リア・クロフォード、遅れてきた設定を連れてくる
二学期初日の教室は、微妙に落ち着かない。
夏休み明け特有のだるさと、空気のズレ。
「……席替え、してないよね?」
ミアが周囲を見回す。
「してないはず」
セリナが答える。
「じゃあ」
ルナが微笑む。
「気のせい、じゃないわね」
全員の視線が、教室の後方へ向いた。
見慣れない――いや、
見慣れていたはずの存在が、そこにいた。
「遅れてすみません」
落ち着いた声。
扉の前に立つのは、
セリナ・クロフォードとよく似た顔立ちの少女。
ただし、雰囲気は真逆だった。
「本日から、少し遅れて合流します」
「リア・クロフォードです」
ざわり、と教室が揺れる。
「……え?」
ミアが小声で言う。
「双子?」
「いいえ」
セリナが即答する。
「姉よ」
「え、姉!?」
「今までどこ行ってたの!?」
リアは微笑んだ。
「その質問、何度目かしら」
「少なくとも」
「物語的には、初めてね」
教室の空気が、一段階メタに傾いた。
⸻
「じゃあ」
担任が咳払いをする。
「リア・クロフォードは、しばらくこのクラスで――」
「お待ちください」
リアが手を挙げた。
「一点、訂正を」
全員が注目する。
「私は“編入”ではなく」
「“本来いるべき場所に戻っただけ”です」
「……ややこしい!」
ミアが即ツッコミ。
「でしょう?」
リアは涼しい顔だ。
⸻
リアは、空いた席――
よりにもよって、ユウトの斜め前に座った。
「よろしく」
振り返って、にこやかに言う。
「霧島ユウト、だったわね?」
「……ああ」
(この人、距離感が危ない)
「噂はかねがね」
「あなた、便利だそうじゃない」
「言い方!」
前方から、
ルナがくすっと笑う。
「初日から容赦ないわね」
「優しい方よ」
リアは即答する。
「姉に比べれば」
「……何を吹き込むつもり?」
セリナが睨む。
「事実を」
「それが一番厄介なのよ」
⸻
昼休み。
「ねえねえリアさん!」
ミアが詰め寄る。
「どうして今まで出てこなかったの!?」
「簡単な理由よ」
リアは頬杖をつく。
「作者が忘れてたから」
「言っちゃった!」
「隠す気もないわ」
ルナが興味深そうに言う。
「じゃあ、これからは?」
「ちゃんと出る」
「その分」
「全部、かき回す」
フィオナが小さく息を呑む。
「……怖い」
⸻
「それで」
リアが一人ずつ見る。
「あなたたち」
「霧島ユウトのこと、どう思ってるの?」
一瞬で、空気が凍る。
「初日でそれ聞く!?」
ミアが叫ぶ。
「姉の友人関係は」
「把握しておかないと」
「言い訳が雑すぎるわ!」
セリナが即反論。
リアは笑う。
「安心して」
「彼は、面白い観察対象」
「“今のところは”ね」
(今のところってなんだ)
ユウトは、強烈な違和感を覚えた。
⸻
放課後。
「一つだけ忠告」
帰り際、リアがユウトに言った。
「このクラス」
「思ってるより、騒がしくなるわよ」
「……今さらだろ」
「いいえ」
リアは微笑んだ。
「二学期は」
「動くから」
何が、とは言わなかった。
でも――
背後では、
四人のヒロインが、揃ってこちらを見ていた。
夏は終わった。
設定も、出揃った。
ここからが、
本当の二学期。
次回予告‥
「……言っておくけど」
放課後の廊下。
リア・クロフォードが、立ち止まって振り返る。
「私は、様子見とかしないタイプよ」
「宣言するタイプなの?」
ミアが即ツッコむ。
「ええ」
「姉の周りが騒がしい理由も」
「もう、だいたい分かったし」
セリナが眉をひそめる。
「何をする気?」
「整理」
その一言で、空気が冷える。
「誰を?」
ルナが楽しそうに聞く。
リアは、ゆっくり視線を巡らせて――
最後に、ユウトを見る。
「関係性、全部」
「待て待て待て!」
「そんな権限ないだろ!」
フィオナが小さく言う。
「……嵐、来るね」
「評価するとしたら」
リアが微笑む。
「このクラス、今が一番面白い」
「それ、褒めてる?」
「もちろん」
姉妹の視線が、交差する。
「二学期は」
「予定通りには進まないわ」
次回、
『リア・クロフォードの観察と介入』
静かな笑顔の裏で、
全部が動き出す。




