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魔法使いを目指す前に、まずツッコミ役に就任しました  作者: 三科異邦


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32/61

ヒロイン会議、夜は嘘を許さない

花火大会の会場から少し離れた帰り道。

人の流れはまだ多いけれど、さっきまでの喧騒はもう背中の向こうにある。


ユウトはいない。

「先に帰ってるね」と言って、少し照れたように手を振った。


残されたのは、四人。


「……静かだね」


フィオナが小さく言った。


「さっきまであんなに騒がしかったのに」

ミアが両手を頭の後ろで組む。


「静かな方が、本音は出やすいわ」

ルナは前を向いたまま言った。


「……やっぱり」

セリナが一歩遅れて続く。

「この流れ、来ると思った」


「だよね!」

ミアが即答する。

「花火のあとで何も話さないとか、無理!」



少し歩いて、街灯の下で自然と足が止まる。


「じゃあさ」

ミアが切り出した。

「正直タイム、いこ?」


「軽い……」

セリナが言いつつ、腕を組む。


「でも、必要ね」


「じゃあまず」

ミアはぐるっと三人を見る。

「今日の総評!」


「……今日だけ?」

ルナが意味深に笑う。


「今日“も”!」


「ふふ」



「私は」

ルナが先に口を開いた。


「楽しかった」

「それだけで十分」


「……それ、感想としてずるくない?」

ミアが突っ込む。


「いいのよ」

「嘘じゃないし」


ルナは肩をすくめる。


「彼、思ってる以上に強いし」

「思ってる以上に優しい」


「知ってる?」

「自覚、ほぼないわよ」


「それが一番厄介なのよね」

セリナが淡々と補足した。



「私は――」


今度はセリナ。


「信用してる」


「短っ!」

ミアが言う。


「十分よ」


セリナは視線を前に固定したまま続ける。


「力も、判断も」

「それ以上に、人として」


「……恋じゃなくて?」

ミアが探る。


「まだ、決めてない」


でも、と。

セリナは一瞬だけ言葉を区切った。


「もし隣に立つなら」

「彼がいい」


誰も笑わなかった。



「じゃあ、次」

ミアが少しだけ声のトーンを落とす。


「フィオナ」


「……私?」


「うん」


フィオナは立ち止まり、少し考えてから言った。


「私は……」

「安心する」


「一緒にいると」

「無理しなくていいって、思える」


「それって、結構重いよ?」

ミアが言う。


「うん」

「分かってる」


フィオナは、でも視線を逸らさなかった。


「でも」

「嘘つくより、いい」



三人の視線が、ミアに集まる。


「……なにその圧」


「最後よ」

ルナが促す。


「分かってるよ!」


ミアは大きく息を吸ってから言った。


「楽しい!」

「一緒にいると、単純に!」


「それってさ」

セリナが言う。

「一番、長続きするやつよ」


「え、まじ?」

「やった!」


「喜ぶところじゃないでしょ……」



少し沈黙。

夜風が、通り抜ける。


「……で」


ミアが、ぽつり。


「これ」

「どうする?」


「どうする、とは?」

セリナ。


「このまま」

「全員、同じ人好きで」


「今さら引く?」

ルナが笑う。


「引かない」


フィオナが、小さく首を振る。


「……うん」

「私も」


セリナは一度だけ目を閉じてから言った。


「じゃあ」

「フェアにいきましょう」


「賛成!」

ミアが即答。


「でも」

ルナが指を立てる。

「彼は、無自覚」


「そこが最大の問題よね……」


四人は、同時にため息をついた。



「でもさ」


ミアが夜空を見上げる。


「今日の花火」

「悪くなかったよね」


「ええ」

「綺麗だった」


「……うん」


フィオナは、小さく微笑んだ。


「きっと」

「忘れない」


花火は終わった。

でも、想いは始まったばかり。


そして――

ユウトは、まだ何も知らない。

月の終わり。

少しだけ涼しくなった朝。


「……久しぶりだね、学校」


校門の前で、ミアが伸びをする。


「夏休み明けって」

「なんか、空気違わない?」


「気のせいよ」

そう言いながら、セリナは一度だけ教室を見る。


「でも」

「人って、簡単には戻れないものよ」


「……戻るって?」

ミアが首をかしげる。


ルナは意味深に笑い、

フィオナは何も言わずにユウトの背中を見つめる。


「霧島くん」

「夏、楽しかった?」


「まあな」

「普通に」


その“普通”が、

もう普通じゃないことを、

本人だけが気づいていない。


席替え。

近況トーク。

そして、視線のズレ。


「ねえ」

「なんでちょっと距離近いの?」


「近くない!」

「近いわよ!」


夏は終わった。

でも――

何かは、確実に始まっている。


次回、

『二学期初日、教室の空気がちょっとおかしい』


日常に戻ったはずなのに、

心拍数だけが、戻らない。


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