ヒロイン会議、夜は嘘を許さない
花火大会の会場から少し離れた帰り道。
人の流れはまだ多いけれど、さっきまでの喧騒はもう背中の向こうにある。
ユウトはいない。
「先に帰ってるね」と言って、少し照れたように手を振った。
残されたのは、四人。
「……静かだね」
フィオナが小さく言った。
「さっきまであんなに騒がしかったのに」
ミアが両手を頭の後ろで組む。
「静かな方が、本音は出やすいわ」
ルナは前を向いたまま言った。
「……やっぱり」
セリナが一歩遅れて続く。
「この流れ、来ると思った」
「だよね!」
ミアが即答する。
「花火のあとで何も話さないとか、無理!」
⸻
少し歩いて、街灯の下で自然と足が止まる。
「じゃあさ」
ミアが切り出した。
「正直タイム、いこ?」
「軽い……」
セリナが言いつつ、腕を組む。
「でも、必要ね」
「じゃあまず」
ミアはぐるっと三人を見る。
「今日の総評!」
「……今日だけ?」
ルナが意味深に笑う。
「今日“も”!」
「ふふ」
⸻
「私は」
ルナが先に口を開いた。
「楽しかった」
「それだけで十分」
「……それ、感想としてずるくない?」
ミアが突っ込む。
「いいのよ」
「嘘じゃないし」
ルナは肩をすくめる。
「彼、思ってる以上に強いし」
「思ってる以上に優しい」
「知ってる?」
「自覚、ほぼないわよ」
「それが一番厄介なのよね」
セリナが淡々と補足した。
⸻
「私は――」
今度はセリナ。
「信用してる」
「短っ!」
ミアが言う。
「十分よ」
セリナは視線を前に固定したまま続ける。
「力も、判断も」
「それ以上に、人として」
「……恋じゃなくて?」
ミアが探る。
「まだ、決めてない」
でも、と。
セリナは一瞬だけ言葉を区切った。
「もし隣に立つなら」
「彼がいい」
誰も笑わなかった。
⸻
「じゃあ、次」
ミアが少しだけ声のトーンを落とす。
「フィオナ」
「……私?」
「うん」
フィオナは立ち止まり、少し考えてから言った。
「私は……」
「安心する」
「一緒にいると」
「無理しなくていいって、思える」
「それって、結構重いよ?」
ミアが言う。
「うん」
「分かってる」
フィオナは、でも視線を逸らさなかった。
「でも」
「嘘つくより、いい」
⸻
三人の視線が、ミアに集まる。
「……なにその圧」
「最後よ」
ルナが促す。
「分かってるよ!」
ミアは大きく息を吸ってから言った。
「楽しい!」
「一緒にいると、単純に!」
「それってさ」
セリナが言う。
「一番、長続きするやつよ」
「え、まじ?」
「やった!」
「喜ぶところじゃないでしょ……」
⸻
少し沈黙。
夜風が、通り抜ける。
「……で」
ミアが、ぽつり。
「これ」
「どうする?」
「どうする、とは?」
セリナ。
「このまま」
「全員、同じ人好きで」
「今さら引く?」
ルナが笑う。
「引かない」
フィオナが、小さく首を振る。
「……うん」
「私も」
セリナは一度だけ目を閉じてから言った。
「じゃあ」
「フェアにいきましょう」
「賛成!」
ミアが即答。
「でも」
ルナが指を立てる。
「彼は、無自覚」
「そこが最大の問題よね……」
四人は、同時にため息をついた。
⸻
「でもさ」
ミアが夜空を見上げる。
「今日の花火」
「悪くなかったよね」
「ええ」
「綺麗だった」
「……うん」
フィオナは、小さく微笑んだ。
「きっと」
「忘れない」
花火は終わった。
でも、想いは始まったばかり。
そして――
ユウトは、まだ何も知らない。
月の終わり。
少しだけ涼しくなった朝。
「……久しぶりだね、学校」
校門の前で、ミアが伸びをする。
「夏休み明けって」
「なんか、空気違わない?」
「気のせいよ」
そう言いながら、セリナは一度だけ教室を見る。
「でも」
「人って、簡単には戻れないものよ」
「……戻るって?」
ミアが首をかしげる。
ルナは意味深に笑い、
フィオナは何も言わずにユウトの背中を見つめる。
「霧島くん」
「夏、楽しかった?」
「まあな」
「普通に」
その“普通”が、
もう普通じゃないことを、
本人だけが気づいていない。
席替え。
近況トーク。
そして、視線のズレ。
「ねえ」
「なんでちょっと距離近いの?」
「近くない!」
「近いわよ!」
夏は終わった。
でも――
何かは、確実に始まっている。
次回、
『二学期初日、教室の空気がちょっとおかしい』
日常に戻ったはずなのに、
心拍数だけが、戻らない。




