クラス分け、そして自己紹介という名の地獄
クラス分けの結果は、掲示板の前に貼り出されていた。
人だかり。ざわめき。
嫌な予感しかしない。
「……頼むから、普通のクラスで」
俺――霧島ユウトは、祈るような気持ちで紙を探す。
あった。
一年A組 霧島ユウト
「よし……A組だな。問題は――」
「ユウトー! あったあった! 一緒だよ!」
背後から、聞き覚えのある元気な声。
昨日、入学式で隣に座っていた少女だ。
「ほら! 一年A組! 運命だね!」
「軽く言うな!」
すでに嫌な予感が濃くなってきた。
教室に入ると、広めの空間に整然と並んだ机。
――のはずなのに、なぜか落ち着かない。
(妙に濃いな、この空気)
席に着いた瞬間、前から声が飛んでくる。
「また会ったね、霧島くん」
「……はい。偶然ですね」
入学式で距離感がおかしかった人だ。
すでに俺の名前を把握している時点で警戒レベルが上がる。
そして後ろ。
「霧島くんですよね~。同じクラスです~」
ゆったり、ふわふわした声。
……挟まれてるな、完全に。
「よし、深呼吸だ。まだ自己紹介前――」
その時、担任らしき女性教師が入ってきた。
「席につけー。じゃあ自己紹介から始めるぞー」
来た。
地獄が。
⸻
一人目:元気すぎるボケ
「じゃあ、前の席から順にいくぞ」
最前列。
勢いよく立ち上がったのは、昨日の隣の少女だった。
「はいっ! ミア・フィンレイです!」
声がでかい。
「魔法だいすき! 難しいことはちょっと苦手!
でも強い魔法ならいっぱい撃てます!」
……嫌な情報が多い。
「将来の夢は、すごーくすごい魔法使いになることです!
よろしくお願いしまーす!」
拍手。
教師がうなずく。
「……シンプルでいいな」
周囲が和む中、俺は確信していた。
(この子、絶対トラブルメーカーだ)
ミアは座るなり、俺の方を振り返る。
「ねえねえ、ユウトも同じクラスだよね!」
「今それ言う場面じゃない!」
⸻
二人目:距離感ゼロのお色気要因
次に立ち上がったのは、前の席の少女。
すっと姿勢を正し、微笑む。
「ルナ・ヴァルシュタインよ」
教室の空気が、わずかに変わった。
「魔法は攻撃系が得意。
趣味は人間観察、特技は――」
ちらっと、こっちを見る。
「……からかうこと、かしら?」
「自己紹介でこっち見る必要ある!?」
ざわつく教室。
「ふふ、冗談よ。
皆、これからよろしくね」
完璧な締め。
拍手が起こる。
彼女は座る際、わざと椅子を近づけてきた。
「ね、霧島くん」
「近いです」
「反応が楽しいの」
「俺のお腹の平穏を返してほしい」
⸻
三人目:完璧に見えて残念美人
次に立ち上がったのは、背筋の伸びた長身の少女。
「セリナ・クロフォードです」
凛とした声。
成績優秀、品行方正――そういう雰囲気が全身から漂っている。
「魔法理論と補助魔法を中心に学んできました。
無駄のない戦闘を目指しています」
おお、真面目。
「皆さんと切磋琢磨できれば――」
その瞬間。
ガタン。
足元の椅子に引っかかり、
盛大につまずいた。
「きゃっ!?」
教室が一瞬、静止する。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……問題ありません」
立ち上がるが、耳まで真っ赤。
(今の完璧な自己紹介、全部台無しだろ……)
彼女は無言で着席し、机に突っ伏した。
⸻
四人目:おっとりさんは規格外
最後に立ち上がったのは、後ろの席の少女。
ゆっくり。
本当にゆっくり。
「……フィオナ・リースです~」
間が独特だ。
「魔法は、回復と……制御が、得意です~」
制御。
その言葉に、教師が一瞬だけ反応した。
「えっと……皆さんと、仲良くなれたら……嬉しいです~」
ほわっとした拍手。
だが、俺だけは気づいた。
(この子、魔力の質がおかしい)
本人は気づいていない顔をしているが、
隠しきれていない。
間違いなく、危険なほど強い。
⸻
そして、俺
「次。霧島」
「……はい」
立ち上がる。
正直、もう疲れていた。
「霧島ユウトです。
得意なのは……状況判断、です」
教室が静かになる。
「目立たず、平穏に学園生活を送りたいと思ってます。
よろしくお願いします」
拍手。
……拍手?
(なんでだ)
席に座ると、四方向から視線を感じた。
「ユウト、ツッコミ上手そうだね!」
「今後もよろしくね、霧島くん」
「……さっきは助かりました」
「霧島くん、落ち着いてて安心します~」
俺は、天井を仰いだ。
(ああ……)
確信する。
このクラス、
絶対に平穏じゃない。
こうして一年A組は、
問題児・からかい魔・残念美人・天然規格外、
そしてツッコミ担当一名という、
非常にバランスの悪い布陣で動き出したのだった
自己紹介という試練を終え、
霧島ユウトがようやく迎える――はずだった、平穏な昼休み。
だが、静かに弁当を食べたいという願いは、
なぜか四方向から同時に崩れ去る。
弁当を覗き込む元気な声。
距離感ゼロでからかう視線。
完璧そうで完璧じゃないトラブル。
そして、なぜか全員が集まる机。
「昼休みって、こんな戦場だったっけ?」
恋愛フラグ?
友情イベント?
そんなものは一切自覚なし。
ただひとつ確かなのは――
ツッコミ役に、休憩時間は存在しない。
次回、霧島ユウト。弁当を守り切れるのか。




