専属ペアという言葉は、思った以上に重い
「では」
グレイヴ先生が、黒板を叩いた。
「本日より」
「実技授業は専属ペア制を導入する」
教室が、ざわつく。
「専属?」
ミアが目を丸くする。
「ずっと?」
「一定期間だ」
先生は淡々と言う。
「最低でも一ヶ月」
「長い!」
「一ヶ月も事故るの!?」
「机がもたない!」
⸻
「条件は一つ」
先生が続ける。
「本人同士の合意」
「合意制……」
ユウトは嫌な予感しかしなかった。
(つまり)
(今から)
(選ばれるか、選ばれないかの地獄)
⸻
「では」
「希望者は前へ」
一瞬の静寂。
そして――
「はい」
一歩、前に出たのは
ルナ・ヴァルシュタインだった。
「私、霧島と組むわ」
即断。
「はやっ!」
ミアが叫ぶ。
「理由は?」
先生が聞く。
「相性がいいから」
ルナは微笑む。
「少なくとも、結果は出る」
床は溶けたけど、とは言わない。
⸻
「異議あり」
次に前に出たのは
セリナ・クロフォード。
「霧島は」
「制御補助が必要なタイプ」
「合理的に考えれば」
「私が最適です」
「数字で殴ってきた!」
ミアが言う。
「殴ってない」
「事実を並べただけ」
⸻
「……えっと」
小さく手を挙げたのは
フィオナ・リース。
「私でも」
「安定は、できると思います」
声は小さいが、
内容が強い。
「実績あるもんね……」
ミアがぼそっと言う。
⸻
ユウトは、頭を抱えた。
「待て待て待て」
「俺」
「指名制って聞いてない!」
「聞いたわよ」
ルナが即返す。
「聞いてた!?」
⸻
「じゃあ」
ミアが前に出る。
「私も言うけど」
腕を組んで、ユウトを見る。
「ユウト」
「一番事故ってるの、私とでしょ?」
「自覚ある!」
「でもさ」
ミアは笑った。
「一番、修羅場くぐってるのも」
「私じゃない?」
静かになる。
「つまり」
「慣れてる」
「それ、誇っていいの?」
⸻
教壇で、先生が腕を組む。
「霧島」
「はい……」
「選べ」
「地獄か?」
⸻
視線が集まる。
・結果重視なら、セリナ
・才能なら、ルナ
・安定なら、フィオナ
・勢いなら、ミア
(重い)
(全部重い)
⸻
ユウトは、息を吐いた。
「……一つだけ」
「条件、付けさせてください」
「条件?」
先生が聞く。
「俺」
「制御、まだ不完全です」
「事故る可能性あります」
「だから」
ユウトは、全員を見る。
「一人に背負わせたくない」
沈黙。
⸻
「専属は」
「補助役として」
「実技内容によって」
「ローテーション」
「……それって」
ミアが言う。
「ズルくない?」
「安全策だ」
セリナが考え込む。
「合理的ではあるわね……」
ルナが、ふっと笑う。
「逃げ道も作ってる」
「褒めてないよね?」
⸻
フィオナが、静かに言った。
「でも」
「最初のペアは」
「決めないと」
ユウトは、少し考えて――
「……最初は」
一拍。
「フィオナ」
全員が、一瞬止まる。
「理由は」
「事故率が一番低い」
「真面目!」
「現実的!」
フィオナは、驚いていた。
「……いいの?」
「頼む」
「……うん」
小さく、でもはっきり頷いた。
⸻
「決まりだな」
先生が言った。
「霧島・リース」
「暫定専属」
ミアが、腕を組む。
「ふーん」
ルナが微笑む。
「次、私ね」
セリナが眼鏡を押し上げる。
「順番は管理するわ」
「重い!」
⸻
ユウトは、天井を見上げた。
(二学期)
(平穏とは)
(なんだったか)
でも。
フィオナが、隣で小さく言った。
「……頑張ろ」
それだけで、
少しだけ、安心した。
次回予告
「では」
グレイヴ先生が、訓練場の中央に立つ。
「本日の課題は」
「模擬災害対応」
嫌な単語が出た。
「想定は?」
セリナが聞く。
「街区内での魔力暴走」
「被害を最小限に抑えろ」
「抑えろ……」
ユウトが小さく復唱する。
(俺向いてなくない?)
次回、定専属、初出動




