽しそうに言う。
「今年、荒れそうだねぇ」
ミアは、少しだけ不安そうに――
でも、どこか決意のこもった表情で前を見ていた。
学年代表戦は、
もう“学内行事”ではなくなった。
――その夜、学園・上層会議室。
窓の外は闇。
灯りを落とした室内で、いくつもの光の板が宙に浮かんでいた。
「これから学園の簡単な挨拶をする」
そう先生は言い機器を操作する。
「……接続、完了です」
教師の一人がそう告げると、
光の板の向こう側に**“影”だけ**が映し出される。
顔は見えない。
輪郭も曖昧。
だが――それだけで、空気が変わった。
⸻
第一の影
背筋の伸びたシルエット。
一切の無駄がない立ち姿。
「こちらは北方霊術学園」
淡々とした声。
「今年の代表は、
“まだ負けたことがない”生徒です」
説明は、それだけ。
だが教師の一人が小さく息を呑んだ。
「……噂通りか」
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第二の影
椅子に深く腰掛け、片脚を組んだ影。
指先で机を叩く音が、やけに大きく響く。
「西部戦技学園だ」
軽い口調。
「うちはシンプルだよ。
勝てるやつを出す」
くつくつと、笑い声。
「今年の代表?
……壊し屋だ」
誰も笑わなかった。
⸻
第三の影
細く、静かな影。
声も低く、落ち着いている。
「中央総合学園」
「戦いは、勝率で測るものです」
一拍置いて、続ける。
「代表は、
勝つ確率が最も高い選択肢」
感情が、感じられない。
⸻
第四の影
立っているのか座っているのか分からない。
輪郭が揺らぎ、どこか現実感が薄い。
「東方秘術院」
囁くような声。
「代表は……
“向こうが勝手に崩れる”でしょう」
意味深な沈黙。
「説明は、不要ですね」
⸻
そして、第五の影
少し遅れて映る影。
姿勢は崩れているが、圧だけが異様だった。
「……南方連合学園」
低く、掠れた声。
「代表共――」
一瞬、間。
「楽しみにしていろ」
それ以上、何も語られない。
⸻
会議室の空気が、重く沈む。
「……以上が、参加学園です」
教師が静かに告げる。
学園長は、影たちを見つめたまま言った。
「なんか皆影の加工してるし、言ってる事よく分かんないし……まぁ荒れるな」
⸻
――一方、その頃。
ユウトは、なぜか胸騒ぎを覚えていた。
理由は分からない。
ただ、夜風がやけに冷たい。
「……なんかさ」
セリナがぼそっと言う。
「ヤバい人たち、来るよね」
リアは苦笑する。
「影だけでこれって、
顔出たらどうなるの恥ずかしがり屋さんだから無理か」
ミアは小さく拳を握った。
「……でも」
少しだけ、前を見る。
「負けるつもりは……ないよ!」
遠くで、どこかの学園の代表が――
同じ夜空を見上げていることを、まだ誰も知らない。
次回予告
ついに始まる――
学年代表戦。
他学園の代表たちが、
ついに同じ舞台へ集結する。
初めての顔合わせ。
交わされるのは、言葉よりも重い視線。
そして行われる、運命の組み合わせ抽選。
静まり返る会場で、告げられた名前。
「第一試合――
本学園代表 vs 北方霊術学園」
“まだ負けたことがない”と噂される、北方の代表。
その実力は――
その表情は――
まだ、誰も知らない。
だが確かなのは一つ。
学年代表戦は、
もはや学園内の催しではない。
次回、
初戦、北方学園。
物語は、
本当の競争へ――。
「間話多すぎだって‥」




