閑話休題 新キャラに質問!なぜなに編
先生のアパートは、夜の静けさに包まれていた。
机のスタンドライトだけが灯り、
モニターの青白い光が部屋を照らしている。
「……はぁ……はぁ……」
画面に映るのは、ユウトの戦闘ログ。
模擬戦。
ダンジョン。
魔力出力の推移。
「……この踏み込み……」
「無駄が……無さすぎる……」
カチ、カチ、とマウスを動かすたびに
先生の呼吸は荒くなっていく。
「才能だけじゃ……ない……」
「この成長速度……っ」
映像を一時停止。
一瞬の、決定的な動き。
「……っ」
指先が震える。
「……はぁ……」
「だめ……教育者として……」
そう呟いた、その瞬間。
背後で――気配。
「……?」
振り向く暇もなく、腕を掴まれる。
「――っ!?」
口を塞がれ、視界が暗転する。
黒い手袋。
無言の圧力。
「な……なに……!?」
「離しなさい……!」
抵抗は、数秒で封じられた。
「……っ」
意識が、沈む。
⸻
目を覚ましたとき。
「……ここは……」
冷たい床の感触。
教室特有の、わずかに埃っぽい空気。
「……?」
顔を上げて、息を呑む。
――見覚えのある教室。
隔離用の結界。
外部遮断の術式。
「……例の……教室……」
そして。
教室の奥。
椅子に座る――ヒロインの姿。
「……え?」
「……先生?」
視線が合う。
一瞬、互いに言葉を失う。
「ど、どうしてあなたが……!?」
「あなた……ここで何を……?」
ヒロインは肩をすくめ、苦笑した。
「それ、私が聞きたいんですけど」
「さっきまで普通に授業受けてたのに」
先生は周囲を見回す。
さぁ始まりました、
閑話休題! 幕間! なんでもアリ回!
「司会進行のリアでーす!」
ぱちぱちぱちー、と誰もいないはずの空間から拍手SE。
「……あれ?」
リアはきょろきょろと周囲を見回す。
「最近、見かけない人がいる気がするんだけど……」
少し間。
「……あー」
額に手を当てる。
「また作者忘れやがって……」
遠い目。
「ほんとさぁ、ちょっと出番空くとすぐフェードアウトさせるんだから」
「そりゃやさぐれもするよね……」
肩を落とし、深いため息。
「はぁ……」
気を取り直すように、パンッと手を叩く。
「はい! 気を取り直していきましょう!」
「今回はですねー!」
どこからともなく、カンペがスッと出てくる。
「新キャラが登場したということで!」
「せっかくなので――」
指をビシッと突き出す。
「質問タイムといきましょう!」
\わー!/(幻聴)
「ではでは、さっそく本人に来てもらいましょう!」
少し間を置いて。
「……あ、ちなみに」
「答えにくい質問は“教育的配慮”でカットされます」
ニコッ。
「あと、変な空気になったら全部作者のせいです」
堂々と責任転嫁。
「それでは改めて――」
咳払い。
「今回の新キャラさん!」
「今のお気持ちは!?」
マイクを向けつつ、ちらっと小声で。
「……どうせこの後、
変な属性とか暴露される流れなんでしょ」
ため息交じりに、にっこり。
「さぁ! 波乱必至の質問タイム!」
ユウトはいない。
それだけで、この場がいつもより危険なのは全員が理解していた。
「では改めまして」
司会席のリアがマイクを握る。
「腹を割って話そう回、続行でーす」
拍手はない。
視線はすべて、先生に集中している。
「先生」
「はい……」
若干声が上ずっている。
「では質問です」
⸻
「ユウトを見た第一印象は?」
「才能とか抜きで、個人的感想で」
先生は一瞬だけ目を伏せ――
そして、観念したように口を開いた。
「……危ない、と思いました」
「危ない?」
「ええ。あの子、無自覚で人の人生を狂わせる顔してます」
即答だった。
「放っておいたら、誰かが踏み越える」
「……私かもしれない、って」
教室がざわつく。
リアは無言で次のカードをめくった。
⸻
「ご自身の“くっころ属性”、自覚したのはいつですか?」
「先天性か後天性かもお願いします」
先生は深くため息をついた。
「……後天性です」
「昔はもっと、普通でした」
「ちゃんと威厳もあったし、負けても歯を食いしばるだけで済んでました」
一拍置いて。
「でもああいう子が現れるとですね」
「負ける想像をするだけで、頭が――」
「はいストップ」
リアが即座に遮る。
「これ以上は放送コードです」
⸻
「指導者として、一線は守れていると思いますか?」
「“今のところ”でもOKです」
先生は背筋を伸ばした。
「守っています」
即答。
「少なくとも、私は“先生”である限り」
「生徒に手を出すことはありません」
そのあと、少しだけ声が小さくなる。
「……出したいかどうかとは、別の話ですが」
「別にするな!」
ツッコミが飛ぶ。
⸻
「もし立場が逆だったら、どうなってました?」
「一般人として出会ってたら、です」
先生は少し考えてから、静かに答えた。
「多分……」
「最初は距離を取ります」
「危険だと分かってるので」
「でも」
目を逸らす。
「きっと、我慢に失敗します」
納得の空気が流れた。
⸻
「このまま行くと、自分がどうなると思います?」
リアの声は、さっきより少し優しい。
先生はしばらく黙っていたが、やがて苦笑した。
「……暴走はします」
「でも」
「自分で止めます」
視線を上げる。
「止められなくなった時は」
「誰かに殴ってでも止めてほしい」
リアはふっと笑った。
「その役、今のところ私ですね」
「助かります……」
⸻
リアはマイクを下ろし、締めに入る。
「というわけで」
「先生は自覚あり」
「理性あり」
「でも危険物指定です」
「以上、腹を割って話そう回でした」
最後に一言。
「――ユウトがいない回でよかったですね?」
先生は、答えずに天を仰いだ。
教室には、妙に穏やかな沈黙が流れていた。
次回予告
ユウトはその時くしゃみをしていた。
激闘のクラス対抗戦を経て、
学年代表としての特訓は――まだ終わらない。
「今日も地獄の特訓、いくぞー!」
気合十分のユウト。
だが。
「……あれ?先生は?」
教室は静か。
いつもなら確実にいるはずの、あの“くっころ先生”の姿がない。
代わりに貼られていた、一枚の紙。
《本日、体調不良につきお休みします》
「体調不良……?」
「昨日の討論会が原因じゃないよね?」
「絶対そうでしょ」
ざわつくヒロインたち。
「じゃあ今日の訓練、どうするの?」
その問いに答えるように――
扉が開く。
「代理教官を務めることになった」
現れたのは、別の意味で厄介そうな先生。
ユウトの表情が引きつる。
「え、ちょ、聞いてないんですけど!?」
次回、
『特訓再開、先生不在の代償』
――くっころは休んでも、試練は休めない




