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[悲報] 魔法使いを目指す俺、ツッコミ役に就任しました  作者: 三科異邦


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31/65

夏の夜、距離が近すぎ

夜の浜辺は、昼とは別の顔をしていた。

屋台の明かりが少しずつ落ち、残ったのは波の音と、遠くで準備される花火の気配。


「……始まりそうだね」


フィオナの小さな声。

空はまだ暗いままなのに、どこかそわそわしている。


「場所、どうする?」

ユウトが聞くと――


「前!」

「真ん中!」

「人混みは避けたいわね」

「……少し静かなところがいい」


四方向から意見が飛んだ。


「はいはいはい!」

「まとまらないやつー!」


ミアが手を叩く。


「じゃあ決まり!」

「いい感じに見えて、人少なめで、座れるとこ!」


「雑すぎる……」

セリナがため息をつくが、否定はしない。


結局、少し離れた岩場近くに腰を下ろすことになった。



「……で?」


ユウトが座った瞬間、違和感に気づく。


左右。

どちらも、距離が近い。


左にはルナ。

余裕の笑みで、自然に肩が触れる距離。


右にはフィオナ。

静かに座り、しかし逃げ場のない近さ。


(挟まれてるな、俺)


「なに?」

ルナが楽しそうに聞く。


「いや……」

「偶然にしては、配置が完璧すぎない?」


「偶然よ?」

「ねえ、フィオナ?」


「……うん」

小さく頷くが、目は合わない。


前方では、ミアとセリナが少し離れて座っていた。


「セリナ、どう思う?」

「これは?」


「……観察対象としては、興味深いわね」


「ひどっ!」



ドン。


一発目の花火が、夜空を割った。


「おお……」


ミアが素直に声を漏らす。

光が空に広がり、波間に反射する。


「綺麗……」

フィオナが空を見上げる。


その瞬間、ユウトは気づいた。

彼女の肩が、ほんの少しこちらに寄っている。


(……意識してるの、俺だけじゃないな)


ドン、ドン、と続く音。


「ねえ」

ルナが、花火を見たまま言う。


「霧島くん」

「花火、好き?」


「嫌いじゃない」


「即答しないのね」


「こういうのは」

「雰囲気込みだから」


「ふふ」

「大人な答え」


ルナの指が、砂の上でユウトの小指に触れる。

一瞬。

でも、確実に。


(やめろ、そのさりげなさが一番怖い)



「……あ」


今度は反対側。

フィオナが小さく声を出した。


「どうした?」


「音……」

「ちょっと、びっくりする」


次の瞬間、

大きめの花火が打ち上がる。


ドン――!


フィオナの体が、反射的にユウトに寄る。

腕が、軽く触れた。


「……ごめん」


「いいよ」

「花火、でかいしな」


「……うん」


でも、離れない。


(離れないんだ……)


ユウトは、どこを見ればいいのか分からなくなる。



前方から、ミアの声。


「ねえねえ!」

「これ、完全に囲まれてない!?」


「見ないふりしなさい」

セリナが冷静に言う。


「評価するなら」

「今が一番、霧島くんの心臓に悪いわ」


「それな!」


「聞こえてるぞ!」



花火は、後半に入っていた。

連続で打ち上がり、空が途切れなく光る。


その明かりの中で、

ルナがふっと距離を詰めた。


「ねえ」

「今日は、楽しかった?」


「……ああ」


「誰のおかげ?」


「……全員、だろ」


「逃げたわね」


ルナは笑う。


「でもいい」

「今日は、それで」


反対側で、フィオナがぽつり。


「私は……」

「今日の花火、忘れないと思う」


「なんで?」


「だって」

「こんなに近くで見るの、初めて」


言葉の意味は、花火だけじゃなかった。



クライマックス。

夜空いっぱいに、光が広がる。


ドン、ドン、ドン――!


歓声。

拍手。


その音に紛れて、

ユウトは気づく。


左右。

二人の手が、そっと近づいている。


触れるか、触れないか。


(……やばい)


そして――

次の瞬間。


ミアが叫んだ。


「はいストーップ!!」


「なに!?」

ユウトが驚く。


「手、つなぐなら宣言制!」

「抜け駆け禁止!」


「そんなルール聞いてない!」

ルナが即反論。


「……でも」

セリナが静かに言う。

「今は、全員見てるわ」


フィオナは、そっと手を引っ込めた。

少し名残惜しそうに。


花火は、最後の一発を残していた。


ドン――。


夜空に、大きな光が咲く。


その下で、

誰も言葉を発さなかった。



花火が終わり、

余韻だけが残る。


「……帰る?」

ユウトが聞く。


「うん」

「でも」


フィオナが、少しだけ微笑んだ。


「今日の夜は」

「多分、長くなるね」


「どういう意味だよ」


「ふふ」


答えは、なかった。


夏の夜は、まだ終わらない。

そして――

この関係も、まだ動き出したばかりだった。

花火の余韻が、まだ胸に残る帰り道。

波の音は遠ざかり、代わりに足音だけが並ぶ。


「……で」


最初に口を開いたのは、ミアだった。


「正直に言お?」


「今日の感想!」


「軽いわね……」

セリナが呆れつつも、否定しない。


「でも」

「必要な時間かもしれないわ」


「私は……」

ルナが少しだけ歩調を落とす。

「楽しかった、以上」


「評価、高すぎじゃない?」

ミアが笑う。


「それだけ、本気ってことよ」


少し間を置いて、フィオナがぽつり。


「……みんな」

「霧島くんのこと、どう思ってる?」


空気が、止まる。


「今それ聞く!?」

「聞くでしょ!」

「……逃げ場、ないわね」


視線が交差する。

誰も、冗談で済ませない。


「私は――」

セリナが静かに言う。


「彼を、信用してる」


「私は」

ルナが続く。

「放っておく気、ない」


「私は……」

ミアが少し照れながら。

「一緒にいると、楽しい」


最後に、フィオナ。


「私は」

「一番、近くにいたい」


誰も、否定しなかった。


花火は終わった。

でも――

本当の勝負は、ここから。


次回、

『帰り道、ヒロイン会議』


静かな夜に、

本音だけが落ちていく。

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