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魔法使いを目指す前に、まずツッコミ役に就任しました  作者: 三科異邦


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29/53

セリナ・クロフォードは、完璧にやって最後にやらかす

「……霧島くん」


パラソルの影。

風通しのいい場所で、冷たい飲み物を手にしたセリナ・クロフォードが、静かに声をかけてきた。


「なに?」

「どうかした?」


「ええ」

「少し、付き合ってほしいことがあるの」


その口調は落ち着いていて、いつも通り理知的。

嫌な予感よりも先に、妙な安心感が来る。


(セリナの場合は……大事故じゃない。多分)


ユウトはそう判断した。


「いいけど」

「海入るのか?」


「いいえ」

「今日は“管理側”に回るわ」


その一言で、すべてを察した。



セリナ・クロフォードは、

このグループの中で最も常識的で、最も有能だ。


日差しの強さ、

水分補給のタイミング、

人混みの流れ。


「ミア、そろそろ一回上がりなさい」

「フィオナ、帽子は?」

「ルナ、水飲んでる?」


完璧な指示。

完璧な配慮。


「……ほんと頼れるな」


ユウトが素直に言うと、

セリナは一瞬だけ目を瞬かせた。


「そう?」

「当然のことをしているだけよ」


(そこがもうすごいんだって)


セリナは“できる”。

しかも、それを誇らない。



「霧島くん」


少し間を置いて、セリナが言った。


「さっきから気づいてる?」


「何に?」


「あなた」

「ほとんど休んでない」


ユウトは一瞬言葉に詰まる。


「まあ……ツッコミ役だし」


「それ、役割じゃなくて性分でしょう」


図星だった。


「……みんなが楽しくしてるならいいだろ」


「そういうところ」


セリナは、小さくため息をついた。


「あなた、自分のこと後回しにしすぎ」


「そんな大げさな」


「大げさじゃないわ」


きっぱりと言い切る。


「だから――」


セリナは、少しだけ言い淀んでから続けた。


「今から少し、あなたの番にしましょう」


「……は?」



「泳ぐわよ」


「急だな!?」


「安全確認済み」

「潮の流れも穏やか」

「時間も短め」


「いや、そういう問題じゃ――」


「霧島くん」


セリナが、まっすぐユウトを見る。


「たまには、誰かに任せなさい」


その視線には、逃げ道がなかった。


(……この人、説得力が暴力的だ)



二人で入った海は、思ったより静かだった。

少し沖に出るだけで、人の気配が薄れる。


「どう?」

「落ち着くでしょ」


「……まあ、確かに」


波に身を任せながら、セリナは続ける。


「あなたね」

「普段、強いのに隠してるでしょう」


「……何の話だ」


「分かるのよ」

「できる人間は、同じ匂いがするから」


ユウトは苦笑した。


「買いかぶりすぎだ」


「そう思ってるのは、あなただけ」


セリナは少しだけ間を置いて、言った。


「私ね」

「完璧に見られるの、慣れてるの」


「……うん」


「でも、それって」

「失敗できないってことでもあるのよ」


ユウトは、黙って聞いていた。


「だから今日は」

「少しくらい失敗してもいい日だと思ってた」


(嫌なフラグ立てるなよ……)



次の瞬間だった。


「……あ」


セリナの足が、滑った。


「セリナ!」


ユウトが即座に手を伸ばす。

だが――


「大丈夫よ、浅――」


言い終わる前に、

予想外の段差。


バランスを崩したセリナの体が、

ユウトの方へ倒れ込む。


「っ――!」


抱き止める。

反射。

迷いなし。


結果。


二人とも、完全に水没した。



「……ぷはっ!」


顔を上げた瞬間、

セリナと目が合う。


距離、ゼロ。


「……」


「……」


数秒。

波の音だけ。


「……霧島くん」


「……はい」


「今のは」

「完全に、私のミスね」


「そうだな」


「……助けてくれて、ありがとう」


その声は、少しだけ震えていた。


「有能でもさ」

「転ぶときは転ぶんだな」


ユウトがそう言うと、

セリナは一瞬だけ驚いて――小さく笑った。


「……そうね」


「失敗、悪くないわ」



浜辺に戻ると、

ミアが指を差して叫ぶ。


「びしょびしょじゃん!」

「なにやったの!?」


「事故よ、事故」

セリナは即答した。


「珍しっ」

ルナが意味深に笑う。


フィオナがタオルを差し出す。


「……大丈夫?」


「ええ」

「でも――」


セリナは、ユウトをちらっと見る。


「今日は、ちょっとだけ楽しかったわ」


「それは良かった」


(……破壊力、遅れてくるタイプか)


完璧で、冷静で、理知的。

だからこそ、

一瞬の失敗が、妙に心に残る。


こうして――

セリナ・クロフォードの海は、

静かに、しかし確実に印象を刻んだ。

次回予告!


「……というわけで」


浜辺に円になって座る四人。

タオル、飲み物、そして妙な“反省会”の空気。


「総評いきまーす!」

ミアが元気よく手を挙げた。


「まずルナ!」

「強すぎ! 危険! 霧島くんが可哀想!」


「褒め言葉ありがとう」

ルナは余裕の笑み。

「狙って落とすのが美学よ」


「次、セリナ!」

「完璧からの転倒、ギャップ点高し!」


「……やめて」

「評価しないで」


「でも正直、良かったわよ」

ルナがそう言うと、

セリナは少しだけ視線を逸らした。


「うん……」

フィオナが小さく頷く。

「助けてもらってるところ、綺麗だった」


「え、そこ見る?」

ミアが即ツッコむ。


「じゃあ最後」

「フィオナは?」


一斉に視線が集まる。


「……まだ、何もしてない」


「それが一番怖いんだって!」

「静かな人ほど後半強いんだから!」


「そんなこと……」

フィオナは慌てて手を振る。


「でも」

「今日は、みんな楽しそうで」


「それを、ちょっと離れたところから見るのも」

「嫌いじゃないかな……」


その言葉に、三人が顔を見合わせる。


「……あー」

「来るね、これは」


「次」

ルナが微笑む。

「確実に、静かに刺しに来るわ」


「霧島くん、大丈夫かな……」

セリナがぽつり。


「多分、無理!」

ミアが断言した。


波の音は穏やか。

夕焼けは優しい。


そして――

嵐は、最後にやってくる。


次回、

『フィオナ・リースは、何もしないまま心を持っていく』


静かで、優しくて、

一番逃げ場がないやつ。


‥感想とか評価欲しいなー


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