フィオナ・リースは、声を出す前に考えてしまう
「……次は、私?」
夕暮れの教室。
フィオナは、少しだけ驚いた顔をした。
「そう」
リアが頷く。
「無理なら――」
「ううん」
フィオナは、小さく首を振った。
「話す」
その一言は、短かったけれど、
不思議と重みがあった。
⸻
「私」
フィオナは、机の端を指でなぞりながら話し始める。
「昔から」
「喋るの、遅いの」
「知ってる」
ミアが言う。
「でも」
「嫌じゃない」
フィオナは、少しだけ笑った。
⸻
「考えるのが」
「先に来ちゃう」
「言葉より?」
ユウトが聞く。
「うん」
「言ったら」
「どう思われるかな、とか」
「空気、変わるかな、とか」
ルナが、静かに頷いた。
「優しい子あるあるね」
「……優しいのかな」
フィオナは、首を傾げる。
⸻
「家ではね」
「私、末っ子だったの」
「兄と姉がいて」
「二人とも、よく喋る人」
ミアが想像して言う。
「賑やか?」
「すごく」
フィオナは笑う。
「だから」
「私は、聞く側だった」
⸻
「最初は」
「楽しかった」
「でも」
「だんだん」
声が、少しだけ小さくなる。
「私が何か言う前に」
「話が進んじゃう」
「気づいたら」
「決まってる」
セリナが、静かに言った。
「……居場所が、薄くなる」
フィオナは、頷いた。
⸻
「だから」
「私は、見てた」
「人の顔」
「声のトーン」
「言葉の裏」
ユウトは、息を呑んだ。
(だからか……)
⸻
「学園に来てからも」
フィオナは続ける。
「最初は」
「同じだった」
「でも」
視線が、ユウトに向く。
「あなた」
「変だった」
「え?」
「誰かが喋ってても」
「ちゃんと、待つ」
「私が言い終わるまで」
「割り込まない」
ミアが言う。
「それ、普通じゃない?」
「普通じゃない」
フィオナは即答した。
⸻
「だから」
「ちゃんと、話そうと思った」
「ちゃんと?」
「自分の言葉で」
フィオナは、胸に手を当てる。
「怖かったけど」
⸻
「フィオナ」
ユウトは、少し迷ってから言った。
「無理して喋らなくていい」
「……うん」
「でも」
「黙ってる=何も考えてない、じゃないよな」
フィオナは、目を見開いた。
「……それ」
「ずっと」
「言ってほしかった」
⸻
リアが、静かにまとめる。
「フィオナ・リースは」
「一番、慎重で」
「一番、観察している」
「だから」
「一番、見抜いている」
ルナが微笑む。
「怖いわね」
「……怖くないよ」
フィオナは、小さく言った。
「ちゃんと」
「好きな人のこと、知りたいだけ」
その言葉に、
教室の空気が、一瞬だけ止まった。
⸻
その夜。
ユウトは思う。
(この子も……強い)
声を上げない強さ。
見続ける強さだ。
次回予告
霧島ユウトの過去
‥あれ、フィオナってこんな子だったっけ‥




