セリナ・クロフォードは、正しくあろうとしすぎた
「……私、ね」
夕方の教室。
セリナは、少しだけ言い淀んでから口を開いた。
「正直」
「こういう話、得意じゃないわ」
「知ってる」
ミアが即答する。
「即答しないで」
「ごめん!」
空気が少し和らぐ。
でも、セリナの背筋はずっと伸びたままだった。
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「クロフォード家は」
「魔法学園では、それなりに知られている家系よ」
リアが静かに頷く。
「姉のリアは」
「昔から、何でも器用にこなした」
「盛るな」
リアが即ツッコむ。
「盛ってない」
セリナは即答した。
「私はね」
「ずっと、比べられてた」
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「魔力量」
「判断力」
「実戦適性」
セリナは、一つずつ指を折る。
「全部、リアの方が上」
「……それ、本人の前で言う?」
ミアがひそひそ言う。
「事実だから」
リアは、目を伏せた。
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「でも」
セリナは続ける。
「私は、諦めたくなかった」
「努力型?」
ユウトが聞く。
「ええ」
「才能じゃ勝てないなら」
「正確さで勝つしかない」
その言葉は、固かった。
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「ミスをしない」
「規則を守る」
「最適解を選ぶ」
「結果」
「“面白くない人”が出来上がった」
ミアが言う。
「それ、今のセリナじゃん」
「否定しない」
セリナは即答した。
⸻
「でもね」
セリナは、少しだけ声を落とす。
「正しくしていれば」
「いつか、評価されると思ってた」
「思ってた?」
フィオナが小さく聞く。
「思ってたの」
セリナは、苦笑した。
「でも」
「評価されるのは」
「派手な成功だけ」
沈黙。
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「私が失敗すると」
「ほら見なさいって言われる」
「成功しても」
「当然って顔をされる」
ユウトは、拳を握った。
「……理不尽だな」
「そう」
セリナは頷いた。
「だから」
「余計に、正しくあろうとした」
「それが」
「“残念”の正体」
⸻
「……セリナ」
リアが、初めて口を挟む。
「私」
「そんなつもりじゃ――」
「分かってる」
セリナは、即座に遮った。
「姉は、悪くない」
「ただ」
「光が強すぎただけ」
リアは、言葉を失った。
⸻
「ユウト」
セリナは、彼を見る。
「あなたが」
「私を頼る時」
「正確だから?」
「いや」
ユウトは即答した。
「一番、信用できるから」
セリナの目が、わずかに揺れた。
「……それは」
「評価じゃない?」
ミアが言う。
「評価ね」
ルナも微笑む。
フィオナが、そっと言った。
「セリナは」
「失敗しても、嫌いにならない」
その一言で、
セリナの肩から、少しだけ力が抜けた。
⸻
リアが言う。
「セリナは‥」
「正しさに縛られた」
「不器用な努力家」
「“残念”じゃないわ」
セリナは、深く息を吐いた。
「……ありがとう」
小さな声だった。
⸻
その夜。
ユウトは思う。
(この人も……強い)
耐える強さ。
折れない強さだ。
次回予告
フィオナ・リースの過去
静かな子が、なぜ一番“見ている”のか。




